62. 拳者の一喝
前回のあらすじ!
大変です! ザラアストゥラ寺院がゴーレムさん達に襲われています!
シルちゃん似の泥棒さんまで現れるし、もうメチャクチャです! リオさん、サジータさん、何とかして下さい~!
魔王城にて──
「実験がしたい?」
聞き返すディヒターに、ギガは大きくうなずいた。
「一人でできる? 平気なの?」
「だいじょうぶ」
ディヒターはしばらく考え込むふりをした後、にこやかに言った。
「それじゃあやってごらん。必要な道具はリッキーさんに頼んでみよう」
こうして、ギガによる「その辺の土からゴーレム作れるのか実験」が始まった。その舞台に選ばれたのが──
ザラアストゥラ寺院中庭
「何だこいつら!?」
「どんどん増えるぞ!」
実験は成功であった。次々誕生するゴーレムに焦る僧侶たち。そんな彼らに一人の女が檄を飛ばす。
「怯むなぁ! お前らそれでもグレイゾ一門か!」
リオの一喝に、浮足立っていた僧侶たちは一斉に落ち着きを取り戻した。
「そうだ……プニュスタージの正義は我々にある!」
「うおおおおおおおおおお!!」
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「なぁにあいつら盛り上がってんのよ? 状況分かってんの?」
泥棒さんは不思議そうに言います。それにしてもシルちゃんそっくりですねぇ、顔は全然違いますけど喋り方とか雰囲気が特に。
「……何じろじろ見てんのよ」
「見張っとけ、って言われたので」
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「じゃあシル子ちゃんは陽動ね」
「は? 何で私が?」
ディヒターの提案だった。ギガが直接種を撒きに行くのは難しいため、俊敏なシルフィーに白羽の矢を立てたのだ。
「私カンケーないじゃん! あんたが行きなさいよ」
「いやいや、聖職者とかマジ天敵だから僕。ギガちゃんの手伝いしてあげてよ~」
「嫌だよ、私は捕まってもいいっていうの!?」
「そんなわけないじゃん! シル子ちゃんを信頼してるからこそ頼んでるんだよ?」
「よくもそんなっ、心にもないことをペラペラとっ……」
口では強がっていても、気持ちは正直である。頼りにされて承認欲求が満たされまくりニヤケ顔になっている。
「シル子ちゃんならやれるって! 何ならついでに神器とか盗んできちゃったら? よっ、世紀の大怪盗!」
「な、何よ~……お、お姉様はどう思う~?」
「ん? いいんじゃない?」
サラメーヤの適当な返事によりシルフィーの心は固まった。
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そして欲をかいた結果がこの有様である。サジータの矢“紫闇の追跡者”によって影を床に縫い付けられて身動き取れなくなっていたのであった。
「どうしてこんなことするんですか?」
かつて“チギリちゃん”と呼んで慣れ親しんでいた少女の問いかけにも、シルフィーの良心は揺れなかった。しかしただ──
「……私が分からないの?」
自分がもう“シルコ”の顔でないことは忘れて、友達だった少女が自分のことを忘れていると思いこんでしまっていた。
「ええと……どこかでお会いしましたっけ……?」
根底にあったのは嫉妬だった。彼女は自分と違って、周りの人間が一人いなくなったことぐらい誤差なのだろうと、人に恵まれた環境にいるのだろうと。
「……だったらもういいよ」
「え?」
ウリたんが身震いします。足元で風が渦を巻いていました。すると泥棒さんの立っている床が、メリメリと音を立て始めたのです。
「サヨナラ」
泥棒さんは、なんと、床ごと引っぺがして飛んでいってしまったのです! なんて強引な……
「感心してる場合じゃありませんでした! 追いかけないと……」
しかし、もう泥棒さんの姿は見えなくなっていました。床にパックリ丸い穴が空いていました。
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「あれあれ、圧されてやせんか? ギガさん?」
スーミンがギガの実験に同行しているのにももちろん理由がある。彼の奏でるギターの音色により、ゴーレムたちの攻撃性をコントロールしているのだ。
