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37. それでも勇者は止まらない

前回のあらすじ!

リッキーさんの正体は何とスライムさんだったのです! しかしそれさえ分かってしまえばもうラッさんは負けません! 見事にリッキーさんを撃破、めでたしめでたしです!


……と思いきや、何者かが空間魔法でリッキーさんを逃がしてしまいました。その人の正体は──信じたくありません!


 師匠が魔王さんサイドについたなんて信じられません、そこで私は師匠のお兄さん・ヴァイスさんのお家に行って確かめることにしたのです。


 「クロウリー? 調査に行くとかなんとか言ってしばらく帰ってないけど」


このタイミングで!? クロウリー師匠、完全にクロじゃないですか! いや、そんな寒いこと言ってる場合じゃないんですよ!


 「いつ帰ってくるか分からないって言ってたよ。僕らの式までには帰ってくるといいけど」

 「あ、ヴァイスさんとアルさん結婚するんですか……」

 「うん、そういえば言ってなかったね。暇だったら式に顔出してくれってラスターくんにも伝えておいておくれ」

 「はーい、おめでとうございます……」


素直に喜べません!! だって一番楽しみにしてたはずの師匠が……あんな人に手を貸すなんて……あんな人に?


 「そうです! ししょーは騙されてるんですよ!」

 「えっ!? クロウリーが誰に!?」

 「あっ、いえ、その、こちらの話です」


リッキーさんは師匠にとって尊敬する大師匠、その正体を知らないとあれば、騙されていてもおかしくありません!


 「そうと分かれば善は急げです!」


師匠に真実を教えてあげないと! リッキーさんはスライムの擬態なんですよー、本物じゃないですよー、と!


 『そんなバカな話があるか。あんな愚鈍で非力で矮小な下等生物が先生に成りすませるはずないだろうが』



────────────



 「ぐすっ……ひっく……うぇえ~ししょーのアホ~……」

 「泣いてちゃ分かんねえだろ。いったん落ち着け」


師匠は私の言うこと信じてくれませんでした。私嘘ついてないのに……


 「……しょうがねぇよ。あいつだってそんなこと信じたくないだろうからな」


そんなこと言ったって……私の心は深く傷つけられました。師匠はこの世界で初めて出会った同士だったのに……


 「ラッさん、何とかしてししょーの目を覚ましてあげたいです」

 「……そうだな。だがあいつがどこにいるかも分からない」


それですよ、ウリたんも全く見当がつきませんわと言ってました。困りましたねぇ。


 「チギリ、どうしても心配なら今からピスケスの家行ってこい」

 「え、いやです……」

 「即答かよ」


そんなのシャチの巣に迷い込んだアザラシのようなものですよ。ところでシャチって巣作るんですかね?


 「心配すんな、取って食われるわけじゃない。……多分」

 「多分って言ったぁ~!」

 「冗談だ。あいつならクロウリーの居場所にも心当たりがあるかもしれないしな」

 「ししょーの? ……シルちゃんについて来てもらっていいですか?」

 「……いいんじゃねぇか。じゃ、俺は他にやることあるから」


ラスターさん、行ってしまいました。こんな可愛い娘をロリコンお姉さんの巣に送り込んで不安じゃないのでしょうか。でもそんなことを言ったらまた「お前は娘じゃない」と怒られそうなので止めておきます。



 「シルちゃーん! お出かけしましょ!」

 「いや、違うの、何か偶然見かけたことがあったから知ってるような気がしただけで私別にあのお爺様とは知り合いでも何でもないしましてや仲間なんかじゃ……」

 「……何言ってるんですか?」



────────────



 そしてカプルポートにあるピスケスさんのご自宅にやってまいりました。海の見える丘にそびえたつ立派な邸宅! いい家ですねぇ。


 「チギリさんとシルコさんですね? ご主人様なら中でお待ちしております」


メイド服を着た可愛らしい女の子がお家の中に案内してくれました。年は私と同じぐらいでしょうか。…………ヒエッ、噂は本当だったんですね、幼女をメイドにして侍らせているという、あの。


