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32. 勇者はそれを許せない

前回のあらすじ!

チギリちゃんはやりましたよ! ラッさんとリリスさんが晴れて結ばれました!

これにて一件落着……じゃありませんでした! 魔王問題がまだ解決していません!


────────────


 「ラスター殿、出そうですか?」

 「がんばれ、がんばれー!」

 「……ぅああああああ!!」


 ラスターさんが吠えます、しかし! しかし何も起こりませんでした……晴れて恋人もできたわけですし、魔法も使えるようになったかと思ったのですが、ダメだったようです。


 「ダメじゃねぇか! あのジジイ、テキトーこきやがって……」

 「王様をジジイ呼ばわりはダメですよ!」


荒れています。仕方ないですねぇ……


 「ラッさん、今不幸ですか?」

 「…………そうでもないけど」

 「ですよねぇー! えっへー」

 「何かムカつく……」


今までだって魔法なしでやってきたわけですし、別に使えなくても問題ないのでは? しかしそうは問屋がおろさないようです。どうしても魔法が必要なんですと。


 「……妹を助けるためには剣だけじゃダメだ」

 「サラさんの体から魔王を分離するのに魔力が必要なのです」

 「でも魔力が必要ってだけなら私やボマードさんが協力すれば……」

 「だが魔王を倒すには勇者の振るう剣が必要だ」

 「おお……面倒なことになってます……」


てなわけで、ラスターさんはどうしても魔法を使えないといけないわけです。困りましたねぇ……そうです! こんな時こそ師匠に相談です!


 「そいつは無理だな」


一蹴……!


 「そこをなんとか……そのー……」

 「無理なモンは無理だ。無理無理カタツムリだ」

 「Ohマイマイ……」


師匠でも知らないのです……チギリちゃんはとぼとぼ歩いて自分の部屋に戻りました。


 「うぅ~……お姉様に叱られる……」

 「シルちゃん!?」


お布団にくるまって泣いていました。何があったんですか……お姉様って?


 「ウリたん、どうかしたんですか?」

 「ぶひぶひ」(ずっとこの調子だぜ。モフらせてやっても無反応だし)


ウリたんの魅惑のモフモフボデーにも無反応とは……これは相当重症ですね。私は優しいから放っておけないです。


 「シルちゃん、私に言ってください」

 「あのね……言えないよぉ~!」


また泣きだしちゃいました。私にも言えない事情があるとは……なるほど、私分かっちゃいました。


 「シルちゃん……ラッさんのこと好きだったんですね」

 「は?」


だから急に協力したくないとか言い出したんですね……それならそうと言ってくれればいいのに。私はそんなことでシルちゃんを嫌ったりしません。


 「しかしラッさんの嫁はリリスさんなのです。異論は認めない」

 「いや、あのー……」

 「色目使ったらだめですよ!」

 「…………」



────────────



 「あー、もう! あのガキクソムカつく!」


シルフィーが吠える。電話口のサラメーヤは顔をしかめた。


 「大声出さないの。はしたないわよ」

 「ごめんなさいお姉様……うぇえ~ん、見捨てないでぇ……」

 「見捨てるわけないでしょ? あなたは可愛い妹だもの」

 「ぱぁあ……」


シルフィーの顔がパッと明るくなった。これで彼女の当面の不安は解消されたわけだ。


 「シルフィー、明日の正午に全世界に向けて声明を出すわ」

 「えっ! ……いよいよですか」


それは魔王の下僕の7人が本格的に動き始めることを意味している。シルフィーは鼻息を荒くした。


 「私頑張ります! お姉様と魔王様の役に立つんです!」

 「……張り切り過ぎないようにね。それじゃ」



────────────



 シルちゃんはいつの間にか元気になっていました。何があったのか知りませんがとにかくよかったです!


 「ふんふっふふ~ん♪」

 「ゴキゲンですね?」

 「そ、そうかな!!」


今日はおひさまもぽかぽかだし、平和な一日になりそうです!



 『あ、あー、カプル王国の皆さんおはようございます』


何ですか!? 突然セクシーな女性の声が! これは幻聴!? いえ、違います、お空に……ぽかぽかのおひさまを隠すように映像が! キレイなおねーさんが映っています!


 「何が起こってるんです!?」

 「始まった!」


街の人達もざわついています。何だか嫌な感じです……



 『ここは良い国よねぇ。確か、127年前、魔王の脅威に対抗するために大陸全土の国家を統一した……だったかしら? 間違えてたらごめんね、歴史学は苦手なの』



ウィンクしながら舌を出します。やらしいです。



 『そんな無茶したら内戦の1つでも起こってもいいと思うんだけど……残念ながら……あら失礼。奇跡的に一度の内戦もなく、みんな仲良く平和に暮らしてきた……実に素晴らしいことよねぇ。みんな偉いわよ』



優しい微笑みです。なるほど、この人は女神さまですね! 平和に暮らしてきた人間たちを褒めるために降臨なされた……



 『きっと立派な為政者ばかりだったのね。私欲を捨て巨悪に立ち向かうために手を取り合う……人の上に立つ者の鏡じゃない、実に美しいわ! ……でも高潔過ぎて気に入らない』



えっ、女神さま?



 『私は全部ほしいわよ。でもあなた達ときたら、せこせこ分け合って共同なんてつまらないもののために自分の欲望に蓋をしている。ホントにつまらない子達。私もう嫌気差しちゃったわ』



何か雲行きが怪しくなってきましたよ!? さてはこの人女神さまじゃないですね!?



