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41. 二つで一つの奇跡の調和

前回のあらすじ!

ラスターさんがシルちゃんに関する重大な資料を見つけたみたいです!

しかしそんなことを知らない私たちはのほほんと過ごしているのでした!

 翌朝。まだラスターさんは帰ってきていませんでした。どこ行ってるんですかねぇ。


 「シルちゃ~ん、朝ご飯食べに行きましょ~」

 「まだ眠い……」


まったく、夜更かしするからですよ。早寝早起きできない子は悪い鬼にさらわれるってお母さんが言ってました。


 「ウリたん!」

 「ぶっひ!」(まかせろ!)


ウリたんがベッドに突進すると、ベッドの脚のスプリングが大きく跳ね上がり、シルちゃんは天井まで跳ね飛ばされてしまいました。ゴスンと大きい音がしました。痛そ~


 「いったぁい! 何すんのよこの豚……!」

 「ぶ、ぶひ!」(よ、よしてくれ、俺は命令されてやっただけなんだ!)


おっと、シルちゃんがウリたんの首を絞めています。止めないと。


 「シルちゃん、早くいかないとサンドウィッチが売り切れてしまいます!」

 「ちっ……後で覚えとけよ!」


ガレオン工房(パン屋さん)のサンドウィッチはすぐ売り切れてしまいますからね。シルちゃんが寝坊したせいでかなりギリギリです。ウリたんの好きなクルミパンは在庫潤沢ですが。


 「メシアガレオンさん、こんにちは!」

 「イラッシャイマセー、チギリ、サン」

 「うお!? ゴーレム!?」


出迎えて下さったのはメシアガレオンさん、ガレオン工房のパン職人さんです。私も初見の時はロボットかと思ってビックリしたものです。


────────────


 『きゃぁ、ロボット!?』

 『ソノ単語ハ、登録、サレテイマセン』


────────────


ロボットではなく“ゴーレム”という土人形だと言い張っています。喋り方が機械音声っぽかったり、ボディが金属質に見えたり、関節が稼働するたびにキュイキュイ聞こえたりするのは、私の先入観が原因でしょう。


 「シルちゃん、メシアガレオンさんはゴーレムさんなんですよ」

 「だからそう言ってんじゃん……衛生面大丈夫なの?」


 「心配するな。衛生管理局からもお墨付きだ」


厨房から出てきましたのは店主のイストさん。メシアガレオンさんをこのお店に持ち込んだ張本人だそうです。


 「そうなんだ……いや、でもゴーレムって素体は土人形でしょ?」

 「おっと、ただの土じゃねぇ。丈夫で光沢があって触るとほのかにひんやりしている」


それはやはり金属なのでは……? まあ、そんなことはどうでもいいので、さっさと朝ご飯を買って帰りますか。


 「えーと、クルミのパンを1つと……「サンドウィッチを二つ」」


ん? 誰かとハモりました。左を見ると、きれいなドレスを着た女の子が同じように私を見つめていました。


 「申シ訳アリマセン、サンドウィッチ、ハ、モウフタツ、シカ」


何ということでせう。この子が来なければちょうど私とシルちゃんの分を買えたというのに。1:1で分けますか。仕方ないです、シルちゃんには我慢してもらいましょう。


 「あなた……二つとも私に譲ってくださらない?」

 「えぇ……せめて1:1で分けてもらうわけには……」


って、どうして私が下手に出てるんですか。立場も目線の高さも対等じゃありませんか。


 「どうしても二ついるんです。メシアガレオン、クルミパンの在庫は?」

 「アホ、ホド、余ッテ、イマス」

 「だそうよ。それで我慢なさいな」

 「クルミパンはウリたんの分ですよ! いいじゃないですか、平等に分けましょーよ!」


ぶっちゃけ他のパンでも良かったんですが、ここまで偉そうにされると流石の優しいチギリちゃんも給料袋に火がつきますよ。


 「なになに、喧嘩?」

 「私はこのシルちゃんと二人で食べるんですよ! だから二つ! いるんです!」

 「……お話になりませんわね。メシアガレオン、私は倍の額払いますわ」

 「オ買イ上ゲ、アリガトウゴザイマス!」


やはりロボもといゴーレム、打算的です! しかしラスターさんからのお小遣いは必要最小限、札束で殴られては勝てる気がしません。


 「シルちゃん、サンドウィッチはまたの機会にしましょう……」

 「さっきの熱意どこ行った」


女の子はサンドウィッチの入ったカゴを満足そうに受け取っています。私は悔しいです、結局この世界も資本主義なんですね。


 「ジェイミーよ、子ども相手にやりすぎじゃねぇか? まあお前も子どもだけど」


一部始終を見ていたイストさんがからかうように言いました。そうですか、あの子はジェイミーという名前ですか。……どこかで聞いたことのある名前ですね。


────────────


 『解析早かったじゃねぇか、ジェイミー!』


────────────


 「サジータさんのお手紙解読した人だー!」

 「だっからぁ! 私はあの人のお世話係じゃありません!」


声を上げた後気まずそうに目を逸らしました。そして少しの間気まずい沈黙が流れます。私、何かやっちゃいました?


