34. 人と獣は分かり合えない
前回のあらすじ!
謎の老人リッキーと出会ったラッさんとウリたん! しかし二人の攻撃はすり抜けてしまいます! うーん、ミスティック!
そしてお爺さんが放った緑色のドラゴン! ラッさんは果たして間に合うのか!?
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「させるかぁああああ!!」
「ぐえー!」
ラスターは一太刀でハリペインドラゴンを仕留めた。このパターン前にもあった気がする。
「クッソ……ウリたん、リッキーは」
「ぶふぶふ……」(もうほとんど臭いがしない……完全に逃げられたな)
ラスターは悔しそうに、ハリペインドラゴンの死体を拳で叩いた。その後慌てて叩いたところを手の平でさすった。
「……まあいい。この辺に聖職者はいなかったか……」
ハリペインドラゴンの供養をしてもらうためにふもとの村へ繰り出……そうとした。
「……気づいたか」
「ぶひ……」(確かに妙な臭いだ。嫌な感じだぜ)
何者かの気配を感じて立ち止まる。そして次の瞬間、ハリペインドラゴンの背中にその何者かが飛び乗った!
「ぶっひぃ!」(テメェ! 新手の手先だな! 殺気向けてきやがって!)
「…………いや、待て、こいつは」
日に焼けた髪の短い女がハリペインドラゴンの鱗を小刀ではぎ取っていた。敵ではなさそうだ。
「供養なんてしたら消滅しちゃうじゃん。捨てるとこないのにもったいないわー」
「……サジータさん」
「ぶ!?」(この危険そうな人間、兄ちゃんの知り合い!?)
ウリたんがここまで危険を感じるのも当然で、彼女サジータ=シックザールは狩人だから。先程からずっと、ハンターの目でウリたんを見つめていた。そして、どうしてラスターと知り合いなのかというと
「あんた一応十二神官でしょ。見てたなら助けに来いよ」
ということだ。サジータはドラゴンの肉を削ぎながら冷静に答えた。
「君の剣が効かないのに、弓矢とナイフでどうしろって? 無茶な狩りはしない主義なの」
「でもそのドラゴンは……」
「私の助け、必要だった? 瞬殺だったじゃない」
押し黙るラスターにはぎ取った鱗にヒモを通して投げ渡した。
「それ、彼女への土産にしときな。運命の神のご加護があらんことをー」
「そんなテキトーな……って、何であんたまで知ってんだよ!?」
「旦那に聞きましたー」
気合のない声で答えながら手際よくドラゴンの巨体を解体していく。ラスターとウリたんはその様子を黙って見ていた。
「ラスター、それ君のペット? 何かずっと殺気向けてくるんだけど」
「あんたが先に殺気向けたからだろ」
「いやぁ、山でイノシシ見かけると反射的にね」
「ぶひ……」(反射だと? ふざけるな……)
ウリたんの様子がおかしい。ここでウリたんの回想を同時翻訳でお送りする。
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あれは俺がまだウリ坊だったころだ。身寄りのなかった俺は近所のイノシシ夫婦に育てられていた。
「ほら、ウリ江。ドングリだよ」
「うまそうだぜ!」
二匹は俺に本当の親のように接してくれた。俺は幸せだった。幸せだったんだ……
けどな、そんな幸せは長くは続かなかった。
「ひゃっはー! イノシシ狩りだぁ!」
俺達の住む山に狩人がやって来やがった。俺達は息を潜めて隠れていた。だが俺は……
「なんかあったのか?」
「ウリ江! 静かに……」
「そこかぁ!」
俺が物音を立てたせいで見つかってしまった。その時だ、父ちゃんと母ちゃんは……
「狩人よ、私はここだ!」
「狩れるものなら狩ってみろ!」
狩人の前に飛び出したんだ。俺をかばうために……
「ウリ江、あなたは逃げて」
「私たちの分まで、生きてくれ……」
父ちゃんと母ちゃんの思いを無駄にはしたくなかった。でも何もできなかった自分が情けなくて、悔しくて……
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「ぶひぶひ!」(だから俺は狩人って奴が大嫌いだ!)
「……この子何て言ってるの?」
「俺にもよく……」
そして言葉は通じていない。
「ぶっひ!」(そして……狩人さえも倒せるように鍛えてきたんだ! 今こそくらえ! 両親の仇!)
