33. 偉大な師匠は裏切り者
前回のあらすじ!
何だかとんでもないことになってしまいました!
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「処置は済ませた。目が覚めたら詳しい話を聞こう」
ピスケスさんへの緊急手術を済ませたシザー先生が病院から出てきました。重症でしたが命に別状はないそうです。安心です。
「しかし彼女があんなになるまでやられるとはね」
「……ナメてたわけじゃないが、やはり相当手強そうだな」
お二人とも難しい顔をしています。いきなりあんな大惨事になったらそれはね……私もすごく怒ってます!
「ラスターくん。取りあえず、陛下の所へ行って今後の方針を相談してきなさい。彼女は私が責任を持って回復させる」
「分かった、よろしく頼む」
ラスターさんは深々と頭を下げました。こういう時こそ助け合いですね!
「すまないね、せっかく恋人ができたばかりというのに、また忙しくなりそうで」
「いや、これが俺の使命だからな……ん? 俺シザーさんに話してないぞ?」
「昨日チギリちゃんが教えてくれたけど……?」
ラスターさんが私を睨んでいますね? 何か悪いことしましたでしょうか……
「お前なぁ……勝手にペラペラと……!」
「ラッさん! 私たちが争い合ってる場合ですか!?」
「…………ッそうだなぁ!!」
まったく、喧嘩っ早いんですから……困ったもんですよ。てなわけで、ボマードさんも連れて3人でお城へ向かいます!
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「このようなことになるとはな……ワシの見通しが甘かったか……」
王様も落ち込んでいます。でも王様は悪くないです。悪いのは魔王の人達です。
「陛下は悪くない。守れなかった俺の責任だ」
「いやいやワシが……」
王様とラスターさんによる責任のかぶり合いが始まりました。そんなこと言ってる場合じゃないと思うんですけど! と、ここでボマードさんが一つ大きく咳払いしました。
「お二方、今は責任の所在を明らかにするよりも、今後の対策を立てる方が先ではありませんか? テハイサの人々の無念を晴らすためにも」
ここで二人とも冷静に戻ったようです。
「そう、じゃな。ラスター、城下の様子はどうだった?」
「哀しんではいたが……混乱は思っていたほどじゃない。強い民だ」
王様が少し嬉しそうにうなずきます。言われてみれば、騒いだり怖がったりしている様子はあまりなかったです。
「ラスター殿の……勇者の存在が支えになっているのでしょうか」
「いいや、陛下の治世の賜物だよ」
ラスターさんがしおらしくて気持ち悪いです。村一つ守れなかったことが相当ショックだったようです。私だって辛いです……
「そんなことより、あの映像の発信元は?」
「特定できていない。高度な空間魔法によるものと考えられているが……」
「だとしたら特定は難しいでしょうな」
空間魔法は術者がその場にいなくても術式さえあれば使えるのです。師匠から貰った電話なんかもそれの一種ですね。居場所さえ分かったら一網打尽にしてやったのに!
「あんなことされても何もできねぇのかよ俺は……!」
「落ち着けラスター。お前は民の希望じゃ。こんな時こそ泰然自若としておれ」
「……申し訳ありません、少し取り乱しました」
だけどあんなことされて何もできないのは私も悔しいです。……何とかして情報を得ることはできないでしょうか……
「失礼します! ラスターくん、ピスケスくんが目を覚ました!」
シザー先生が駆け込んできました! これで何か分かるかもしれません!
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「いえ、すぐに気絶させられたので正確な位置は~……」
ベッドの上で半分だけ体を起こしたピスケスさんは申し訳なさそうに首を振りました。それはそうです、そんな不用心に連れ込むはずないです! むぅ!
「それじゃあ、君をさらった人間の顔は見た?」
「ええ、それは…………でも見間違いかも~……」
曖昧な笑みを浮かべました。何があったんでしょう。
「それでもいいから言ってみろよ」
「ですです!」
ピスケスさんは意を決したようにふっと息を吐いて、言いました。
「……リッキー老師でした」
「な……」
皆さん驚いてらっしゃいますね。私はその人のこと知らないのでイマイチぴんと来ないんですが……
「そのリッキーさんって人お知り合いですか?」
「そうか、お前は知らないんだったな……」
リッキーさんというのは、国一番の智者? よーするに世界一賢い人なのだそうです。数年前に隠居するといって姿を消して以来行方知れずになっていたそうなのですが……
「そんなすごい人が魔王の味方を……? 見間違いじゃないんですか?」
「私だって信じたくないです~……でも恩師の顔を見間違えるはずありません」
「恩師?」
「リッキー殿はご隠退される前は魔法学校の教師もやっていたのですよ」
そもそも魔法学校なんてものがあったことを知らないんですけど。取りあえず、ピスケスさんとそのリッキーさんは、そこで教師と教え子の関係だったんですね。
「私の知ってることはこれぐらいです~すみません、お役に立てなくて」
「いやいや、十分だよ。後は治るまで安静にしていたまえ」
敵の一人がリッキーさんって人かもしれないってことぐらいですね。ラッさんはまだ難しい顔をしていますが、何か気になったことでもあるのでしょうか。
「ピスケス、お前何か隠してないか?」
「……私のこと疑ってるんですか~?」
「お前のことは疑ってないよ」
どういう意味かよく分かりませんでした。ピスケスさんが怪しいのはいつものことです。
「俺はリッキーを探してみる。チギリ、お前はボマードと一緒にクロウリーの所へ」
「なるほど! 空間魔法といえば師匠です!」
「それにあいつもリッキーの教え子だった」
「マジですか!」
師匠の師匠ということは大師匠……? とにかく師匠ならあの放送を見て何か気づいたことがあるかもしれませんね!
