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39. オシノチギリはまだ懲りない

前回のあらすじ!

師匠とラッさんに美しき過去……! 青春ですねぇ。決めました、私も師匠を信じますよ!

えっ、次は私の番? 一体何のお話ですか?

 「思い出すって何をですか……」


 ピスケスさんは不気味にほほ笑み、アムールお姉さんは無言で私の肩にごつごつした手を置いています。


 「チギリちゃんの前世の記憶ですよ~忘れたままって気持ち悪いでしょう?」

 「わ、私忘れてませんよ?」


本名は押野契(享年11)、両親とお姉ちゃんと飼い犬のぷーちゃんと暮らしていた、それである日突然死してこの世界に……あれ、私なんで死んだんでしたっけ?


 「ピスケスさん、たいへん! 私死因を忘れてます!」

 「でしょう? じゃあアムールさん、やっちゃってください~」

 「ちょっとくすぐったいわよ」


そう言うと私の肩に置いていた右手を離し、私のおへその辺りに指先を向けました。


 「待って待ってください! 何する気ですか!?」

 「過去世の記憶というのは徐々に消え去りゆく物。でもね、魂に刻まれた“愛の記憶”だけはどれほど時が経とうと色褪せないの。……今から秘孔をついてそれを呼び起こします」

 「痛いのは嫌ですー!」

 「痛みは一瞬よ♡ ……せいっ!」


腹部に鋭い痛みが走るのとともに、脳内に白い光が溢れ出してきます。なんだかとても温かいです……ちょっと眠くなってきまし……た……ガクッ


 「キャー! チギリちゃーん!!」

 「安心なさい、少し眠ってるだけよ」

 「ホントでしょうねぇ!? チギリちゃんに何かあったらブチ○してやるからなこの変態カマゴリラ!!」

 「まー、口の悪いこと!」

 「あらまぁ~二人もすっかり仲良しですね~」



────────────



起きて下さい……目を開けて下さい……


何でしょう、可愛らしい女の子の声が聞こえてきます。言われるがままに目を開けると目の前には鏡が置いてありました。


 「何で鏡が? ……あっ、よく見たら!」


鏡ではなく、私と瓜二つの可愛い女の子が私の顔を覗き込んでいたのです! 彼女は一体? ちょっと正座した方がいいでしょう、これは。


 「あなたは誰です?」

 「私はあなたです!」


なるほどつまり彼女もまたチギリちゃんであると……


 「しかしあなたであってチギリちゃんではない……まあ、私の中にあなたが内包されていると言いましょうか……」


 「ふむふむ? 言ってることが難しいですね」


 「実は私もよく分からないんです!」


 「なぁんだ、そうなんですか!」


 「そうなんです! はっはっはっは!」


ひとしきり笑い合った後、私が前世の記憶を取り戻しに来たことを思い出しました。押野契ちゃんの死の真相を確かめないと!


 「私この世界に来る前のことが知りたいんです! 主に死因を!」


 「おお、そうだったんですか! それじゃあ記憶をお取り寄せしましょう!」


そう言って背を向けた後、上着の中から見慣れた端末状の物体(スマホらしき何か)を取り出し誰かと話し始めました。


 「もしもし冥界情報管理センターさん? 過去世の記憶の請求なんですけど……はい、一世前で……はい、死亡付近とそれに関連する記憶を……はい、お待ちしてます!」


前世の記憶ってそうやって取り寄せるんですね。ていうか意外とあっさりもらえるんですね。


 「本当はもっと厳しいんですけど私は特別なのです! えっへん!」


 「心を読まれました!?」


 「何言ってるんですか? 私はあなたなんだから当然じゃないですか」


 「そっかぁ……なんだか照れくさいですね」


 「ですです! おっ、そう言ってる間に資料が届きましたよ!」


 「仕事がお早い……!」


膝の上にふわりと紙束が落ちてきました。前世の記憶って書面で届くんですね……と思って手に取った瞬間、頭の中に前世の映像が流れ込んできました。


 「むぉはぁああああ!? くぉれは!?」


 「それじゃあゆっくり思い出してくださいね~」



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 その日は付き合い始めて1週間のカップルと同じぐらい暑い夏の日でした。小学校は夏休みへのカウントダウンを始めていましたが、その時の私にはそれよりも楽しみにしていることがあったのです。


 「契ちゃん一緒に帰ろ~」

 「すみません! 今日はこのあと本屋さんに直行するのです! 新刊の発売日なので! “恥恋”が最終回なので!!」

 「あ~そうだったね~私も本屋行くよ~」


【恥恋】

人気漫画『恥の多い恋でした。』の略称。主人公の平正ひらまさ おさむと個性豊かなヒロイン達が繰り広げるドタバタラブコメ。連載の長期化等が原因で、人気の割に結末を見届けた読者は少ない。チギリちゃんは最近ハマり始めて単行本で一気読みした。



 「買えてよかったね~」

 「ええ、定期購読してますからね! ぬかりなく!」


この時をどれほど待ち望んでいたことか。最終回ということはつまり平正先生の恋愛模様にも決着が着くことは必然! つまり!


 「幾度となく妄想してきたカプが現実のものにッ! おっと、鼻血が……」

 「今日暑いからね~契ちゃんの……推し? が勝つといいね~」

 「勝ちますよ! ペンダントと伝説の鐘のフラグもありますからね!」

 「ふ、ふらぐ? そうなんだ~よかったね~」

 「ああ、もう我慢できません! 私ダッシュで帰りますね!」

 「無理しないでね~」


湧き上がる衝動を抑えきれなかった私は、困惑する友人をよそに家に駆けだしました! ……ともちゃん困ってたんですか?


 「ぷーちゃん、ただいま! 後で遊んであげますからね!」

 「わん!」(嬢ちゃん、お帰り!)


