49. 頑固者と口約束
前回のあらすじ!
ラスターさんはもはや頼りになりません。こうなれば私とボマードさんだけでも、スコッピさんとオリオンさんの恋を応援するしか……ありゃ? ラスターさんはいずこへ?
「オリオンさん、まだ作業してたのか」
「ラスター……」
ラスターが向かったのは再びスティングホールドの工房だった。そこではもう夜も遅いというのにオリオンが剣を打っていた。
「どうしたの? 忘れ物?」
「いや……周り見えてねぇなと思って」
こんな夜遅くにカンカンやってたら近所迷惑だろうと思った。オリオンは気づいていないようだ。
「な、何の話だよぉ」
「うるさくないか? こんな遅くに」
「あ、そっちね。はは……」
ラスターには、オリオンが何の話と勘違いしているのか分からなかった。
「何でそこまで頑張るんだ?」
「え? そりゃぁ、一流の職人になりたいからね、一刻も早く!」
とはいえ、無理して体でも壊したら元も子もないだろうに。ラスターの目にはオリオンが焦っているように見えた。
「そんな一朝一夕にどうにかなるもんでもないだろ? 何焦ってんだ?」
「そうなんだけど……でも早くしないと……」
うわごとのように呟くと、オリオンはそのまま後ろに倒れ込んだ。
「なんだ、寝ちまったのか……ん?」
よく見ると白目をむいていた。
「おい! 大丈夫か!?」
────────────
よくあさ
「ふぁ~……ウリたんオハヨーございます」
「ぶひ」(おはよう)
良く寝ました。それでは今日も元気にカップリング。まずは作戦を練り練りです。
「そーだ、ししょーにも相談してみましょう!」
「ぶひ……」(あっ……)
師匠に連絡してみますが繋がりません。水晶が壊れてしまったのでしょうか……あっ。
「ウリたん、何か見ましたか?」
「ぶるぶる」(なんにも?)
私ったら寝ぼけてたみたいですね。ラスターさんとボマードさんはもう起きてるでしょうか? みんなで相談しましょうね!
「……二人ともいない?」
お部屋にいなかったので宿のご主人に確認したところ、ラスターさんは帰っておらずボマードさんも早くに出かけた、と。
「私だけ置いてけぼりです……むぅ」
「ぶひぶひ」(俺がついてるぜ)
私はもしかして嫌われているのでしょうか……ウリたんだけが私の味方です。
スティングホルードさんのお家に向かったらしいので私も行ってみることにしました。文句言ってやります!
「へ? オリオンさんが倒れた?」
「ええ、それで少し様子を見に」
ボマードさんは申し訳なさそうに言いました。しかしそれならそれで私にも声かけてくれたらよかったのに……
「一応声はかけたのですが……熟睡していらしたので」
「じゃあ私のせい!?」
もうちょっとで逆恨みするところでしたよ。それはそれとして、オリオンさん大丈夫でしょうか。スコッピさんが自分の部屋で看病しているそうですが……
「はっ、これはまさかチャンス!?」
「チギリさん、落ち着いて下さい」
駆けだそうとする私の襟をボマードさんが捕まえました。見たいのに……!
「あ、そういえばラッさんは?」
「食卓でスティングホールドさんと話しておられますが」
「じゃあ私もいこーっと!」
食卓に行くと、ラスターさんったら朝食をご馳走になっていました。ズルいですよ、私だってまだ朝ご飯食べてないのに!
「チギリさんは苦手なものはありませんか?」
「あ、えぶりしんぐおーけーです!」
ステイゴールドさんの奥さんは、スコッピさんをそのまま老けさせたような見た目でした。そっくり親子です。
「でもラスターさんが来てくれててよかったわ。うち皆眠るとなかなか起きないから」
「……散々無理すんなって言ってたのにオリオンの奴」
夜中にオリオンさんが倒れた所をラスターさんが発見したという流れなんですな。お医者さんによるとオリオンさんは過労だそうです。
「でもどうしてそこまで無理してたんでしょうね?」
私の前に温かいスープと円盤型のパンが置かれました。野菜たっぷりでおいしそうです。
「ありがとーございます! いっただきまーす」
「あいつ、早く一流の職人になりたいって言ってた」
ラスターさんが神妙な顔で言うと、スティンゴさんは身を乗り出しました。
「あいつそんなこと言ってたのか!?」
「お、おう……」
「あら、オリオンくんってば……」
夫妻は大きな大きなリアクション。職人さんって普通はそういうものではないんでしょうか。
「それって何か変なんですか?」
投げかけると、スティングさん(夫)は遠い目をしながら口を開きました。回想の予感。
「あれは……オリオンの二十歳の誕生日だった……」
やっぱり回想でした。
────────────
「まあ飲めや」
「あぁ、どうも……」
家族であいつの誕生日をささやかに祝った後、師弟水入らず、二人で酒を酌み交わしていた。
しばらく飲みながら喋ってるうちに、俺も少し酔っちまったのか、普段なら絶対に言わないようなことをぼやいてしまっていた。
「はぁ、早く孫の顔が見てぇなぁ……」
「はは……お嬢ならすぐに良い人見つかりますよ」
「どうだかなぁ……」
仕事ばっかりで浮いた話の1つもない娘のことが心配だった。その時気づいちまったのさ、目の前に手頃なのがいることに。
「いっそお前が貰ってやってくれねぇか」
「はい?」
オリオンの奴、目を丸くしてやがった。俺は自分がとんでもないことを口走っちまったと気づいた。師匠と弟子の立場でこんなこと言われたら断りたくても断れねぇ。だから俺はすかさずこう言ってやったのさ。
「冗談に決まってるだろ。お前みたいな半人前に可愛い一人娘を任せられるか」
「で、デスヨネー……」
────────────
「それが5年前だった……」
スティングホールドさん(夫)はしみじみと呟きました。こじれの原因が見つかった気がしました。
「ラッさん!」
「ん? おう……」
ラスターさんも気づいたようですね! ここから反撃開始ですよ!
続く!