 「チギリちゃん、あいつやっぱりヤバいんじゃないの?」

 「しかしシャチの巣に潜り込まねば……」

 「シャチ?」


大丈夫です、ピスケスさんは呪いで幼女に接近できないはずです。だから平気なのです……多分。


 「あら~チギリちゃんにシルコちゃん~いらっしゃい」

 「お久し振りね、お嬢ちゃんたち」


ピスケスさんはバルコニーにて、半裸にエプロンという風貌の屈強な男性とティーブレイクを楽しんでいるところでした。


 「ああ、どうも……って、どうしてアムールおじさんがここに!?」

 「っまー! 失礼な子ね!」



────────────



 「はぁ、もう最悪ホント無理」


 シルちゃんが壁に頭をくっつけてため息をついていますがそれは一旦置いておいて、アムールおじ、お姉さんもピスケスさんに用があってここに来ていたというのです。


 「お嬢ちゃんたちにはまだ早いわよ、オトナのオンナ同士の話だから」

 「何がだよ、あんたただの変なオッサンだろ……」

 「シルコちゃんは私のことが嫌いみたいね」


初見で好きになる人の方が珍しいと思いますが、という思いはそっと胸にしまい、ピスケスさんに早速用件を伝えます。


 「あの、ピスケスさん……」

 「チギリちゃん、半径」


そうでした1m。少し離れたとこから用件を伝えます。


 「ししょーの、クロウリーさんのことなんですけど……」

 「あ~その話ですか~」


皆まで言わずともすべてわかっているという雰囲気です。ひょっとしてピスケスさんは師匠の裏切りを知っていたのでしょうか。


 「チギリちゃん、もう少し様子を見てくれませんか?」

 「……? どういう意味ですか?」


もう少し様子見なんてのんびりしていていいんでしょうか。一刻も早く師匠の目を覚ませてあげないと。


 「ピスケスさん! ししょーはししょーのししょーに騙されてるんですよ!」

 「……もう少し、クロウリー君のこと信じてあげてくれませんか?」


私ピスケスさんの言ってる意味が分かりません、ラスターさんも師匠の問題ほったらかして別の仕事に行っちゃうし、お二人は友達が心配じゃないんでしょうか。


 「でもでもだって……」

 「落ち着きなさいなお嬢ちゃん、それともお紅茶は苦手かしら?」


アムールお姉さんが話を遮ってティーカップを渡してくださいました。お上品な香りがします。


 「ごきゅごきゅ……ぷはぁ! でもこうしてる間にもししょーが悪い人たちにこき使われてるかもしれないんですよ!」

 「チギリちゃん」

 「何ですか?」

 「魔王たちが宣戦布告してきたあの日、私をさらったのはリッキーさんとクロウリー君です」


え。ちょっと待ってください、師匠ってばそんなことまでやらかしてたんですか? 騙されているとはいえ、ピスケスさんを襲うなんて一体どこまでリッキーさんに心酔してるんですか。


 「だからクロウリー君を信じてくれませんか?」

 「そうだったんですか……そういうことなら……えっ?」

 「ピスケスちゃん、相手は子どもなんだからもうちょっと噛み砕いてあげなさい」


そうですよ! そんなこと言われたら余計に信用できないですよ!


 「『信じてくれ』って言われましたから。それにクロウリー君が」



────────────



 「クロウリーが俺達を裏切るはずがない」


 所変わって王都のとある民家。家の主の名前はメッセンジャー。いつもラスターに王からの指令を伝えている影の薄い連絡員である。


 「だからって放っておいていいんですか? お友達なんでしょう?」


記念すべき事務連絡以外の初セリフである。そして腕には大量の書類を抱えている。


 「心配してないからな。ん、ありがとう」

 「罪人と行方不明者のリストなんてどうするんですか?」

 「魔王の仲間になるような奴ならそれなりの事情を抱えてるはずだからな……怪しい奴を片っ端から探してみる」

 「そんなの我々に任せておけばよろしいのに」

 「……じっとしてられなくてな」

 「やっぱり心配なんじゃないですか」



────────────



 『どうしてもっていうなら魔法使いとして? お前の手伝いしてやってもいいけどな』

 『何で上からなんだよ』

 『いいな~私も十二神官の仕事がなければ~』

 『まだ一言も、連れてくって言ってねぇから』

 『意地悪言わないで土下座してあげればいいのに~』

 『こいつもそこまで言ってねぇだろ!?』

 『俺が仲間になるんだから土下座ぐらい安い安い』

 『便乗してんじゃねぇよ!』


そんなこと言ってたあいつなのに、なのにどうして……


────────────



 メッセンジャー家の時計の針は既に夜中の2時を示している。ラスターは眠り込んでしまっていたようだ。悪い夢でも見ていたのだろうか、少し悲しげな顔をしている。


 「お目覚めですか。夕飯食べてなかったでしょう、こちらのお弁当をどうぞ」

 「わざわざ悪いな……でも今日のところはもうすぐ帰るから」

 「いいんですか? せっかく魔法屋の娘さんが差し入れてくださったのに」

 「リリスが? ……ああ、そうか、そうだったな」


俺には過去に思いを馳せている暇などない、そういう表情だった。守るべき“今”のためにできることを──自分の夢が二度と叶わないと知ってなお、彼が歩みを止めることはない。


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