ぷーちゃんのモフモフボディの誘惑に後ろ髪をひかれながらも、洗面所で手洗いを済ませて自分の部屋に立てこもります。今は、一刻も早く、この結末を見届けなければ!


本当に楽しみにしてたんです。それなのに……


 「はー……え? はー……マジですか?」


思わず二度見しましたよ。何ですか、この締めのセリフ?


 『この騒がしい日々はもしかしたら永遠に……いや、彼女らが大人になって俺のことを忘れるその日まで。ま、その程度なら付き合ってやるのも悪くない』


散々引っ張っておいてこの終わり方は有りえないでしょ。他のヒロインとくっつくならまだしも。おれたたエンド(亜種)はないでしょ。


 「ラストで最悪のクソ漫画になり果てましたね。おっと、汚い言葉は言っちゃダメです」


本棚に並べられた“恥恋”全64巻の単行本と未収録分が掲載された雑誌。今まで積み上げてきたものの結果がこれだと思うとやり場のない怒りがこみ上げてきました。


 「こんなものッッッッッ!!」


私は怒りに任せて本棚をひっくり返してしまいました。床に散らばったこのクs……排泄物漫画を見て焼いてやろうかと思ったほどです。


 「…………はっ! 本を焼くなんて野蛮な思想です。他のことして落ち着きましょう」


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 「すみません、ちょっといいですか?」


 「ん? どうしました?」


 「私ホントにこの後死ぬんですか?」


 「ええ。さっきの回想中にも伏線らしきものがちらほら」


 「嘘でしょ!?」


 「まあとにかく続き見てみましょー!」



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排泄物漫画を読まされた私は気分転換のためにお姉ちゃんの部屋に行きました。お姉ちゃんの持ってる恋愛ゲームを貸してもらおうと思ったのです。


 「ゲームはいいですよね、自分で好きなルート選べますから」


お姉ちゃんは不在でしたが、学習机の下に置いてある段ボールの中にあるゲームソフトは私が自由に借りて良いことになっています。お姉ちゃんは高校生ですがR指定の物はより分けてくれてるので安心です。


 「よさげなのを見つけたので自分の部屋に戻ってプレイしたいと思います」


気分転換ならぷーちゃんと遊べば良いのでは? と思うかもしれません。しかしカップリングの傷はカップリングでしか癒えないのです。


そしてそのゲームは申し分ない出来栄えでした。キャラ良し、ストーリー良し、何より主人公とヒロインの関係がエモエモのエモでした。もう道中興奮しっぱなしでした。


 「しかしCER○-Aにしてはなにぶん表現が過激では? まあ、続けるんですけどね」


自分の勘を信じて再度確認すべきだったのです。その作品はR15相当、つまり11歳のチギリちゃんには“まだ早い”代物。


ですがせっかく見つけた宝物。それも排泄物を見せつけられた直後の出来事。一体誰が私を止められましょうか?


 「はぇぇ……いやいや、そんな場所であんなこと……うわぁお……」


本当はいけないことだったのですが私は画面から目が離せなくなっていました。自分の両の鼻の穴から赤い血が滴り落ちていることにも気づかず……


 「え……マヂ無理……尊い……」


それが最後の言葉でした。死因は出血多量です。



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 「……………………えっ、終わり?」


 「はい、悲しい出来事でした……」


 「待ってください! これじゃあ私マヌケすぎやしませんか?」


 「…………そしてあなたはこの世界に転生してきたのです!」


 「話題を逸らしましたね!?」


 「いいじゃないですか、ちょうどよくあのタイミングで死ねたからピスケスの召喚魔法でこの世界にやって来れたんですよ?」


 「それはそうですけどぉ……まさか文字通りの尊死(とうとし)を遂げていたとは……」


 「こまめな水分補給をしなかった報いです! 今世では気を付けて下さい! せっかく帰ってこれたんですから……」


 「はい……ん? 帰ってこれたって?」


 「ああ、私この世界の出身なんですよー」


 「そうだったんですか! 前世でもこの世界にいたとは……ロマンティックですね!」


 「ですです! ではそろそろ時間なので私はこれで~」


 「あ、はい! 色々ありがとうございました~!」



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 目を覚ますとフカフカのベッド上に寝かされていました。ピスケスさんのお家のベッドでしょうか。それにしてもフカフカです。このままもうひと眠りしたいぐらいには。


 「チギリちゃん! 目ェ覚めたんだね!」

 「おぅっふ。シルちゃん、その顔どうしたんです?」


涙目で飛びついてきたシルちゃんの顔はいつもより華やかで、少し垢ぬけて見えました。私が寝ている間にアムールさんから(多分無理矢理)メイクを施されたのでしょう。


 「おはよう、お目覚めはいかがかしら?」

 「うわ、アムールさん」


寝起きに見ると少しきついですね。


 「おかげさまで全部思い出しましたよ! 私……」


言いかけて少し考えました。何て説明するの? あの間抜けな死因を包み隠さず?


…………言えないです。


 「……すみません……言いたくないです」

 「そう……余程辛いことが起きてたのね……ピスケスちゃん、今夜はこの子に美味しいものいっぱい食べさせてあげて」

 「はい~チギリちゃん、大丈夫ですよ~」


何か心配されてます! 胸が痛いです!


 「チギリちゃん、今は辛いかもしれない。でもね、それを飲み込んで仲良くなれたら、またオトナのオンナに一歩近づけるのよ。だから今は楽しい思い出をいっぱい作って、心を鍛えることね」

 「アッ、ハイ……」

 「それじゃあ私は失礼するわ。チャオ~」


その日の夜は、ピスケスさんがおいしいご馳走をたくさん用意してくれました。しかし砂を噛むような、切ない感覚でした……


続く!


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