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61. ザラアストゥラ寺院、炎上!

前回のあらすじ!

お寺でリオさんに修行を付けてもらうチギリちゃん。そんな中、リオさんが何やら不穏な気配を感じ取って……?

 そして夜、リオさんが子どものころ使っていたという離れの小屋を貸していただけることになりました。


 「お寺に泊まるのって初めてですよ! ウリたんは?」

 「ぶっぶ」(初めてに決まってるぜ!)


それもそうです。明日は早起きなのでさっさと寝ることにいたしましょう。チギリちゃんは布団と枕が違っていてもすぐに寝られるタイプです。


そして、チギリちゃんが眠り込んでからしばらくのこと


 「ぶぃ! ぶぃ!」(嬢ちゃん、起きろ!)


ウリたんが前足で私をゆすっていました。時計はまだ夜中の2時ですが……ウリたんがこんな時間に起きているなんて珍しいです。


 「どうしたんです? 約束は4時ですよ……」

 「ぶひゅい!」(外が燃えてる!)

 「なぬ!」


引き戸を開けて外を確認すると、お寺の庭がいつぞやのように真っ赤な炎に包まれていました。お坊さんたちが懸命に魔放水しています。


 「これは一体……まさか私の内なる†インフィニティヘルフレイム†が……」

 「チギリちゃん、中にいなさい!」


どこからか飛び降りてきたリオさんが私を小屋の中に押し込めました。ここは安全なのでしょうか、ここは燃えないのですか?


 「私は怖いです!」

 「ぶひん……」(焼き豚になりたくねぇよ……)


 「風上だしこっちまでは来ないと思うよ。それより気になるねぇ……」


そうですか。それならいいんですけど……


 「……って、誰ですか!?」

 「ぶひ!」(その声は!)


小屋の隅っこに、弓と矢筒を持った知らない女性が突っ立っています。あからさまに不審者です。しかしウリたんはその人に飛びついていきました。


 「おー、よしよし、ウリ坊元気にしてたか?」

 「ウリたん、その人知ってるんですか?」


ウリたんが知らない人に撫でられています。いやまあ、ウリたんは割かし誰にでもすぐ懐くチョロイノシシですけど……


 「ぶきゅい」(こいつは良い人間)

 「そうなんですか? ウリたんがそう言うなら……」


ウリたんの嗅覚は完全に野生を忘れ去ってしまっていますが、「良い人」とまで断言するのはこれが初めてです。ここはウリたんを信じてみましょう。


 「お初だねチギリちゃん、私はサジータ」

 「ああ、これはどうも……何で私の名前知ってるんです?」

 「旦那に聞いたんだ……おっと、呑気にしてる場合じゃなかった」


サジータさんの旦那さん、私の知ってる人なのでしょうか……サジータさんは質問をはさむ暇もなく話を続けます。


 「燃え方を見るに、魔法瓶でも投げ込まれたかな」

 「お湯で燃えるんです?」

 「お湯? 何でお湯?」

 「だって魔法瓶って……」

 「魔法瓶ってのは魔力が閉じ込められた瓶のことさ。今回は炎の魔法が入ってたんだよ、水じゃなくてね」


文字通りの意味ですか、水を入れてスイッチを押すだけでお湯ができるアレではないんですね。


サジータさんは扉の隙間から庭の様子を観察します。


 「かなり苦労してるみたいね。範囲を限定して、持続力に強めに振ってる感じか」

 「そんな細かい調節が……」

 「てことは、消火に人員を裂かせて本殿の方を手薄にするのが狙いかな……」


この短い時間にそこまで判断してしまうとは! このサジータさん、只者ではありませんね……


 「本殿を燃やさなかったことから考えると……何か盗ろうとしてんな? 獲物の動きは大体読めた」


サジータさんがハンターの眼になりました。カッコいいですねぇ。


 「君、ここの御神体の場所って知ってる?」

 「神様ですか? それなら知ってますよ!」


さっきリオさんとお話したところですね! 私なら案内できます!(最悪ウリたんの鼻に頼れば……)



────────────



 「ハー、案外チョロかったなー、この程度なら小細工なしでも簡単に忍び込めたわ」


一人の少女が、いや、少女と見まごうような成人女性が調子よくつぶやいた。コソ泥といえば彼女、彼女といえばコソ泥、その名もシルフィー=アランドロン!


