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56. 既亡人の憂鬱

前回のあらすじ!

十二神官のゴードンさん、なんだかボケボケな感じでちょっぴり頼りない感じです……

そんな時、私の枕元に幽霊が現れました。いや~っ!!

 「私はセレーナ=カプリコーン。ゴードンの妻です。」


 幽霊さんは私が恐れおののいていることなど気にも留めず自己紹介を始めました。


 「3年前にぽっくり死んじゃってね。家族にもみとられて大往生だったからそれは別にいいんだけど」


そういうことなら一刻も早く成仏するかこの部屋から出ていくかしてほしいものです。何も思い残すことなんてないじゃないですか。


 「でもあの人のことが心配でね。私がいなくなってからボーっとしてることが増えたし、これじゃあ安心してあの世に行けないっていうか……」


確かに、ゴードンさんはご飯を食べるのも忘れるぐらいですから、それは心配だと思います。


ですが、よりにもよって私のところに出てくるんですか? チギリちゃんはオバケが苦手なんですよ?


 「申し訳ありませんが、他を当たってくれませんか? 私今にも漏らしそうなぐらい怯えてるので……」

 「でもね、もう一人の女の子は全く霊感なかったのよ。だからお話しできなくて……」


既にジェイミーさんのところには出ていたんですね……しかしボマードさんなら聖職者ですから何とかしてくれるのでは。そう思いましたが考えが甘かったようです。


 「ダメよ。主人以外の男性の寝室に入るなんて」

 「身持ちが固い……!」


ごもっともな理由です。それなら仕方がないですね。ちょっと怖いですけどご協力して差し上げましょう。


 「それで、私どうすればいいんですか?」

 「主人に喝を入れてやってくれないかしら、『シャンとしなさい!』って」

 「私みたいな小娘の言うこと聞いてくれますか?」

 「いざとなったら私の名前を出しなさい。あの人幽霊とか信じるタイプだから……」


信じるタイプっていうか一緒に仕事してましたよ。奥さんって生前は霊感がないタイプの人だったんでしょうかね……


 「でも良い所に来てくれて良かったわ……4回忌までに冥界に行かないと怨霊になるところだったから……」

 「そんなルールが……えっ、4回忌っていつですか?」

 「ちょうど明日よ」

 「時間がない!」


チギリちゃんにかかっています。セレーナさんを怨霊にしないためにも、絶対にやり遂げねばです!



────────────



翌朝


 「あの人ちゃんと食べたかしら……朝ご飯……あさめしや~……」

 「いやぁああ! 怨霊になりかけてる!」


早いところゴードンさんに喝を入れてセレーナさんに成仏していただきましょう。


 「おはようございます! ボマードさん、ゴードンさんは?」

 「お早いですな。ゴードン殿なら朝早くから書斎にこもりきりですが」


例のオバケだらけの書斎ですね! 私だって幽霊一人連れてますから怖くないですよ!


 「待ってチギリさん、あそこはダメめしや~」

 「もはや語尾みたいになってますよ!」

 「あの部屋にはカプリコーンの使える神が住むと言われている聖域めし~一族以外の者が入れば激しい片頭痛に襲われるめし~」


ゴードンさんの言ってたこと、完全に嘘ってわけでもなかったんですね……しかしこのまま放置しておけばセレーナさんは怨霊になってしまいます。前兆らしきものも出てきてますしあまり悠長なことは言ってられないはずです。


 「頭痛が何ですか! 私はやりますよ! 行ってきます!」

 「なんて優しい子めし~……」


チギリちゃんは勇気を出して書斎の扉を開きました!


