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5. オシノチギリは釣り上げたい

前回のあらすじ!


皆さん、チギリちゃんですよ!

ザラアストゥラ寺院でのボマードさんの過酷なシゴキに耐え忍び、とうとう魔法使いデビューしちゃいました!

ちょっと失敗しちゃいましたけど、これを糧に成長するのですよ! 私の大魔導師伝説はまだ始まったばかりです!

……………………

ラスターさんのお嫁探し忘れてました! お寺は男の人ばっかりでしたからね……図られました!

────────────────



 「……王国の調査機関からの書簡だな」

 「誰に説明してるんです?」


 私とボマードさんで、ラスターさんが手に持っている書簡を覗き込みます。その書簡には、走り書きでこう記されていました。


イスタリア村東の湖にてマオウ復活の兆候。至急向かわれたし。


はいはい、マオウですかマオウね……いきなりラスボスですか!? しかしラスターさんとボマードさんは思いのほか冷静なご様子。


 「イスタリアか……昼過ぎには到着するな。よし、装備整えたら出発するか」

 「ですな」

 「えぇ!? お二人とも何でそんなに冷静何ですか!?」


あまりにも冷静なので準備に出発しようとする二人を思わず呼び止めてしまいました。


 「勇者になった時からこうなることは覚悟の上だ」

 「同じくです。ラスター殿に拾っていただいた命ですから」


……そういうことですか。2人とも、もうとっくの昔に覚悟を決めてらっしゃったんですね。そういうことなら、私も! 乗りかけた船です、最後まで付き合いますよ!


 「やっぱり武器屋さんとか行くんですか?」

 「ん? いやー、今回は違うかな……」


違うのですか? それならどこへ行くのでしょう……


 「ここだ」


釣具屋さんだ……


 「いらっしゃい! おっ、勇者サマじゃねぇか」

 「おう。オヤジ、一番丈夫なヤツくれ」


釣り竿買うんだ……


 「餌はどうする?」

 「んー、疑似餌でいいや」


釣るんだ……


 「毎度アリー!」

 「世話になったな。……よし、これで準備完了だな」


 「え、あの……魔王って おさかな なんですか?」

 「え? 魔王? ……あー、そういうことか。ほれ、よく読んでみろよ」


さっきの書簡です。よく読んでみろとは?


イスタリア村東の湖にてマウオ復活の兆候。至急向かわれたし。


マ・ウ・オ?………………マオウじゃなくてマウオ……空目してました!



【マウオ】

魔魚目 魔魚科 魔魚属。湖水生淡水魚。全長約5m。普段は湖底に身を潜めているが、魔王の復活が近くなると活動が活発になる。発生過程は詳しく理解されていない。古代では、湖に住む魚の怨念の集合体であると信じられていた。性格は非常に凶暴で、湖に近づく人間を引きずり込んで食べてしまう。全身に目がついているので危機察知能力も高い。肉は弾力があっておいしい。

(『いきもの図鑑』監修ヴァイスニット=スカイルーク より)



 勘違いしちゃってました。てへっ☆ ボマードさんが図鑑を買ってくれたのでこれからしっかり勉強しようと思います!

 そして歩くこと数時間、王都の隣村イスタリアの東端に位置する湖にやってきました! のどかですね~ホントにマウオなんて出るんでしょうか? ラスターさんは釣竿を取り出しながら湖畔にドカリと腰を下ろしました。


 「よし……釣るか」


険しい顔で釣り糸を垂らしています。ボマードさんは木陰で瞑想しています。私は何しましょう……




 「うわー、すっごぉーい!」

 「気に入っていただけて何よりです」


この図鑑面白いです! この世界のモンスターってこんな感じなんですね! 挿絵もきれいだし気に入りましたよ! えーっと、魔魚のページは……


 「ラッさん、死なないでください!」

 「あー!話しかけんな! 気が散るだろ!」


何ですかこの見た目、デっカいし牙鋭いし! いや、それよりも! うろこの一つ一つに目がついてるじゃないですか! グロいですよ! なんかヒレもめっちゃ尖ってるし!