 『だから私()()魔王様につくことにしたわ。数は少ないけど凄腕ぞろいなんだから♡ 出ておいで!』



魔王の軍勢……! お姉さんを中心に6人並びました。フード付きのローブで顔を隠してチープな強キャラ感を演出しています。わぁ一人すっごくおっきい人がいます。


 「どうして7人いるの……?」


シルちゃんも焦りの表情です。そうですよね、たった7人とはいえ、魔王に手を貸す人間がいるなんて……



 『私たち7人は……ギガちゃん、ちょっと見切れてる』

 『ごめん……』

 『うん、OK。偉いわよ』



 「お姉様に褒められてる……!」


シルちゃんはギリギリと下唇を噛んでいます。私だってそうです、許せないですよね……!



 『でもこんなこと急に言われても私たちの怖さ分からないよね? だから今から村一つ滅ぼしてあげまーす♡』



何言ってるんですかあの人。そして映像がパッと切り替わりました。のどかな村の風景です。村人さん達は上を見上げて騒いでいます。あそこにも同じ映像が映ってるんですね。



 『大陸の西の果て、テハイサ村からお送りしていまーす! ド田舎の人口が少ない村選んであげたんだから感謝してよね♡』



何て邪悪なウィンクでしょう……!



 『それでは現場のカイザーヒドロドラゴンちゃーん!』

 『ぐぉおおおお!!』



女性の呼び掛けに応じるように、テハイサ村上空で金色のドラゴンが雄叫びをあげました。なんですかキラキラ過ぎてお下品です! ごんちゃんの方が断然カッコいいです!


 「あんなのこけおどしに決まって……ほよ!?」


ラスターさんが猛スピードで走り抜けていきました。


 「どこ行くんですか!?」

 「ピスケスの空間魔法でテハイサまで送ってもらう!」


あれ? ラスターさんがガチ焦りしているということは本気で危ないんですか……?


 「私も行きます! 脚力強化! 脚力強化!」



【カイザーヒドロドラゴン】

爬虫綱有鱗目ドラゴン亜目ドラゴン科ドラゴン属。煌びやかな金色の鱗を持ち、その輝きは古来より王者のしるしとして、各地の為政者が欲してきた。しかし最近は権威をひけらかすような時代ではないのでそうでもなくなっている。非常に好戦的な気質で触れるもの皆傷つけてしまう。ただし、自分が強者と認めた相手の言うことはよく聞く。

(『いきもの図鑑』より)



 お城には3秒ほどで到着しました、しましたけど……


 「ピスケスの行方が分からない!?」

 「ですが非常用の簡易術式があります! 数分かかりますがないよりはマシかと!」

 「分かった、そっちでいい!」


ピスケスさんどうしたんでしょう……どうしようもないロリコンお姉さんですが、こうなってみると心配です。



 『今頃勇者くんが必死で走ってるのかしら? ドラゴンちゃんは勇者の到着まで我慢できるかなー?』



ムッキー! たまたまピスケスさんがいないからって調子に乗って! あのお姉さん、否、女は悪魔です、鬼です!


 「……あれ、ラッさんは?」

 「先程転送されました!」


……置いていかれちゃいました!



────────────



 テハイサ村に降り立ったラスター。しかしそこは人一人いない焼け野原だった。他にはさっきの金龍が飛び回っているのみである。


 「そんな……こんな早く……」



 『お疲れ様、勇者くん♪ ちょっとだけ遅かったね。あの子ったら君が来るまで我慢できなかったみたいね。ごめんねぇ』



サラメーヤはテヘッと小首をかしげた。仕草は小悪魔的だが所業はまさに大悪魔。ラスターは膝から崩れ落ち、地面に思いきり拳を打ちつけた。


 「ふざけんなよ、テメェら! 罪のない人から……奪いやがって! このクズどもが!」


映像を見上げて違和感を覚えた。さっきまで7人いたはずが6人しかいない。これは一体どういう……



 『クズだってーヒドイこと言うよねーまあ事実だけど。ねっ、魔王様?』



サラメーヤが振り返ると、その後ろから一人の少女がゆっくりと、少女の姿をした悪の化身がゆっくりと歩いてくる。



 『久しいな、若き勇者よ。この体の居心地は実に良い』



サラの姿をした魔王が笑いかけてくる。当然のように、ラスターの冷静さは一瞬で消し飛んだ。


無言で跳躍し、上空に投影された映像に向かって切りかかる。もちろんラスターの剣は空を切った。



 『妹に会えて嬉しいのは分かるが落ち着きたまえ。これは我が下僕が我らの姿を投影しているだけに過ぎん。もう用事は済んだ、こいつは返してやろう』



テハイサ村上空のスクリーンから一人の女が吐き出された。サラ……ではなかった。ボロ雑巾のようにされたピスケスだった。


 「ピスケス!?」

 「はは、私ホント情けないですね~……」



 『君を焦らせる以外の理由はなかったがね。念のためにさらっておいた』



要するにこの魔王は、「空間魔法使える奴がいない! どうしよう!」という顔をさせるためだけにピスケスにこのような仕打ちを行ったのだ。


 「お前……どこまで身勝手なんだ」



 『邪知暴虐が私のモットーだよ。最後通告だ、下僕に代わろう』



ここで話者がサラメーヤに戻る。魔王は姿を消してしまった。



 『と、いうわけで! カプル王国の皆さーん、私の物になるなら生かしてあげなくも……え、何リッキー? 誰がゴーツクバリって? ちっ、分かったわよ……そうねぇ……まっ、少ない余生をせいぜい楽しむといいわ! じゃ~ね~』



手を振る悪魔女の笑顔とともに映像は消えていきました。何なんですか! あんなのヒドすぎます! 誰があなたの物になんかなりますか!


 「はぁ……お姉様、麗しゅうございますわぁ……」

 「シルちゃん!? 惑わされちゃダメですよー!!」



とうとう動き出した魔王の下僕たち……! ラスター達の運命はいかに! 続く!


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