46. 鋼の里と新たな試練
前回のあらすじ!
シルちゃんが本当は悪い子だったなんて……でもこんなことでめげていられません!
ししょーもシルちゃんも、チギリちゃんの絆☆パワーで改心させてみせるんですから!
そしてラッさんも何かを決意したご様子。はてはて、これからどうなるんです?
てなわけで、イロン村というところに来ているわけです。
「村の中心にそびえるフェリート山の恵みにより、鉱業や金物産業を中心に栄えてきた村ですな」
だそうです。ボマードさんのガイドは分かりやすいですね。しかしこんな所まで来て何の用でしょうか。“例のアレ”って言うのと関係あるんでしょうか。
「今からスティングホールドさんのとこに行く」
「シュリンプカクテルさん?」
「“スティングホールド”です。ラスター殿が普段からお世話になっている鍛冶屋さんですな」
名前が覚えにくいです。鍛冶屋さんのところに行くということは、ラスターさん、剣買い替えるんでしょうか?
そんなこんなで、スリーパーホールドさんの工房にやってまいりました。質素な石造りの建物でして、まさに職人のカタキ、って感じです!
「それを言うなら職人気質では?」
「それそれです!」
ラスターさんの剣をうってる職人さんはどんな人なんでしょうねぇ。口数少ない渋めのお爺さんってイメージ有りますね、職人さんと聞くと。
「邪魔するぜ……」
「勇者様じゃないか! 新しい剣か? 新しい剣だろ? 今度の自信作なんだよ! 早速装備していくかい?」
ラスターさんが入ってくるや否や、イメージとは真逆のチャラそうな青年男性が、ラスターさんにむき身の剣を押し付けていました。危ないです。
「この人がスマンゴホーミタイ?さんですか?」
「……何もかも間違ってるぞお前」
「違うよ、お嬢ちゃん。僕はオリオン=ブラックスミス。スティングホールドは僕の師匠です」
「今のでよく分かったな」
この人はステインクリアさんじゃなかったんですね。どおりで職人さんぽくないと思いましたよ。
「ところでさ、この剣どうだい? 良ければ君に使ってほしいんだけど!」
「57点。実戦じゃ使えない」
「え……それは……57点満点中で?」
「そんな半端な満点あるか」
ラスターさん厳しいです。そしてオリオンさんはポジティブです。57点満点て。
「えー、どこがダメだった? バッチリ改善するからさ……」
「そういう相談はスティングホールドさんにしろよ」
「それもそうか。それよりどしたの? 師匠呼ぼうか?」
「いや、今日は別件で……」
「どうした、オリオン。騒がしいな」
「あっ、満月」
「チギリさん!」
つい頭だけ見てものを言ってしまいました。眼光鋭いおじいさんがオリオンさんを見つめ、いや、睨んでいます?
「ラスターか。……その子は妹か?」
「違います、娘です。名はチギリと言います」
「違う。仲間の魔法使いだ」
ちぇっ。おじいさんの目がこっちに向きました。な、なんでしょう。ふっとため息をついてから手ぬぐいで頭を覆いました。
「お嬢ちゃん」
「は、はい……」
ひぇ~、目力すっごいです。怒ってない、ですよね?
「……満月、か」
「聞こえてました?」
私ってば失礼かましてしまいました。おじいさんはするりと手ぬぐいを外しながら息を吸い込みました。頭がきらりと光ります。
「……スーパームーン」
「ふふっ!」
「……子どもは素直なのが一番だ」
そう言って満足気にほほ笑みました。何だったんですか、思わず吹き出しちゃいましたよ。でも良い人っぽいのは伝わりました。
「ラスター、今日は何の用だ? 剣を新調しに来たわけじゃねぇんだろ?」
「話し早くて助かります。……弟子と違って」
「な、何だよぉ」
このおじいさんの弟子がオリオンさん、オリオンさんの師匠がスティッキーフィンガーさん。全て繋がりましたね。
「最初から繋がってんだよ。スティングホールドさん、今日は娘さんの方に用事が」
スリーパーホールドさん、娘さんがいるんですね。そしてオリオンさんがなぜか気まずそうに目を逸らしています。
「……オリオン」
「……何でしょう」
「スコッピ呼んでこい」
「奥様ー、申し訳ありませんがスコッピさんを……」
「いつから師匠の嫁に使い走り頼めるようになったんだ?」
「ですよねー? へへへ……」
固い笑顔を見せながら工房の奥に消えていきました。オリオンさんの様子がおかしいですねぇ。
あのー、スコッピお嬢? 勇者様がお見えですが……
オリオン! 会いに来てくれたのね!
いや、だからお客様が……
何でもいいよ! 早く案内して!
……騒がしいですね。
「……お連れしました」
「ふふっ♡」
オリオンさんと、白い着物に赤い袴を身につけた女性が腕を組んでやって来ました。巫女さんみたいな恰好ですね。
「それじゃあ、僕はこれで失礼!」
「あっ、オリオン!」
オリオンさんは逃げるようにまた工房の奥に引っ込んでしまいました。どうしたんでしょうね?
「ったく、あいつは……俺も奥にいるから、何かあったら呼べや」
「はい、ありがとうございます」
ススッスホーンホさんもいなくなってしまいました。それと同時に、スコッピさんのにこにこ笑顔もスッと消えました。
「何の用かな、ラスター?」
さっきまでメチャ甘な表情だったので気づきませんでしたが、すごく涼しげな顔立ちしてます。
「“神々の試練”に、挑もうと思ってます」
ラスターさんは低い声で言いました。神々の試練……! なんだかすごそうな響きです!
「とうとう挑む気になったんだね? “十二神官どきどきスタンプラリー”に……!」
ん? どきどきスタンプラリー?
「……ええ、ですから管理者のスコッピさんに“神々の試練”に挑戦する許可を頂きたく……」
「なるほど……確かに今の君なら“神々の試練”も突破できるかもね……」
ラスターさんとスコッピさんは同じ話してるんですよね?
「なぁ、その言い方、力抜けるからやめてくれないか?」
「やだよ、これが正式名称じゃないか」
なぁんだ、ラスターさんがカッコつけた言い方してただけなんですね。どきどきスタンプラリーって可愛くていいじゃないですか。
「それで、そのスタンプラリーって何するんです?」
「よくぞ聞いてくれたね! えーと……」
「チギリちゃんです!」
「おっ、いい名前だ。それじゃあチギリちゃんのために説明してあげよう」
「この世界にまします12の神、彼らより賜りし試練を超克せし勇者、暗影を切り拓く快刀を手にする……つまりラスター殿がさらに強くなるための試験のようなものです」
さすがボマードさん、分かりやすい説明です! そういえばボマードさんは十二神官の家系でしたね。リオさん元気ですかねぇ。
「うぐ……私が説明したかったのに……さすがはリオの弟……」
「……申し訳ありません、出過ぎたことを」
しかしまあ、ラスターさんがさらに強くなるなら良いことです! なるほど、今日はそれのお願いに来たんですね!
「許可……してもらえますよね?」
ラスターさんは不安そうに問いかけます。スコッピさんは少し首をかしげて考えるようなそぶりを見せた後、例の甘い笑顔を向けて答えました。これはOKサインですね!
「うーん、ダメ!」
「えっ?」
続く!