「それとウリたんを借りて行っていいか? あいつなら鼻が利くからな」
「ええ、ウリたんさえ良ければ」
てなわけでそれぞれの持ち場へ! ……何か忘れているような。
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「いやー、最高だったわね! ……あれ? みんなどこ……?」
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「ししょー!」
「弟子! どうしたこんなところに!」
師匠は都合よく外に出ていました。さっそくさっきの映像についての見解をうかがってみましょう!
「うん、俺もあちこち飛び回って確認してみたがな、カプル王国のほぼ全域であの映像が見られた」
「それほどの広域にわたって……クロウリー殿、これはやはり……」
「俺やピスケスでもあんなことはできない。相当手練れの空間魔法使いがいるんだろうよ」
師匠より凄いということは超師匠……つまり大師匠……
「ししょー、やっぱりリッキーさんって人の仕業ですか?」
「先生が? 何でだ?」
ピスケスさんの証言をお伝えすると、師匠は渋い顔をしました。
「ピスケスがそう言ったのか?」
「ええ、はっきりと」
師匠辛そうです……恩師があんなひどい人たちに手を貸してたんですものね……
「ししょー……」
「いや、しんどいのは裏切った方も同じだよ。……だから絶対師匠を止めてくれ」
そう言って深々頭を下げました。でも師匠はタイミングがいいです! ちょうどラスターさんとウリたんがリッキーさんを探しに行ってます!
「もうすぐラッさんが師匠の師匠を懲らしめてくれますよ!」
「何? ……それはマズいな」
「えっ」
「ラスターじゃリッキーには勝てないぜ」
それってどういうことですか!?
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「ぶひぶひ……」(まだまだ臭いが遠いな……)
「そうか、近いか」
(嬢ちゃんがいないから言葉が通じねぇ!)
ウリたんとラスターは二人で山奥まで来ているが、会話は一切成立していない。まあ、ウリたんが歩けばラスターがついてくるから問題はないのだが。
(やれやれ、大変な仕事になりそうだぜ)
「どうした、ウリたん?」
「ぶっふるっふ……ピぎ!?」(なんでもねぇよ……なんだ!?)
ウリたんの鼻が異常を察知した。先程まで遠くにあったリッキーの匂いが、突然すぐ近くまで迫っていたのだ。ウリたんは背中にヒヤリとした感触がした。
「我輩を探しているのかね?」
ウリたんの背中にリッキーが乗っていた。ラスターもいつでも剣を抜ける体勢に構える。
「ぶっひ!」(やめろ! どけ!)
「乗り心地は良くないな……おお、小僧、貴様は記憶にあるぞ。確か魔法を教えてくれと泣きついてきた小僧じゃな?」
「……! それ知ってるってことは……本人でいいんだよなぁ」
「いかにも。我輩こそカプル王国第一の智者、リッキー=ライムストーンその人である!」
ウリたんの背中から飛び降り得意げに言った。
「貴様はまだ愚かにも魔王様に歯向かうというのかね? これだから人間は……」
「あんたみたいな立派な人がどうして魔王なんかに手を貸す?」
「貴様らより優れているからよ。我輩は貴様らのような下等な人間と共にいてよい存在ではない」
歪んだ笑顔でそう告げた。ラスターは黙って剣を引き抜いた。
「そういうことなら……俺はあんたを止めなきゃならねぇ」
「ほう? 貴様に我輩が切れるかな?」
挑発するリッキーだったが、その刹那、ラスターの剣が彼の右腕を切り落とした。
「おぉ、痛いじゃないか……」
しかしリッキーは落ち着き払った様子で、切り落とされた右腕を拾い上げて切断面にくっつけた。
「…………!? お前……そんなバカな……」
「ぶっひぃ!」(兄ちゃん、どいてろ!)
ウリたんが体を球形にしてリッキーに向かって飛びかかる。大砲の弾丸のような姿だ。
そして、リッキーの腹にウリたんサイズの穴がブチあけられた。
「……汚らしい下等生物が。我輩に触れるとは……」
リッキーの腹の穴が塞がっていく。
「ぶぅ!?」(こいつホントに人間かよ!?)
「貴様ら如き下賤な輩では我輩には傷一つ付けられんということだ」
「魔術の類か……? クッソ……使えなくてもちゃんと学んでおくべきだった」
ラスターは後悔の言葉を吐いたが、今この場では詮無いこと。リッキーは見下したように笑いながら、髭から巻物を取り出した。
「貴様らごとき、我輩が手を下すまでもない。こやつを止めて見せよ」
巻物を開くとその中から、青銅色のドラゴンが飛び出してきた。彼のはばたきとともに切り裂くような突風が巻き起こる。
「ハリペインドラゴンを召喚したか……リッキーはどこ行った!?」
「ぶっひぶひ!」(臭いが消えたぜ!)
逃げられた。しかしハリペインドラゴンがふもとの村へ向かっている、リッキーに構っている暇はない。
「もう誰も……来い! ドラゴン!」
竜影術を使い、ハリペインドラゴンを追うラスター。今度こそ、間に合うのか!
続く!




