31. オシノチギリは叶えたい
前回のあらすじ!
私の立てた完☆璧な作戦はじゅんちょーです! しかしシルちゃんが急にやる気をなくしてしまいました……
こうなったら私一人でも立派にやり遂げます、やり遂げて見せます!
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それから3日が経ちました。そろそろイケるか……? ラスターさんも何やら思い悩んでいる様子でした。これは機が熟したということでしょうか……?
「シルちゃん!」
「ヤダ! 私もう何もしない!」
しかしシルちゃんがこの様子です。せっかく仕込んでくれたのにこれでは意味がありません。
「私一度リリスさんの様子見に行ってきます。シルちゃん、もう一回考え直してください……」
「ぷいっ!」
そっぽを向かれてしまいました。シルちゃんに何があったのでしょうか……
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「リリスさんっ、ご機嫌いかがですか?」
「ヤレバデキルヤレバデキルヤレバデキルヤレバデキルヤレバデキル……」
「キャーッ! 気をしっかり!」
極度の緊張状態、顔色もよくないです。ずっとこんな感じでブツブツ言ってます。
「ご、ごめん、もうすぐだと思うと気が気じゃなくて……」
「すみません、シルちゃんが急に協力したくないって言いだして……」
「そうだよね、やっぱり私なんかの手伝いしたくないよね……どうせ私なんて……」
「ネガティブ注意! ですよ!」
悪じゅんかんです。このままでは何も上手くいきません! やっぱりシルちゃんに機嫌を直してもらわないと!
「リリス、少し用事が……」
「何ですか! 今取り込み中ですって……のわぁお!? ラッさん!?」
突然の来訪! リリスさんもあわてて髪に手櫛を掛けています。そのしぐさ可愛い。しかしなぜこんな突然! 来るなら合図をしてくださいよ! まだ最終確認もできてへんっちゅーに!
「何だ、お前も来てたのか」
「私席外しま~す。ごゆっくりどーぞ!」
「待ってチギリちゃん……」
「こうなったら覚悟を決めて下さい! 草葉の陰から見守ってますから!」
「それ死んでる……」
まあ一度死んでるんですけどね。そんなことはどうでもいいのです! これはもう運命がめぐり合わせたミラクルロマンスです! リリスさんにはここでバシッと! 決めてもらいましょう! 私は外に出て窓から見守ります!
「……どうしたんだ、あいつ」
「そ、それより用事って?」
私には大体想像がついてます! どうせ思いが溢れ出して抑えきれなくなったとかそういうことでしょう、うん!
「ちょっとこれ見てほしいんだけど……」
言いながら収納用水晶を取り出してきました。予想が外れました!
「調子悪いのかな? 取り出す時カクカクするっていうか……」
「どれどれ……」
ラスターさんが手に持った水晶にリリスさんがグイと顔を近づけます。いつものリリスさんなら一瞬で蒸発してそうなんですが、仕事中なので大丈夫なんですね? そういうギャップも魅力の一つなんですよ……! 気づけ、ラスターさん……!
「……顔近いぞ」
「え? ……ひゃぁあ!? ご、ごめ、ごめん!」
いつものリリスさんに戻りました。しかしラスターさん、指摘するってことは意識してるってことですよね!? もしや私の念力が通じた!? ※通じてない
「え、えっと、魔力切れかな! 魔力が潤滑油代わりになってるから」
声が上ずっています。平常心ですよ~落ち着いていきや~
「あー、そうだったのか……」
「手をかざすだけでいいから普段はチギリちゃんとかに頼んだらいいと思うよ」
いつの間にか私の仕事が増えています。まあいいでしょう、これも二人の明るい未来のためです。
「じゃあ、ありがとな」
「あっ、うん……じゃなくて、その……」
ラスターさんが帰ってしまいます! リリスさん頑張ってー!
「えっと……また、来てね!」
じゃないでしょ!! ラスターさんホントに帰っちゃいますよ! ……と、思いきや、店の出口の前でハタと立ち止まりました。忘れ物ですか?
