57. その本棚は何も知らない
前回のあらすじ!
カプリコーン夫妻の素晴らしい夫婦愛を見せていただきました!
ゴードンさんもこれでシャキッとするはずですよ。そしてさっそく、ゴードンさんからあることをお願いされました!
「ところでチギリよ、お前さん、あの書斎に入って何ともなかったのかね?」
ゴードンさんは少し泣いた後すぐに落ち着きを取り戻しました。言われてみれば片頭痛がどうとか言っていましたが何ともありません。
「ですねぇ。オバケは怖かったですけど」
「そうか……理由は分からんが……お前さん、魔法は得意かね?」
「へ? 得意かどうか分かりませんけど……魔力量も多いし魔法屋の娘だし……」
「娘ではないだろ」
ラスターさんが何か言ってますね。しかしそんなこと聞いてどうするつもりでしょう? あまり他の人と比べたことがありませんからよく分かりません。
「そうかね。魔法の覚えは早い方かね?」
「そうですねぇ……やり方さえ教えてもらえたら一発でできますけど……」
これってやはり天才なのでは? 冷静かつ客観的に考えると、私は魔法の天才のような気がしてきました。
「素晴らしい! 一つ覚えてほしい魔法があるんじゃが……」
「新しい魔法教えてくれるんです?」
そして再び、あのオバケだらけの書斎に連れ込まれました……
「ゴードンさん何企んでんだ……?」
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「すまんがちょっと待ってての」
ゴードンさんはそう言って、書斎の中に入っていきました。
ご先祖、聞こえておりますか? すみませんが少し部屋を空けてもらえんかの? 良ければこの紙にサインを……
私のために幽霊さん達にお引き取り願ってるんですね。それはありがたいです。
「入ってよいぞ」
「あ、はーい」
やはり入ってみても何ともないみたいです。セレーナさんが言ってた祟りって勘違いだったのでしょうか。
さっきはすぐに気絶してしまったのでよく見えませんでしたが、すごい数の本でびっしりと、四方の壁が埋め尽くされています。天井もすごく高いです、学校の体育館より高いです。
「ほー、すごーい」
「それで覚えてほしい魔法というのがこれなんじゃがの……」
茶色く変色した紙に手書きの文字と図がびっしり書き込まれていました。しかしこれは何の魔法なんでしょう?
「検索魔法じゃよ」
「けんさく?」
「こういうのあったら仕事がやりやすいと思って昔考えたんじゃよ。完璧な理論を体系化するまではできた! できたんじゃが、わしにはちょいと難しくての……」
なるほど、キーワードを入力すれば必要な本や資料が手元に飛んでくるようになるんですね。これは確かに便利です……
「てことは今まで一人で資料とか探してたんです? この中から?」
「そうなんじゃよ。些細なことまで記録されとるから目当ての情報を見つけ出すのが大変でのー……」
「分かりました! チギリちゃんにお任せください!」
まずは文字盤をイメージして……日本語でいいですかね。この世界の人達にも何故か言葉が通じてますし大丈夫でしょう。
目の前にうすぼんやりひかる緑色の板が出てきました。これを50音に分割しないといけないわけです。
「うーん……あ、い、う、え……」
「おぉっ、文字が刻まれている!」
そしてわをんと刻み終え次のステップです。この文字盤と本棚を接続、と。要するに文字盤からここにある本全部に魔力の糸を伸ばしてやればいいわけです。……は?
「何万本伸ばせばいいんですか!」
「いや、一本釣りでも問題はないはずじゃ」
それを聞いて安心しました。途中で切れないように繊細なコントロールが必要になりますが、一本ずつよりは大分マシです。
「つ、つながりましたよ!」
「おぉっ、素晴らしい!」
これで完成です! あとは正常に動くかどうかです。手元の文字盤を「ラスター 恋人」とタッチしてみます。
すると一冊の本がふわりと落ちてきました。その中には、ラスターさんとリリスさんがお付き合いを始めた時のことが事細かに描かれていました。
「ふふふ……そうです、こんな感じだったんです……ふふふ」
「あ、あの、合ってるんかの?」
いけない、つい夢中になっていました。ですがあのキーワードでこれが出てきたということは実験成功のようです!
