35. 風の子はふわふわ飛び回る
前回のあらすじ!
何だかよく分かりませんが、ウリたんが人間と和解したみたいです! いやぁ、よかった、よかった。
そういえばサジータさんって人から矢文が届いてたんでした! よく分かんなかったのでラッさんに見せないとです!
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「そうだ、私お手紙を預かってるんですよ!」
「おう、そうか……」
すっごく疲れた顔してますね。最近いろいろありましたからね。そんなことより他の女からの手紙を渡さなければ!
「妙な言い方すんな! ……サジータさんからか」
例の分厚い書類に目を通しながらしきりに頷いています。この怪文書を解読できるというのですか? 流石です。
「字が汚くて読めん」
放り投げてしまいました。はずきるーぺもお手上げです。
「とはいえ、大事なことが書いてるかもしれないからな。解読班に渡しておこう」
解読班! そん なに ですか。
「ではこの手紙は私が預かりましょう……」
「頼んだ」
そしてサジータさんの手紙と引き換えに封筒を渡されました。……あれはいつもの指令書です。
「伝令の人!? いつの間に……」
毎度のことながら音もなく現れます。あの隠密能力が私にもあれば……!
「しかし私には既に一人ししょーが……うむむ……掛け持ちってありなんですかね……」
「何ブツブツ言ってんだ? シルコに準備するよう言ってきてくれ」
「あ、はーい! その前に伝令の人……」
もういないです! いつの間に!
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「シルちゃん、出掛けますよー」
「うぅ……どうして私だけ……」
あれまあ、一人で枕を濡らしています。大したことではないと思いますが一応聞いてあげますか。
「どうしたんです?」
「どうして私だけ仲間はずれなのぉ……」
あー、なるほど。シルちゃんをほったらかして出掛けていたからすねてるんですね。
「あっちでもこっちでも仲間外れにされてさぁ……私なんか誰からも必要とされてないんだわ……」
「意味はよく分かりませんけどそんなことないです! シルちゃんは大事な友達です!」
「ホントに? 私のこと見捨てない?」
「うっわぁ、重いです……え? あ。見捨てませんよ! うん!」
「えへへ……ベストフレンドフォーエバー……」
そんなこんなでシルちゃんのご機嫌も戻りました。それではいつものようにごんちゃんに乗って冒険の旅ですね!
「いや、その必要はないよ」
と、私たちが出発しようとしているとシザー先生に呼び止められました。
「シザー殿、どういう意味ですか?」
「大陸全土にワープゲートを配備してくれたんだ。これからはどこへでも一瞬で行けるのさ」
「おー、すごいです!」
ごんちゃんに乗る機会が減るのは少し寂しいですがそれは便利です。しかし一体いつの間にそんなものが?
「……ピスケスくんが一晩でやってくれたよ」
「あいつ……病み上がりの癖に……」
一晩ってすごすぎです! でも怪我してるのに無理しすぎです!
「きっと君の力になりたかったんだろう。……ラスターくん、君は孤独ではない」
「シザーさん……はい、知ってます」
何かええ話やないですか……私こういうん好きですよ。それではさっそくワープゲートに乗って出発です!
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【クラマセワタゲガンボボ】
体長およそ1㎝の羽虫型の魔物。背中の綿毛で風に乗って移動する。吸い込んだりすると肺から全身の神経に毒が回り、最悪の場合死に至る。
(『いきもの図鑑』より)
「こいつが大量発生してるらしい。なるべく息吸うなよ」
「そんな無茶な!」
ボマードさんがそっと人数分のハンカチを差し出してくれました。この気遣いですよ!
「ぶひぶぃん?」(ボマードの旦那、俺の分は?)
「ウリたん殿は皮膚で呼吸できるでしょう」
「ぶ? ……ぶぅお!」(え? ホントだぁー!)
ウリたんの体は便利ですねぇ。私たちは口元にハンケチを当てて用心しましょう。そこら中の景色がガンポポちゃんで埋め尽くされてますからね。
「それにしても何か静かですね。人っ子一人見当たりません」
「家の中に隠れてるんでしょ。怖いもん」
この街ウインダールでは、どこにいても常に風が耐えることはないそうです。つまりガンポポちゃんが飛び回るには絶好の場ということですね! 厄介です!
「こうなったら私の†インフィニティヘルフレイム†でまとめて焼却してやります!」
「街ごと燃やす気か」
「確かに……!」
それではこの方法は使えません! 困りました!
「心配すんなよ。一匹残らず斬ればいい……」
「ラッさん頼もしい!」
そしてラスターさんがまずは一匹と言わんばかりに剣を振るいます。しかしラスターさんの剣はガンポポちゃんをすり抜けて空を切りました。
「何!?」
ラスターさんも負けじともう一度剣を振ります! しかし結果は同じでした。ラスターさんほどの名手でも切れないとは! ガンポポちゃんもやりますね!
