42. 嫉風、そよぐ
前回のあらすじ!
チギリちゃんは大変ヒマです! お? ラッさんが帰ってきましたよ!
「むっ、ラッさんが帰ってきそうな気配!」
「ぶひゅ!」(たしかに匂うぜ!)
「犬かあんたは」
魔法の練習をしながらゆるりと過ごす昼下がり、ラスターさんが一晩振りに宿に戻ってきました。ウリたん、出迎えに行きますよ!
「ラッさん、おかえりなさい!」
「ぶっひひ!」(おかえり!)
「……出迎えとは珍しいな。何かあったか?」
何があったとかではありませんが……当然気になりますよね!
「ラッさん! 昨晩はどちらに~?」
「メッセンジャーの家で少し調べ物をな。……何だその顔」
「ぶひひん」(さめてるねぇ)
メッセンジャーさんといえばいつもの連絡員さんですね。リリスさんのところに行ってたわけではないんですね。いいんですよ別に、調べものなら仕方ないですよね。
「それで? 何調べてたんです?」
「何でもいいだろ。それより飯食ったのか?」
「三食きっちり!」
答えるとラスターさんは安心したようにうなずきながら、懐から箱を取り出しました。あれはお弁当箱でございましょうか?
「悪いがこれ、リリスに帰してきてくれ。俺は今から行くところが……」
「手弁当! その話詳しく!」
「いいから行って来い! それから“美味かった、ありがとう”って言っとけ!」
つれないですねぇ。いいですよ、詳しい話はリリスさんから聞きます。
「そうだ、シルコは部屋にいるんだよな?」
「はい、どうかしたんです?」
「今から少し出掛けようと思ってな」
「えー、それじゃあ私も行きますよ!」
「ダメだ」
私だけ仲間外れですか、そーですか。大人しくリリスさんに相手してもらってますよ。娘の心が母の方に傾いても知りませんからね。
「お前は娘じゃない。それにまだ結婚してない。してもお前を娘にはしない」
「心を読まれました!?」
「全部口に出てんだよ」
やれやれです。しかし“まだ”結婚していない、ということはいずれは……それが聞けただけでも良しとしましょう。
「うえっへっへっへ!」
「何笑ってんだ気持ち悪いな……」
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「てなわけでお返しに上がりましたー」
「ありがと、わざわざ……ラスターくん何か言ってた?」
恐る恐るといった感じで感想を求めてきました。やだかぁいい。それについてはしっかり伝言を預かってきておりますので。
「“美味かった、ありがとう、愛してるぜ”と言ってました」
「あいっ……いや、それは絶対言ってないよね!?」
バレてしまいましたか、流石はラスターさんの嫁です。
「でも顔は赤くなってますよー」
「へっ!? 違うの、これは……」
「いいんです、いいんです。家族なんですから隠しごとなんて」
「え、家族……?」
いけません、少し気が逸りすぎてしまいましたね。“まだ”家族じゃないんでした、ふっふっふ……
「気にしないでください! それより、お弁当届けに行ったとき、ラッさん何か言ってました?」
「あー……それがね、その時ラスターくん、ちょうど寝てたみたいで、だからメッセンジャーさんに預けてそのまま……」
「ゴッサム!!」
「チギリちゃん!?」
何やってんですかラスターさん!! 折角リリスさんが勇気の差し入れを持ってきてくれていたというのに……! おっと、思わず机の角に頭をぶつけてしまいました。
「なんで……なんでですか……!」
「こっちのセリフだよ!?」
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一方そのころ、ラスターとシルコはドラゴンに揺られていた。
「ねぇ、どこ行くの!」
「ゴーフー村ってとこだ」
「えっ」
シルコは青ざめた。ゴーフー村はシルコ(本名シルフィー=アランドロン)の故郷である。
どうして自分一人を連れてそこへ?
勇者は自分の正体に気づいたのか?