無言で見つめていると、ジェイミーさんは大きくひとつ咳払いをしました。おっ、何か言いますよ。


 「あなた相当な世間知らずのようね。私のことをご存じないようなので教えて差し上げますわ」

 「ご親切にありがとうございます」

 「私の名はジェイミー=ワンダーフォーゲル。名門ワンダーフォーゲル家の長女にして」

 「やっぱりお金持ちですか」

 「……にして、神童と呼ばれる若き天才地質学者! そして……」

 「ほえー、すごいんですねぇ」

 「やりづらいわね! 黙って聞きなさいよ!」


怒られちゃいました。黙って聞きましょう。ちしつがくって何かよく分かってませんが神童というぐらいですからすごいんでしょう。


 「あ、続きをどうぞ」

 「……そしてぇ、……奇跡を司る神ファミラーコに仕える十二神官よ」

 「おぉー」

 「リアクション薄いわね!」


十二神官さんでしたらこれまでにも何人かお会いしてますしねぇ。上裸エプロンのオネエさんの後ですからもうちょっと頑張ってほしかったところです。


 「なんなのよ、もう…………」


また無言でこちらを見つめてきています。まだ何か御用でしょうか……


 「こっちが名乗ったんだからそっちも名乗りなさいよ! 礼儀でしょ!?」

 「あぁ、そういうことですか! 私はチギリっていいます!」


私は素直なので言われてすぐに名乗りましたが、シルちゃんがそっぽを向いて黙りこくっています。


 「シルちゃん、拗ねてるんです?」

 「別にぃ? ただ私、“神童”とか“天才少女”とかいうのあんまり好きじゃなくってぇ」


おっと何やら雲行きが怪しいですぞ。なじるような言い方をしています。


 「仮によ? 今ちやほやされてたとして10年も経ったら“ただの人”にランクダウンよね。後は劣化していくだけの早熟な凡人に決まってると思うの」


おっ、要するにただの嫉妬ですな、偏見がえげつないです。あまり見苦しい姿をさらされると友達として恥ずかしいです。


 「……というの……」

 「えぇ? 何? 聞こえな~い」

 「なんでそんなこというの~! うえぇえぇえぇん!」


意外ッ! ジェイミーさんは周りの視線も忘れて号泣し始めました。シルちゃんの見苦しい嫉妬が予想以上にクリティカルヒットしてしまったようです。


 「シルちゃん、謝りましょう」

 「ご、ごめんってば! まさか泣くほどとは思わなくて……」

 「ひっぐ! 私だって……ぐす……頑張ってるのに……」

 「すみません、シルちゃんも悪気が……ありましたけど、シルちゃんは他人を僻んでばかりいる浅ましい子なので気にしないでください! 大丈夫です!」

 「えっ、そう思ってたの?」


しかしジェイミーさんが泣き止む様子はありません。見かねたメシアガレオンとイストさんが口をはさみました。


 「坊チャマ、太客ノ、ジェイミー様、ガ、泣イテ、オラレマス」

 「太客言うな。すまんが嬢ちゃん方、今日のところは帰ってくれ。メシアガレオン、あやして差し上げろ」

 「カシコマリ!」


追い出されてしまいました。取りあえず、シルちゃんには深く反省していただきましょう。



────────────



 「どうしてあんなこと言ったんですか? 見苦しいですよ?」

 「ごめん……家柄にも才能にも恵まれてるのが羨ましくて……」


やはりただの嫉妬でしたか。ウリたんもクルミパンにかじりつきながら呆れ顔です。クルミパンもなかなかイケるじゃないですか。


 「……あの子見かけによらず大食いなんですね」

 「金持ちだから胃袋肥大してるんでしょ」

 「シルちゃん!!」



────────────



 「ジェイニー? 入りますわよ?」

 「うん、どうぞ」


 ワンダーフォーゲル邸の日当たりの良い部屋に彼はいる。ジェイミーの双子の兄・ジェイニー=ワンダーフォーゲルだ。


 「サンドウィッチ、買ってきましたよ。一緒に食べましょう」

 「いつもありがと」


ベッドから身を起こしながらカゴを受け取った。彼がこうしているのは何も怠けているわけではない。


 「体調はどうですか?」

 「今日はちょっとマシかな。庭の散策ぐらいならできそうだ」


彼は幼い頃より病を患っている。その病により体の免疫機能が著しく低く、普通の体なら一瞬で殺してしまえるようなヘナチョコ細菌にも簡単に感染してしまう。要するに常に何らかの感染症にかかっているような状態なのだ。


 「付き合ってくれる? ジェイミーといる時が一番健康なんだ」

 「もちろん」


サンドウィッチを頬張りながら嬉しそうに見つめ合った。ガレオン工房のサンドウィッチはジェイニーの大好物である。ジェイミーは病弱な兄のために毎朝これを買ってきている。


 「やっぱりおいしいなぁ。でもこれだけ美味いと他の商品の味も試したくなるね」


ジェイミーは兄の言葉を聞いてしばし考え込んだ。先程のチギリたちとのやり取りを思い返していたのだ。そして感情を爆発させた──


 「だ、だったら先に言ってください!! 恥をかきました!!」

 「え? 何が?」

 「あんなの品性に……品性に欠けますわ~!」


ジェイミーは悔しくてまた泣き始めてしまった。兄はただ、意味も分からず困惑するだけであった。


 「……ま、ジェイミーも年頃だしね」

 「やかましいですわ!」



続く


サンドウィッチの語源は人名だとか、そんな細かいことを気にしてはいけないのだ。

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