 「それじゃあ神器とやらをサクッと盗んで……どこにあるんだろ」


シルフィーは罰当たりにもプニュスタージの木像をまさぐっている。神器を盗むといっても、それがどんな物かもどこにあるかも知らない。ただコソ泥の本能だけが彼女を突き動かしていた。


 「……まあいっか。これごと持って帰ろーっと」


シルフィーの勘が告げている、これがこの場で一番価値のある物だと。プニュスタージ像を風で浮かせて持ち帰ろうとする。


 「帰りまで魔力もつかしら。……ん?」


像の右手が少し動いた気がした。シルフィーは少し不安になってきた。


 「……うぇ!? 誰か来る!」


シルフィーは像を一旦台座に戻し、大慌てで天井に張り付いた



 「ぶひぶひ!」(こっちだぜ!)

 「ここですよ、サジータさん!」


急いでさっきの像があった部屋にやって来ました! しかしそこには誰もいませんでした。


 「あれー、誰もいないね。ハズレちゃったかな?」


サジータさんは弓に矢をあてがいながら言いました。せっかく戦闘態勢なのに無駄足に終わったみたいです。


 「しょうがないね。別のところも見てみましょう」

 「はい!」


部屋から出て戸を閉めた次の瞬間、サジータさんは戸に向けて矢を放ちました。


 「え!? 何してるんですか!?」

 「慎重な作戦立てる割に軽率な行動すんだね、君」


私のことですか? と一瞬だけ思いましたが、どうも私に向けて言っているわけではないようです。


 「さてと、バチアタリな盗人の御尊顔拝ませてもらおうか」


そう言いながら再び部屋の中に戻っていきました。私には何が何だかです。


像の目の前で、黒い鎖に縛られた女の子が一人突っ立っていました。よく見ると足元にさっきの矢が刺さっています。


 「何だよアンタら……げっ……」

 「君の影の内側まで深~く刺さってるからね、もう逃げられないよ。観念しな」

 「何それズルい! 妙な道具使いやがって……」


どっかで聞き覚えのある声と喋り方です。……どこかで会ったことありましたっけねぇ。


 「他にも仲間いるよね? どこ?」

 「けっ、誰が言うもんですか……」

 「言ってくれたら見逃してもいいけど」

 「向こうの山から見張ってるわ!」


あっさり仲間売りましたよこの人! このシルちゃん似の人の仲間がいるところは王都側から見て、お寺より一個手前の山ですね。


 「そう。それじゃあまだ聞きたいことあるからじっとしててね」

 「え、ちょっと! 約束と違う! 卑怯者!」


泥棒さんが言うセリフではありません。サジータさんは早速、戸の隙間からスコープで山の頂上の方を確認しています。


 「デカい女……と、ギター? 持った男発見……あの二人で間違いないん……」

 「ギガー! そっちバレたー!」


ばれたっていうか、この人がばらしたんですけどね。それにこの距離から叫んでも聞こえないと思うんですけど。


 『ん。わかった』


何か聞こえましたよ? 泥棒さんの方から聞こえてきた気がするんですが。


 「何だあの男、弾きはじめたぞ……? 女の方は……踊ってる……?」


サジータさんがどんな光景を見ているのか分かりませんが、ちょうど泥棒さんが叫んだタイミングです。まさか聞こえてるんです……?


 「何して……あぁ、そっちかよ!」

 「どうしまし……」


いえ、聞かなくても分かります。外にいるお坊さんたちの「何だこれは!?」って声が聞こえるんですから。


 「ははっ! 早く助けに行かないとみんな踏み潰されるわよ!」


庭の土が炎をまといながら隆起していき、3mはあろうかという土人形が次々に生まれてきました。


 「な、何ですかあれ?」

 「ゴーレムか……でもいつの間に……」

 「のんびり見てていいのかな~? まだまだ生まれるよ!」


泥棒さんは身動き取れない状態のまま私たちを煽ってきます。身動き取れないくせに……!


 「魔法瓶の中に“種”も仕込んでたのか……チギリちゃん、そいつのこと見張っててよ!」

 「あ、はい!」


サジータさんはお庭に飛び出していきました。一体どうなっちゃうんです!?


続く!


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