そんな考えが頭の中をぐるぐる回り出した。シルコは不安の極限状態となった。
「あ、あわ、あわぁわ……」
「おい、シル……聞いちゃいねぇよ」
シルコがあわあわしている間に二人はゴーフー村へとたどり着いた。シルコにとっては懐かしいふるさとの夕暮れだった。しかし感傷に浸っているような心の余裕は一切なかった。
「あの、ラスターさん、なぜ私をこんな辺鄙な村に……?」
「お前が一番よく分かってるんじゃないのか?」
ラスターは感情を押し殺したような冷たい声で答えた。彼女はもはやシルコではいられなくなってしまうかもしれない。シル子は全身の汗腺という汗腺から冷や汗を流し始めた。
「いやぁ、はは、何のことかなぁ、ここに来るのは、初めて、はじめたですよ!」
「ほぉ、そうか。シルコ、ここはシルフィー=アランドロン……」
「いやぁあああああ! バレてるぅぅうぅぅううう!!」
「あ?」
思わず金切り声を上げたシルコをラスターが不審そうに見つめた。もしやまだバレていない? シルコの胸に一筋の希望がともった。
「何叫んでんだよ……ビックリするだろ……」
「ご、ごめんなさいね! ちょっと、でっかい虫が、そう、虫にビックリして!」
「おお、そうか……話戻すぞ?」
「どーぞどーぞ!」
「ここはシルフィー=アランドロンとかいうコソ泥の生まれ故郷らしい。そしてそいつが魔王に繋がるカギになるかもしれない」
「うわぁお……」
大体当たっていたので心臓が止まりそうになった。しかし、シルコは止まりそうな心臓を必死に脈打たせながら、なんとかラスターの話の腰を折ろうとした。
「で、でもさ、そいつ単なる大怪盗でしょ? 魔王みたいに人殺したりする度胸はないと思うの!」
「それはそうかもな」
「ほらね! 調べるだけ無駄だよ!」
「シルフィーはこの村にいた頃、“村の恥”“ドブネズミ”“ゴーフーの寄生虫”などと呼ばれていたらしい」
「え、嘘!?」
少しショックを受けたが致し方ない。シルフィーの盗み癖はこの村にいた頃からのものなのだから。
「そんなシルフィーに唯一優しく接していたのが“サラメーヤ=マーシー”……前村長の娘だ」
「おねっ……へぇー、そんな女神さまみたいな女性がいたんだね!」
お姉様のことまでバレている。シルフィーはもう焦りとか通り越して段々どうでも良くなってきた。
「それで? 何だっていうの?」
「サラメーヤはこの間の魔王の宣戦布告で一人だけ顔出してた女、あれだ」
「あっ、そういえば……」
「そしてサラメーヤも、シルフィーがこの村から居なくなったのとほぼ同時期に姿を消している」
「よく調べてるじゃない。でも私を連れてきた理由にはなってないわよ。だって私は、サラメーヤ様って人とはもちろん、シルフィー=アランドロンとだって一切無関係なんだから!」
「いや、それは違う」
「えっ」
知らないふりを決め込もうとしたがそれは無理なようだ。
「シルコ……お前この村に住み着いてた時期があるよな?」
「えっ、そうな……の……?」
「生まれつき天涯孤独だったお前はいろんな村や町を放浪していた。行方不明者リストにお前が載ってたぞ」
サラメーヤの魔術で顔を変えているとはいえ、たまたま放浪してた少女と顔と名前が一致するってどんな偶然? シルコは困惑した、困惑したが……
「えっ、えっ、えーと、そうなの! まったくもってその通りで!」
全面的に乗っかることにした。
「それだったらこの村のことも少しは知ってるだろうと思って連れて来たってわけだ」
何だかよく分からないがシルコは助かった。シルコは会ったこともない少女に、そしてこの顔を貼りつけてくれたサラメーヤに感謝の祈りを捧げた。
「そーいうことなら任せなさいよ! 私が案内してあげる! ひゃっはー!」
「……急に元気になったな」
続く