 「この子は?」

 「ゴードンの孫じゃろ?」

 「あの子はまだ3つだろう」

 「入ってきて大丈夫なのか?」

 「おい、ゴードン! ……聞こえんのだったな」


 「オバケが沢山……うーん」


私は気を失いました。



────────────



目が覚めるともうお昼になっていました。誰かが私の手を握ってくれています、冷たくて気持ちいです……


 「チギリちゃん、うら大丈夫めし~?」

 「キャー! ……って、セレーナさんじゃないですか、驚かせないでくださいよ」


かなり怨霊に近づきつつありますね。顔の影も心なしか深くなっているような気がします。急がないとマズいです。そう考えていると、ラスターさん達が部屋に入ってきました。


 「チギリ、目は覚めたか? 具合はどうだ?」

 「平気です、そんなことよりゴードンさんとお話を……」

 「わしと?」


セレーナさんからのメッセージを伝えないとです、こんなに近くにいるのに直接言えないなんてさぞもどかしく感じていることでしょう。


……ゴードンさんは幽霊見えないんでしょうか。


 「ゴードンさんは幽霊見えますか?」

 「いや~、それがの、全く霊感がないんじゃよ! 皆無、気配すらわからん! かっかっか」


なるほど、霊感がないからこそあのオバケだらけの空間でも平気でいられるんですね。私は怖くて倒れてしまったというのに。


まったく見えないのに存在は信じてるって、ある意味凄いですけどね。ですが幽霊の存在は信じているなら私の話もすんなり聞いてくれるはずです。


 「あの、ここにセレーナさんの幽霊がいるって言ったらどうします?」

 「何故妻の名前を!? ……まさか本当に居るのか、セレーナ」


ゴードンさんは部屋の中を見渡します。さっきからずっと肩の上に乗ってますけどね、本当に霊感皆無なんですね。


 「セレーナさんから伝言預かってるのでいいですか?」

 「妻はなんと?」

 「『シャンとしなさい!』……ですって」

 「かっか、そうか、セレーナはそう言ってたか。そうじゃな、ワシがこの体たらくじゃあ、安心して逝けぬか」


セレーナさんが私の耳元に近づいてきました。急に寒気が……怨霊化が進んでいる……


 「今から私の言うことをそのまま伝えてめし」

 「えっ、あっ、はい」


 「いいめし? ご飯は毎日三食食べるめし。仕事熱心なのもいいめし、でもそんな生活を続けていたら体が壊れるめし。あなたももう若くないめし、無理せず若い人に頼ればいいめし。ケイブももう立派な大人……あ、息子さんですか……なんめしから、信頼して任せてやればいいめし。そうやって親子で支え合うのが、カプリコーン一族めし?」


 「なあ、その“めし”って何だ?」

 「そのまま伝えてるだけです!」


セレーナさんがせっかく温かい言葉を掛けているのに、ラスターさんが口を挟んだせいで台無しです! 語尾ですでに台無しになっていたかもしれませんがね!


 「……そうか。セレーナ、心配かけてすまんかったな」


ゴードンさんは後ろを振り返り、深く頭を下げました。そっちは逆方向です。


 「ゴードンさん! セレーナさんこっちです、私のすぐ左!」


 「あ、そっちね。……コホン。セレーナ、君がいなくなってからというもの、ワシは埋めきれぬ寂寥に襲われた。仕事に没頭することで、君のいない孤独から目を背けようとしていたのかもしれん。だがそれは間違っていた。君はこんなにも近くにいたのじゃな、孤独から逃げようとするあまり、大切な君のことまで心の隅に追いやっていた……

 愚かな夫を許してくれ。今のわしは、君を見つめることも触れることも、存在を感じることさえできない。だが確かに感じる、君の愛が今でもわしを暖かく(くる)んでくれている。『命尽きても滅びぬ物』とは、“愛”だったのやも知れんな。

 安心……するのは難しいかもしれんが、もう大丈夫じゃ。いつでも心の中に君がいてくれる、孤独とも戦える。それでも負けそうなときは、家族の力を借りよう。……それでどうかの?」


セレーナさんは静かに涙を流しながら微笑んでいました。こんな強い愛で結ばれて、お二人はとても幸せ者です。


 「そう。それなら安心だわ」

 「それなら安心めし……あれ? セレーナさん、語尾が……」


 「お別れの時が来たみたい。じゃあねあなた、約束破っちゃダメよ?」

 「……無論じゃ。君も元気で」


 「チギリちゃんもありがとうね、おかげで心置きなく逝けるわ……さようなら」


セレーナさんは消えてしまいました。良いものを見せてもらいました。ラスターさんとリリスさんも、こんな夫婦になれたらいいですね。


 「ねっ、ラッさん」

 「……何がだよ?」


続く


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