「ラスター殿、風圧で吹き飛んだだけでは……」
「そうか……! 盲点だった……」
盲点でした! それでは本当に打つ手がないではありませんか!
もしゃもしゃ
何ですかこの音は?
「もぐもぐ(わたあめみたいな食感だな)」
「ウリたん! 何してるんですか! ペッてしてください、ペッて!」
ウリたんは渋々ガンポポちゃんを吐き出しました。もう、食いしん坊さんなんですから……ていうかガッツリ口に入れてましたけど毒は大丈夫なんですか?
「ウリたん殿、体に異変は?」
「ぴぎ?(なんともないけど)」
「どういう体してんだよ……」
さすがウリたん、何ともないです! でも流石に飛び回ってるガンポポちゃんを全部食べさせるのは不安です。何か良い手はないものでしょうか……
「風か……シルコ、お前の魔法でこいつらを吹き飛ばせるか?」
「えっ!? なななな何で私!?」
「とぼけるなよ。お前は風の魔法が使えるってピスケスが言ってたぞ」
「そうだったんですか! シルちゃんすっごーい!」
「え? 私すごい?」
「ですです!」
私はそんなこと全然気づきませんでしたよ! 流石ピスケスさん、小さい女の子の観察は欠かさないんですね! え、怖……
「へへ……それじゃあ、何すればいいのかな?」
「お前の風に乗せてこいつらを郊外の岩場まで運んでほしい。そこでなら安全に燃やせるだろ」
ということは私とシルちゃんの共同作業ですな! 初めての共同作業です!
「よーし、ちょっと本気出しちゃおっと! すぅ~」
シルちゃんは目を閉じて深~く息を吸い込み、おなかの底から絞り出すようにうめき声を上げ始めました。
『地獄の谷底より来たれ瘴気と狂気の嵐流、妬め、嫉め、吹き上げよ、天を衝く烈風となりて、傲慢なる神を風解させよ。終末の嵐気流!』
シルちゃんが何かブツブツ言っていたのが言い終わると、辺りが生温い不快な風に包まれ始めました。雨のない台風みたいです。
そしてガンポポちゃんたちはその風に乗って空高く巻き上げられました。壮観です。
「はっはー! ザマァミロ! そぉら、飛んでけー!」
「シルちゃん、お口がよろしくないですよ!」
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それでその後何やかんやで無事にガンポポちゃんを焼却することができました。これもすべてシルちゃんのお蔭ですね。
「本当にありがとうございました。住民たちも外に出られず困ってたんです」
「いやぁ、そんな、私はただ……へっへっへ」
シルちゃん、市長に感謝されて嬉しそうです。まあガンポポちゃんを全部燃やしたのは私なんですけどね! 別にいいんですけどね!
「いや、ホントにお前のお蔭だよ。お手柄だったな」
「ガキ扱いすんなオラァ! 気安く触んじゃねぇ!」
頭を撫でようとしたラスターさんの手を振り払いました。ラスターさんったらシルちゃんの気も知らないであんなことして……それにしてもお口が悪い。
「ラッさん、しょうがないので代わりに私を撫でさせてあげます。さあ、どうぞ」
「お、おう……」
やはりいいものですね。こういうことしてもらうと、ちゃんと親子って感じが出ますよ。ふんふん。
「おやおや、これは珍しい客人ですなぁ」
「誰ですか、親子の憩いを邪魔するのは!?」
「親子じゃねぇ、離れろ。……テメェは!」
市長室に入ってきたのは優しそうな白髭のお爺ちゃんでした。市長さんの知り合いですかな?
「これはこれはリッキー老師! いかがなさいましたか?」
「えっ、リッキー!?」
どおりで凶悪そうな面構えだと思いましたよ!
「老いぼれの気まぐれじゃよ。それより、勇者殿が来ているということは魔物でも出ましたかな?」
「おい、どういうつもりだ」
ラスターさんがリッキーの襟首を掴んで耳元に顔を寄せました。ホントですよ! どういうつもりですか!
「我輩は一向に構わんがね。だが……リッキーが魔王の軍門に下ったと知ったらお前たちの民はどう思うかね?」
「ふざけやがって……リッキー老師、少し外で話しませんか」
そう言って二人は、さっきガンポポちゃんを燃やした岩場に移動しました。はわわ……どうなっちゃうんですか……?
続く!
「ねえ、ウリ坊~私も行った方がいいのかなぁ?」
「ぶひぶひ、ぶっふぶっふ」(知らんがな、好きにしろよ)
「でも私的にさ~……あれ? チギリちゃん?」
OKIZARI……