「まだ大丈夫。もうちょっと頑張ってお願い」
「マジですかい……面倒臭がらずに断ればよかった……」
彼もディヒターに協力を要請された時、一度は断ったがその後もしつこく頼まれたので、「さっさと引き受けた方が面倒が少ない」と判断したのだ。
「こんなに強いんですなぁ。……手ぇ出さなくてよかった」
ゴーレムたちを次々と撃ち砕く僧たちを見て、呆れたように呟いた。“種”さえ無事で土があればいくらでも再生可能とはいえ、このままではジリ貧ではないかとの不安もあった。
「いけるんですか、ホントに?」
「うん、まだお勉強足りてないだけ」
「はぁ……そうですかい。あっしはいざとなったら一人で逃げやすからね?」
「わかった」
ひとまずはギガを信じて残ってみることにしたが、寺院の屋根から自分たちを観察しているあの女性のことも気がかりであった。
「ギター男か大女……どっちが操ってる?」
サジータはギガとスーミンを注意深く観察する。ここまでの観察から、操っている人間を止めれば再生しなくなることは理解していたが──
「人間相手に撃つのは流石に……なぁ……」
彼女の倫理観が弓を引く手を止めていた。中庭で戦う僧侶たちに目を移す。リオを中心とした統率の取れた動きに舌を巻いた。
「派手に動くな! 近くの者と協力しつつ一体ずつ確実に破壊しろ!」
リオは他の者に指示を飛ばしつつ、舞いのごとくしなやかに動きに、全霊の力を込めた拳を乗せ、一撃で撃ち砕く。そして破壊されたゴーレムから丸い粒が土に落ち、そこから再び──
「分かったぞ、あの丸いのが原因だな!」
リオも気づいたようだ。彼女の狩り方はサジータとは違う、“直感”である。
「だったらこーして……」
ゴーレムの足元に深く沈み込み、足のバネをフルに使って顎を殴り上げる。ゴーレムの首は遥か高く吹き飛ばされた。
リオの攻撃はまだ終わっていない。これは“一撃目”である。
「こうだ!」
そのまま降下する勢いを利用して、穴の開いた首の上から拳を突っ込んだ。ゴーレムの体はそのまま真っ二つに割れ、そして
「玉取ったりィー!」
露出した“種”を勢いそのままに叩き割ってみせた。その割れた種から再生が始まることはなかった。
「ほらね、読み通り! あのタマ壊したら再生しないぞ!」
終わりの見えない戦いに見えた一条の光、僧侶たちは活気づいた。
「師範に続けェええええ!」
「うぉおおおおおお!!」
しかしこの状況は彼らにとっては好ましくないものだった。スーミンは冷や汗が止まらなくなっていた。
「ちょっと……ヤバいんじゃないですかい?」
焦るスーミンとは対照的に、ギガは平然としている。
「だいじょうぶ」
「いや、そう言われやしてもね……」
「お勉強終わり」
するとどうだろう、ゴーレムたちは、先程までのただ目の前にあるものを殴るだけの単調な動きではなくなっていた。
「なんとしなやかな動き! 攻撃が読めない!」
舞うような動きに僧侶たちは翻弄される。そしてそこから繰り出されるのが──
「ぐはぁ! 肋骨の5,6本が!」
「ほとんど全部じゃないかー!」
全霊を込めた一撃。彼らは戦いながら、ゴーレムたちの動きにある人間の面影を見た。
「これはまるで師範の──!」
リオの動き、そのものだった──
「面倒なことになってきたね……リオちゃん、ここから正念場よ……」
再生を止める手段は見つかったが、この混戦の中サジータは狙いを定めあぐねていた。僧侶を誤射してしまうことだけは避けたかった。
「“RAider”なら種ごと砕けるけど……誤射のリスクを考えると“chaIN”の方が……」
そう言いながら紫色の細い矢を構えた。その時だった──
「サジータさ~ん!」
「え?」
思わず気のゆるみそうな可愛らしい女の子の声が聞こえてきたのだ。その時彼女の体は浮いていた。
「ど、どうしたの?」
「見よう見まねで風を……そうじゃないんです! さっきの泥棒さんに逃げられちゃって……」
サジータも魔法の風に乗って飛び去っていくシルフィーを目撃していた。しかし何より驚いたのは、チギリの「見よう見まねで」という言葉だった。
「繊細……! 利用するみたいで気が引けるけど……緊急時だし仕方ないか。チギリちゃん、ちょっと頼まれてくれる?」
「え? あ、はい、何でもどうぞ!」
逆転の秘策……! サジータに閃く……!
続く!