「でも私はずっとここにいられませんよ?」
「心配するでない、これがある」
ゴードンさんは懐からこぶし大の粘土のようなものを取り出してきました。
「これは“魔法→物質変換装置”。その名の通り、魔法を道具に変換できる優れモノよ」
「おぉっ、すごい!」
魔法の文字盤の上に粘土を乗せると、粘土が文字盤を吸い込んで同じ形に変形し始めました。
「これで完成じゃ……これさえあれば、突き止められるな」
「えっ、何をですか?」
ゴードンさんが入力した文字は、「魔王 居所」でした。なるほど、今までは資料が膨大過ぎて探しきれなかった魔王さんの居所がこれで簡単に見つけられるわけですね!
「やりましたねゴードンさん……あれ?」
「……何も起きんぞ」
その後もゴードンさんは、「魔王 居場所」とか「魔王 住処」とか「魔王 拠点」とか「魔王 1LDK」とか試してみましたが、すべて該当ナシでした。
「それ壊れてたんじゃないですか? えっ、じゃあ一からやり直し!? 嫌ですー!」
「落ち着きなされ。『ゴードン=カプリコーン』と」
ゴードンさんの誕生から今に至るまでを事細かにつづった本が降りてきました。どうやら魔法は正常なようです。
「『オシノチギリ』」
「ちょっと、人のプライベートを!」
「お前さんは転生者だったの?」
「……? そうですけど……?」
だったら何だというのでしょう? 当然私の半生がつづられた本が降りてきます。どれどれ、どんなことが書かれているかな~
『──その少女は割れるような頭の痛みとともに目を覚ました。仰向けになった少女は黒いポニーテールを揺らしながら上体を起こす。それから一度落ち着いて自分の置かれている状況を整理する。
まず自分はふかふかの赤い絨毯の上で尻餅をついている。次に正面を見ると、威厳たっぷりの老人が煌びやかな椅子の上に腰かけており、その両脇には銀色の鎧を身にまとった屈強そうな男性が立っている。そして、周りをぐるっと見渡してみる。部屋の中だ、それもとびっきり広い。──』
これが1ページ目の一番最初です。
「おかしいですよ。だってこれ、私がこの世界に来た後のことしか書いてないです」
「いや、正常じゃよ。“史記す亡霊”が記録できるのはこの世界のことだけじゃからの。その証拠に、お前さんが前世の記憶を取り戻した日の頁を見てみなさい」
『オシノチギリは前世の記憶を完全に取り戻した』としか書いてありません。取り戻した記憶の詳細はもちろん、あの謎のチギリちゃんのことも書いていません。他のことはあんなに細かく書いているのに。
「でもそれって何の関係が? ……あっ!」
「うむ。魔王はこの世界ではないどこかに身を隠しているのかもしれん。手下の中に強力な空間魔法の使い手がいるか、あるいは魔王自身の力か……」
「ししょー……」
のことはピスケスさんとの秘密でした! でもせっかく手掛かりが見つかったのです、黙っていてもいいのでしょうか……
「『魔王 手下 空間魔法』とでも検索してみるか……」
「待ってください、ゴードンさん!」
しかし時すでに遅し、ゴードンさんは既に入力を終えていました。ですがこれも何故か該当なし。理由は分かりませんが師匠のことは気づかれなかったみたいです。
「……となると、やはり魔王自身の力か。厄介なことになったな」
「どういうことです?」
「異世界への門を開くとなると、莫大な魔力が必要。それを魔王が扱っているということは、奴がかなりの力を取り戻しつつあるということじゃ」
それは困ったことです! ラスターさんの身の安全を考えたら、まだ魔王さんがよわ弱なうちに倒してしまって妹さんも助け出すのがベストなのです! こっちはまだ妹さんを助ける方法も見つけてないというのに!
「あ、そうです! 『ラスター 妹 助ける方法』……と」
私が軽率でした。こんなことラスターさんに言えるはずありません。
検索結果は『該当ナシ』でした。
続く