しかし数時間経ち日が暮れようとしても、ラスターさんの釣り竿には、魔魚はおろか小魚一匹ひっかりやしません。余計な心配でした、魔力だけじゃなくて釣りの才能もないんですね……



 「あ゛ぁ゛~釣れねぇ~!」

 「暇ですね……」

 「釣りは忍耐ですからな。ラスター殿が釣り上げるのを黙して待つのみです」


ボマードさんはそう言いますが、待つだけなんて退屈です。でも釣り竿は一本しかありませんし……あっ、そうだ、私良いこと思いつきました!


 「みてみて、つりざお~」


杖の先っちょから細~い魔力を出して即席釣り糸の完成ですよ。私も釣りに挑戦です!


 「おっ、器用ですな」

 「へっへ~ん、でっしょ~?」


ラスターさんのお隣に失礼してっと。餌はパンのきれっぱしでいいですか。それでは釣り糸を垂らします。


 「ハンっ、そんなので釣れるわけ……」




 「あっ、かかりました!」

 「マジかよ!?」


めっちゃグイグイ引っ張られてる感じ有ります! これ絶対大物ですよ! ひょっとして魔魚かも……とにかく逃がすわけにいきません! 魔法で腕力アップですよ!


 「うおりゃぁー!!」


さあ、獲物が水面を飛び出してきましたよ! 何が釣れたんでしょうねっ!


釣り糸の先にくっつけたパンの切れ端に食らいつく影。沈みかけた太陽を背に受けて白くしなやかな四肢を彩る滴がキラキラと輝いていました。……これ人間ですね!? なんと私の釣り糸にかかったのは全裸の女性でした!


何はともあれ急いで陸上にその人を引き揚げないといけません! 何やってんですかこの人!?


しかしまあ、私の見積もりが甘かったと言いましょうか。いくら魔法で強化しているとはいえ、11歳の女の子の腕力です。ずぶ濡れの女性一人引っ張り上げるのは難しいわけでして。ちょっとバランスを崩してしまったわけです。私は無事でしたよ? ただね……


 「あ?」

 「あ」


思いっ切り引っ張り上げた勢いでしてね。釣り上げられた女性はラスターさんを下敷きにしながら着陸してしまったのです。


 「あれ……私……」

 「痛て……」

 「え……」


女性とラスターさんの目と目が合います。そして彼女は気づきました、自分が一糸まとわぬ姿で見知らぬ男性に馬乗りになっていることに。


 「いやぁあああああ!!」


夕焼け空にパチーンという快音が響きました。ラスターさん、ごめんなさい。


────────────────


 「すみません、私ったら気が動転しちゃって……」

 「……分かってくれればいいんだよ」


 彼女の名前はヴィヴィアンさんというそうで、この湖の管理者をしているらしいです。背中を向けたままのラスターさんはまだ少し不満そうですが、ひとまずヴィヴィアンさんの謝罪を受け入れました。ボマードさんが村の仕立て屋さんまで行ってくれているので、戻ってくるまでは一旦私のローブを羽織ってもらっています。少し小さいですけどね。


 「で、どうして泳いでたんだ?」


ラスターさんが至極真っ当な疑問をぶつけました。誰だって気になる、私も気になる。


 「湖畔の淑女は泳いだりしません。湖の管理者として調査してたんです」


ヴィヴィアンさんは口を尖らせながら答えました。だからなぜ中に飛び込む必要が……


 「あんた、自分が囮になろうとか考えてないよな?」

 「え、そうなんですか!?」

 「かかか考えてませんよ!」


問い質すラスターさんに、明らかに動揺しながら答えました。こりゃ図星ですね!


