44. 嫉風乱気流
前回のあらすじ!
シルフィーさんの生家にやってきたラッさんとシルちゃん!
そこに現れたのはなんと、魔王の手下・サラメーヤさん! ひぃ~っ! ラッさん、シルちゃん、生きて帰って来て~!
「サラメーヤ……! やっぱりここに何かあるんだな!?」
「それはどうかしら?」
ラスターは剣を抜いて臨戦態勢である。サラメーヤは一見余裕そうな表情だが、隙が見えない。流石のラスターも身動きをとれずにいた。
「お姉様!?」
「バカ、シルコ! 隠れてろ!」
サラメーヤの気配を察知したシルフィーが階段を駆け上がってきた。こいつは犬か。
「シルコ? 何、あなたそいつの正体知らないの?」
「気づいてねぇわけねぇだろ。自白すんの待ってたんだよ」
「嘘!?」
当然である。出会った時からずっと挙動不審だったのだから。ゴーフー村に連れてきたのはラストチャンスのつもりだったのだ。
「そりゃそうだ。それで、シルフィーはどうしたいの?」
「へっ? どうしたいって……私……」
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サラメーヤさん……これからどうするの?
シルフィーはどうしたい?
……サラメーヤさんに任せる。
そう……! いい子ね、私に全部任せなさい!
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「お姉様に……任せる……」
優しい言葉を掛けてもらえると思った。シルフィーの記憶の中のサラメーヤは、常に優しく美しかった。
「そう、じゃあ言わせてもらうわね。あなたもう要ラナイ」
サラメーヤが微笑みながら投げかけたその言葉は、シルフィーにとって死と同じ意味だった。
「どういうことだ……? お前ら仲間じゃないのか?」
シルフィーが戸惑うラスターを押しのけて、サラメーヤの脚にすがりついた。ラスターが焦って一瞬斬りかかりそうになったのは内緒である。
「見捨てないで……見捨てないで……言うこと聞くから……もう指輪盗らないから……お願い……見捨てないで……」
青ざめた顔のシルフィーは震える声で懇願した。サラメーヤは左薬指の指輪をさすりながらシルフィーを見下ろした。
「シルフィー、顔を上げて」
「お姉様……」
シルフィーの瞳に少しだけ光が戻った。きっと許してくれる、そう感じたのだ。しかし、サラメーヤが続けた言葉は、シルフィーにはとても信じられないものだった。
「あんたの両親ね……ワタシが殺した」
シルフィーは顔を上げたまま硬直した。サラメーヤは構わず語り続けた。
「あなたは連れ出したかったから……邪魔なアンタの両親殺して、カモフラージュ用に背恰好が似てる女の子も殺して、誰か分かんないように皮も剥いだってわけ」
シルフィーの呼吸が荒くなる。ずっと同じ姿勢のまま、血走った目でサラメーヤを見つめていた。
「なぁに、その顔? 私に盾突こうって……」
「シルコ、頭下げろ!!」
ラスターの声が響いた。シルフィーも反射的に頭を下げる。すると、ラスターの剣がシルフィーの頭上を通り過ぎて、真っすぐサラメーヤの下腹部に突き出されていった。
「死ぬわよ! 私が!」
サラメーヤの唐突な敗北宣言。しかしラスターとて命まで奪うつもりだったわけではない。瞬間、ラスターの脳裏にある男の嘆きが甦った。
『もう一度、サラ、と呼べるだろうか』
そしてラスターの動きが、一瞬鈍った。サラメーヤはその隙を見逃さない。
サラメーヤはなんとシルフィーの顎を思いきり蹴り上げた。持ち上げられたシルフィーの頭がラスターの剣の腹にぶつかり、後方に弾き飛ばされていった。
「しまっ……」
「もうちょっと意地悪な子なら気付いてたかもね。じゃあね、優しい勇者くん♪」
サラメーヤは窓枠に手を掛けて逃げ出そうとした。
しかしその足首をシルフィーが掴んだ。
「……何?」
「……私も連れてって」
消え入りそうな声でそう言った。慌てて剣を拾い上げたラスターは血相を変えて叫んだ。
「さっきの話聞いてたろ!? 王都に帰って罪を償うんだ!」
「……私は何も悪いことしてない」
ラスターは突風により逆方向に吹っ飛ばされた。シルフィーの魔法である。そしてシルフィーは、サラメーヤの背中に無理やりおぶさり、屈託のない笑顔を向けた。
「私のために殺しまでしてくれたんだね……お姉様、私嬉しい!」
「あらまぁ……湿っぽくなっちゃって、嬉しいケドちょっと寂しいかも」
二人は上昇気流に乗って飛び去っていった。ラスターがドラゴンを呼ぶ頃には、もう彼女らの姿は見えなくなっていた。
「シルコ……いや……あいつは、もう……」
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「あ、ラッさん、おかえりなさーい!」
「ん? おう……」
おやおや? なんだか元気がないみたいです。私を仲間外れにしてこんな夜遅くまで一体どこを……ってあれ?
「ラッさん!! シルちゃんは!? どこに置いてきたんです!?」
「ああ、シルコか……」
いやいや、「あっ、やべ」みたいな顔してんじゃないですよ! どうしてシルちゃんと二人で出かけて、帰ってくるときは一人なんですか! ちゃんと責任もって連れて帰ってくださいよ!
「シルコは……その……」
「むっ?」
「……すまん。俺の力不足だ」
あるぇ~? ただごとじゃない雰囲気ですよ? まさかシルちゃんの身に何か……
「じゃあ俺自分の部屋に戻るから……」
「待ってください! シルちゃんは!? ラッさん!?」
続く