ボールのように飛び跳ねたウリたんが、サジータに牙を向ける。完全な八つ当たり!
「ごめんねぇ、痛かったよねぇ……」
しかしサジータは、ウリたんの牙をかわすでも止めるでもなく、ただ甘んじて受け入れた。彼女の左肩からは鮮血が滴っている。
「ぶ……ぶ……」(なぜ……避けなかった……)
「そうだよね、君たちにも大切な家族がいるんだよね……ごめんね……」
彼女は悲しみの涙を流しながらウリたんを優しく抱きしめている。
「それで君の気が晴れるなら、私のこといくらでも傷つけていいよ。それもまた運命……」
「ぶひ……」(いや、気が変わった……よく考えたらこれはただの八つ当たりだ)
そして安定のチョロイノシシである。彼は愛に飢えている。
「……終わったか?」
「ぶぃ」(兄ちゃん、こいついい人)
「……そうか」
無事に和解した(?)ウリたんとサジータ。サジータの腕の中で穏やかな表情をしている。
「ラスター、こいつの処理はやっとくから帰っていいよ」
「ぶ!?」(やっぱり俺のことを!?)
「このドラゴンだよ」
ウリたんとラスターは仲良く歩いて帰っていった。その背中を見送るサジータは一言小さくつぶやいた。
「……うまそうだったなぁ」
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「ぶひぶひ」(俺人間好き)
帰ってくるなりウリたんがこんなことを口走っています。知ってますよ、私とも仲良くしてくれてますし。
「いいことあったんです?」
「ぶるるん」(いいひといた)
何の話か分かりませんがよかったですね! ウリたんが嬉しそうだと私も嬉しいですよ!
「ウリたん、どんな人と会ったんです……」
ひゅるるるる……
ひゅーん……
パリィン! サクッ
何事ですか!? お部屋に弓矢が飛び込んできました!
「敵襲ですか!?」
「ぶるっふ」(待て、いい人の匂いだ)
急に狙撃してくる人がいい人なわけないじゃないですか! ウリたんは何を言って……おや、矢に何かくくりつけられています。紙……矢文ってやつですか!
「あけてみましょー!」
「ぶふぶふ!」(そうしましょー!)
うわぁ、きったない字です。
ラスターへ
私なりの観察結果を送ります。添付資料①を確認してください。
追伸
私のお土産、ちゃんと彼女に渡してね。
サジータ=シックザールより
添付資料というのは一緒に付いてる分厚い束のことですかね。あれは読……ラスターさんに渡しましょう!
「ぶひぅ!」(この人いいひとだよ嬢ちゃん!)
「この字が汚い人がですか! はえー」
人は字かけによらないものです。……ちょっと待ってください、この手紙……
「彼女……お土産……つまりラッさんは今!」
こうしちゃいられません! 今すぐ見に行かなければ!!
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「……これ貰いモンだけど良かったら」
「きれい……ありがとう」
サジータがペンダントにしてくれた鱗を、ぎこちない様子でリリスに手渡した。そして彼女もまた、それをぎこちなく受け取る。お互い初めての恋人ゆえに距離感が分からないのだろう。初々しいことです。
「ラスターくん、やっぱり、これから忙しくなるの?」
「……ごめん、恋人になったばかりなのに……」
「ううん、気にしないで。私、待ってるから。ラスターくんがいつでも安心して戻ってこれるように……」
リリスさんはそう言ってラスターの指先をそっと握った。顔は真っ赤になっている。この流れなら次はハグとかしてそして……
「リリス………………ちょっと待ってろ」
!? ラスターさんがこっちを見ました! 完璧に地の文に擬態していたはずなのにどうして!?
「あ、私はいないものと思って。どうぞ続きを!」
「できるかぁ!」
「え!? 見られたら恥ずかしいようなことするつもりだったんですか!? 詳しく!」
──こんなはずではなかった。リリスへの思いは確かに本物だ。ゆるぎない愛だ。しかし同時にこうも思っていた、自分に恋人が見つかればチギリの病状も治まるはず。だが現実は──
「ねえねえラッさん!」
もう笑うしかなかった──
「誰か助けてくれぇえええええ!!」
続く!




