53. 天才少女は少し寂しい
前回のあらすじ!
十二神官さんに会いに行きますよー! ゴードン=カプリコーンさんってどんな人なんでしょうね?
ジェイミーさんと一緒にさあ出発です!
「発生起源が不透明と言いますか、魔物と他の動物種が同一の進化過程をたどったとは考えにくいと……」
ジェイミーには専門外の話はちんぷんかんぷんであった。それでも皆、自分の頭脳に期待して学者たちの議論の場に招いてくれている。
下々の者が自分のことを“神童”と呼ぶのなら、名家の跡取りとしてその期待を裏切るわけにはいかないのだ。
「ジェイミーさんはどう思いますか?」
大人たちの期待の眼差し。ジェイミーはこれが苦手だった。
「大変重要なご意見と存じます。今後の調査の参考にさせていただきますわ」
結局当たり障りのないことしか言えず、自分に嫌気がさしていた。こんなはずではない、準備さえしていればもっと有意義な意見を言えるのだ。
「……では、他に質問等無ければこれで解散とさせていただきます」
そして皆で勝鬨を上げて、解散とあいなった。勇者のサポートをするために、各分野の専門家が一丸となって、知恵を出し合っている。
ジェイミーは自分が足を引っ張っていないか不安だった。同じ場にいるからには、子どもだからという言い訳は許されないと思っていた。
「聞きましたか? 勇者様の仲間に新たに魔法使いの方が加わったそうですよ」
「ああ、僕は何度か会ってますよ。弟に懐いてるみたいで」
「ほお、するとまだお若いのですかな?」
「若いも何も、まだ11歳の女の子ですよ」
ジェイミーは聞き耳を立てた。自分と同い年。心配だった、彼女が自分と同じように重圧に押しつぶされそうになってはいないかと。
「随分楽しそうにしてますよ。あのラスターくんが振り回されてますからね」
「そうですか、たくましいですなぁ」
いらぬ心配だったようだ。人の心配などしている場合かと、自分を戒めた。そんなことをしている暇があったら、早くジェイニーのところへ帰れと。
「そうだ、チギリちゃんとジェイミーさんは同い年じゃ……あれ?」
「ジェイミー様なら先程帰られましたが」
帰宅したジェイミーはすぐにジェイニーの部屋へ赴き、さっきの会議の様子を報告した。
「……とまあ、大体こんな感じですわ」
「ふーん、いつもありがとうね」
「べつに、これぐらい大したことじゃありませんわ」
ジェイニーは妹の元気がないことをすぐに察知した。真面目な彼女が無理をし過ぎていないか、いつも心配していた。
「ジェイミー、たまには気分転換でもしたら? ほら、外で友達と遊んだり……」
「こうしてジェイニーといるのが一番の気分転換ですわ」
「ははぁ、ひょっとして友達がいないんだね?」
図星であった。ジェイミーは顔を真っ赤にした。
「僕のこと心配してくれるのはありがたいけどさ、妹に友達がいないってのはお兄ちゃん的に心配だな。……ああ、体調が悪くなる」
ジェイニーはわざとらしく胸を抑えるジェスチャーをした。ジェイミーは慌てて彼の背中をさする。
「ちょっ!? ジェイニー大丈夫ですの!?」
「流石にこれは冗談だけど」
「笑えない冗談はよしてください!」
それ以来ずっと、“友達”という言葉が胸に引っ掛かっていた。自分のような者にも、友達ができるのだろうか──
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「チギリ、出掛けるぞ」
夜遅くにラスターさんが私の部屋をノックしました。そうです、遠出だから夜に出発なんです。大いびきをかくウリたんをゆすり起こしてから外に出ます。
「夜のお出かけってワクワクします!」
「着くまで寝てていいからな」
宿屋さんの前にドラゴンちゃんが降り立ちました。いつもと違って、羽音を立てずに無音で着地しました。気遣いもできるごんちゃんは賢いドラゴンです。
「してラスター殿、今回はどこまで?」
「デンクマール村まで」
「すると……ゴードン殿のところですか」
これから会いに行く十二神官さんはゴードンさんっていうんですね。仲良くなれますでしょうかねぇ。
「それじゃあいきましょー!」
「もうちょっと待ってろ、もう一人来るから」
「ほえ?」
私たち以外に誰がごんちゃんに搭乗するというのでしょう。そう思っていると、小さな女の子と背の高いご老人が近づいてきました。
「ラスターさん、お待たせいたしましたわ」
ラスターさんはもう一人と言っていました。ということはあの二人の内どちらかが同行者の方です。まあチギリちゃんの名推理によれば、ご老人の方でしょうね。あんな小さな子のはずありませんから。
「それではお嬢様をよろしくお願いします」
なんと! 女の子の方でしたか! これは新しいお友達ができる予感です!
「下がっていいわよ。初めまして、わたくしジェイミー=ワンダーフォーゲルと……」
「ああ、どうも、わたしはオシノチギリ……」
ワンダーフォーゲル? それにこのお上品な喋り方は……
「あ! サンドウィッチの!」
「あの時はご無礼を!」
サンドウィッチをかっさらっていったあの女の子です。ものすごい勢いで地面に頭をこすりつけました。えっ、恥ずかしい。
「理由はお話できないんですが、あの時は本当に気が動転していまして……」
そんなこともありました。確かあの時はシルちゃんがこの人に酷いことを言って……思い出したら少し寂しくなってきました。
「ぐす……いいんです、クルミのパンもおいしかったですから……」
「泣くほど食べたかったんですの!?」
シルちゃんと最後に食べたクルミパンの味を思い出しながら、チギリちゃんは静かに思い出に浸るのでした……
続く