 「そういう荒事は俺の役目だ、一般人のあんたがやることじゃない。それに女一人身投げして鎮まってくれるほど慎ましい相手じゃないんだよ」

 「勇者様……」


何かラスターさんが優しいです……違和感ありますね。他の人の話を聞く限りだと私以外には優しいらしいのですが。それはそうと、ヴィヴィアンさんは少し恥ずかしそうにラスターさんの背中を見つめています。これはもしかして……いえ、急いては事を仕損じます。まずは観察・分析です。


 「なんかーボマードさん遅いですねー私ちょっと見てきますねー」

 「迷子になられたら困る。それなら俺がいく」

 「ダメですよ! もし魔魚が出てきたら誰が戦うんですか!!」

 「お、おう……なんだよ……」


ラスターさんも納得してくれたようですね! ふん! まあ、ボマードさんの様子を見に行くというのは嘘なんですけどね。その辺の茂みに隠れてこっそりお二人の様子を見守ります。


 「勇者様、やっぱり魔魚が出てきたら討伐するんですか?」

 「……? 当たり前だろ、何か問題でもあるのか?」

 「いえ、それならいいんです……はい……」

 「何か気になるなら言えよ。後から文句言われても困るしな」


確かに変な質問ですねぇ。泉を荒らす悪い怪物なら懲らしめた方がよいと思うのですが。調査機関の人も、既に被害が出ているって言ってました! ですがヴィヴィアンさんはそのまま押し黙ってしまいました。


沈黙に耐えかねてか、ラスターさんが口を開きます。


 「あのなぁ……あんたは湖の生き物が可愛いのかもしれないけど、被害が出てるのに野放しにはしておけねぇだろ」

 「あっ……そっ、そんなこと考えてませんよ!」

 「……あんた嘘が下手だな」


図星をつかれたヴィヴィアンさんは顔を真っ赤にしてうつむいてしまいました。マウオが可愛い……私には分からない価値観です……でも優しい人なんですねぇ。私気に入っちゃいました! しかし私は釣りから『待つ』ことを学びました。もう少し様子見です。


 「だって普段はすごく大人しい子なんですよ? 可哀想じゃないですか……ちゃんと見張ってればどうにかなるんじゃ……」


 「俺は別に狩らなくても構わねぇけど?」

 「えっ、ホントですか?」


 「その代わりこの湖に二度と誰も近づかせるな。あんたも含めてな。そうじゃなきゃ許容できない」

 「え……それは……」


まー、ラスターさんったらあんな言い方しちゃって! ヴィヴィアンさん凄く悲しそうじゃないですか。あれじゃ立つフラグも立ちませんよ。


 「なあ、あんたが本当に守りたいものは何だ?」

 「私が守りたいもの……?」

 「魔物から人を守るのが勇者の仕事だ。あんたの仕事は?」


なんか流れ変わりましたね……? ブルーになっていたヴィヴィアンさんの表情に少し色が差した気がしました。


 「この湖……子連れの家族が湖畔でお弁当広げたり、老夫婦が手を繋いで岸辺を散歩したり、ちょっとヤンチャな子達が泳ぎ回ったり……私、それを見るのが好きで……でも魔魚が暴れるようになってから人が寄り付かなくなって……」


ヴィヴィアンさんは言葉を詰まらせました。ラスターさんは黙って待っています。


 「私、またあの人たちの笑顔が見たいです……」


ヴィヴィアンさんには見えていないでしょうが、ラスターさんはそれを聞いてにやりと笑いました。あんな優しそうに笑えるんですね……


 「承った。勇者ラスターの名において、この湖に平穏を取り戻してやる」

 「勇者様……」


バイトォオオオオオ!! これはいい雰囲気なのでは!? 焦ってはダメですよチギリちゃん。獲物がしっかり食らいつくまで辛抱強く待つのです! ヴィヴィアンさんが完落ちしたタイミングですかさず……




 「いやー、遅くなりました! 好みに合いませんでしたら申し訳ありません!」


ラインブレイク……! ボマードさん、なぜこのタイミングで帰ってくる……!! せっかく、ごっつええ雰囲気だったのに……!


 「ああ、いえ、わざわざすみません、ありがとうございます!」

 「そうだ、途中でチギリに会わなかったか?」

 「チギリさんに? 見かけませんでしたが……」


 「うわーん! ボマードさんのバカー!」

 「ち、チギリさん!? わたくし何か失礼を?」


 「勇者様……これは一体?」

 「ただのバカだ。気にするな」



なんかほのぼのしているが魔魚のことを忘れてはならない! 続く!


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