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45. 勇者の苦悩と鋼のハート

前回のあらすじ!

シルちゃんの身に何か起きたみたいです! でもラッさんは何も話してはくれません……

ゴーフー村で、一体何が起こったのですか?

 あの男が帰ってくる! リッキーとの戦いで負った怪我を治療するために実家で静養していたあの男が! 最近出番が消失していたあの男が!


 「ご心配をおかけしました。無事完治いたしました」

 「ああ、ボマードさん……良かったです……」

 「チギリさん!? いつになく暗い顔ですが……」


ボマードさん帰ってきたんですね……ボマードさんまでいなくなったら私はどうしようかと思いましたよ。


 「あ、そうだ。私喪中に入るので今年は年賀状出さないでくださいね」

 「年賀状……? あの、一体何が……?」


ラスターさんは何も言ってくれませんでしたが、あの反応を見ていれば私でも分かります。シルちゃんは……帰らぬ人になってしまったんです!


 「……シルコさんが。私が眠っている間にそんなことが……」

 「ボマードちょっと」


あれ? ボマードさんがいなくなっています。それとさっき一瞬ラスターさんの声が聞こえた気がします。


 「ウリたん、何か見ましたか?」

 「ぶーぶー」(兄ちゃんがボマードさん引っ張っていったぜ)


やはりラスターさん……私もう気付いちゃってるから隠さなくてもいいのに……



────────────



 「勘違い? どういうことですか?」

 「だからな、シルコは死んでないんだよ」

 「そうですか! それではシルコさんは一体どこに?」

 「いや、まあ死んでるっちゃ死んでるんだけど……」

 「どっちですか?」

 「ややこしかったな。俺達の知ってるシルコは、生きてる。生きてるんだが……」


 昨晩の出来事をすべてボマードに話した。シルコの本名がシルフィー=アランドロンであること、彼女が魔王のしもべであること、そしてサラメーヤとともに再び魔王の下へ走ったことを。


 「そうでしたか……チギリさんはこのことは?」

 「言えるわけねぇだろ。それで答えを濁してたら……」

 「勘違いされてしまったというわけですな」


ラスターは目を逸らしながら頷いた。彼なりの気遣いが完全に裏目に出てしまったのだ。


 「なぁ、俺どうすればいい?」

 「どうするも何も……本当のことを話されてはいかがです?」


ラスターは頭を抱えた。ボマードの言う通り、そうできたら一番いいのだろう。しかし幼いチギリには、この出来事はあまりに衝撃が大きすぎるのではないか、とも感じていたのだ。


 『チギリ! お前の友達、実は魔王の手下なんだぞ! お前を捨てて魔王のところに帰っちまったんだ!』

 『え~! 絶望しました! 死にます!』


 「……と、ならんだろうかと思うとな」


困り顔のラスターに、ボマードはため息をついた。


 「ラスター殿、チギリさんの強さを、信じてみてはいかがですか?」

 「そう言われても……あいつはまだ子どもだぞ?」

 「子どもだからこそです。あれほど幼き身でありながら、見知らぬ世界を逞しく楽しんでいらっしゃるではありませんか。チギリさんはその程度ではへこたれませんよ」


ラスターは口を尖らせたまま俯いている。


 「私は、次元の狭間に送り込まれた時、頭がどうにかなってしまいそうでした。たった3日で、です。それを考えると、チギリさんは十分、立派に生きているといえるのではありませんか?」


ラスターはようやく笑みを取り戻した。己の体験に基づいた言葉である、説得力が違う。


 「お前の言う通りかもな……うん、次元の狭間か……」


ラスターは再び頭を抱えた。ボマードを次元の狭間から救出したのはクロウリーなのである。つまりは彼にとっては恩人だ。


ボマードはクロウリーが魔王の軍門に下ったことを知らないから、またそれを伝えなくてはいけないのが心苦しかった。


 「はぁ~、もう、ふざけんなよ、あいつ!」

 「ラ、ラスター殿?」


この後しっかり説明した。



────────────



 「チギリ、シルコのことで話が」

 「……はい」


 ラスターさん、ようやく話す気になってくれたんですね。良いのです、覚悟はオーライです。


 「シルコはな、魔王の手下なんだ」

 「ほえ?」

 「あいつの本当の名前はシルフィー=アランドロン。この間のコソドロだ」

 「ちょちょちょ……えぇ?」


なんか思ってたのと違います! シルちゃんがこの間の泥棒さんで魔王の手下? そんなアホな。確かに背恰好は似てる気がしますけど。


 「すまん、俺が引き止められなかった……」

 「え、あの、はい、そうなんですか……」


情報量が多すぎて頭がパンクしそうでふ。取りあえずシルちゃんは実は悪い子だったってことでいいんでしょうか。


 「それじゃあ、シルちゃん生きてるんですよね?」

 「ん? ああ、まあ、そうだな……」

 「それなら良かったです! 私てっきりシルちゃんが死ぬちゃんと思って……」


ちょっぴりビックリしちゃいましたけど、生きてるならそれで十分です、贅沢は言いません。生きてるなら説得できるかもしれないですしね!


 「生きてるならOKですよ!」

 「そうか……お前は強いな」


ラスターさんはなぜか嬉しそうでした。シルちゃんがいなくなったというのに不謹慎ですねぇ……


 「俺ももっと強くなるよ。……ありがとな」

 「ほえ? あ、はい、ええ!」


何言ってんのか分かりませんが前向きなのは良いことですね!


 「その意気です、ラスター殿。互いに信じ支え合い、共に成長していく、それでこそ仲間です」

 「わぉ、ボマードさん! いつからいたんです?」

 「……ずっといましたが」


陰からこっそり見守っていたんですね。少し寂しそうに見えますが気のせいでしょうね、ボマードさんは大人ですから。


 「……アレのことも相談してみるか」

 「挑まれるのですな?」


……“アレ”って、何でしょうか?



続く


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