「なんか……初めて会ったときみたいだな」
「へっ?」
リリスさん、何驚いてるんです! 私だってビックリですよ! まさかラスターさんの方からその話を切り出すなんて!
「悪い、忘れてたか?」
「ううん! 忘れてない、忘れるわけない!」
良かったですね、リリスさん……二人が結婚するまで秒読みのカウントダウンはもうすぐですよ。
「……実はゴルドさん……親父に全部聞いた」
爆弾……! 昨日こそこそ出かけてると思ったんですよ、まさか仮面とらないおじさんの所でしたとはね!
あのおじさん何をペラペラと喋ってるんですか!? これだから(?)仮面の男は信用ならないんですよ! リリスさんが泣きそうになってます、そりゃ恥ずかしいですよ!
「それは……違くて……違わないけど……その……」
リリスさん、こうなったらもう開き直って告白するしかないですよ! どのみちどこにも逃げ場なんてないのです!
「ごめん」
えっ? ラスターさんはリリスさんのほうに向き直って深々と頭を下げました。ちょっと待って、そのごめんはいわゆる一つのごめんなさいですか? リリスさんが固まってる。良くない、良くないですこれ!
「……そ、そっか、そうだよね! やっぱり私なんかじゃ……」
「違う、そうじゃない! ……俺の問題なんだ。俺にその資格がないから……」
ラスターさん……やっぱり妹さんのこと引きずってるんです……? 世界を犠牲にして妹さんを助けようとしたから……だから資格がないなんて言うんですか? 事情があるのは仕方ないです、でも向き合ってもあげないなんてリリスさんがかわいそうです!
「リリスは自分で思ってるよりずっと魅力的だよ。だから……俺みたいな、みっともない恥知らずの大馬鹿野郎より良い相手なんていくらでもいるよ」
少しうつむいたままぎこちない笑みを見せます。すごく辛そうですよ……リリスさんも悲しそうにラスターさんを見つめています。
「どうして……そんな酷いこと言うの……」
そうですよ、言ってやってください!
「どうして私の好きな人のこと、そんなに悪く言うの……?」
撃ち抜かれましたね──当時を振り返ったチギリちゃんはこう語ります。
あのリリスさんが勇気を出して一歩踏み出したんです。この際お返事にはこだわりませんのできちんと思いをぶつけて下さい!
「リリス……」
そんな困った顔しないでくだいよ、まったく……何ですか頭に流れ込んでくるこの映像は!?
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ラスターくん、君にできる償いは一つだよ──
宝剣を折った後、ラスターは国王に指示を仰いだ。きっと罷免されると思った、自分でももうその資格はないと思っていた。
しかし──シザークラフトからかけられた言葉はそれだった。彼は勇者を続けることになった。
王都の街並みは活気に満ちていた。だから背中を丸めて歩いている自分がひどくみじめに感じた。まるで世界から見放されたような──
当然ではないか。自分は妹一人のために彼らを全員見捨てようとしたのと同じなのだから。この世界も、自分などに守ってほしくないだろう。
もう一度国王に直談判して新しい勇者を立ててもらおう。自分は新しい勇者を陰から支えればいい。そう思って踵を返してしまった。
「ね、ねえ、ラスターくん?」
緊張した様子で話しかけてきたその少女は、数年前に仲良くなった魔法屋の娘だ。悩みを悟られないように慌てて笑顔を作った……
心配してもらえるとでも思ったのか
自分の中の自分が問いかけてくる。こいつの言う通りだ、自分は心配してもらえるような人間じゃない。すぐに別れようと思った。
「久しぶり。じゃあ……」
「あ、あの、面白い商品いっぱい入ったんだ! み、見てかない?」
内気な彼女が自分からそんなことを言うとは意外だった。思い返してみれば、自分を気遣ってのことだったのだろうが、その時はそんなことに気づく余裕もなかった。
「……いいよ。行こうぜ」
「う、うん! 良かった……」
心底どうでも良かったが、自分には断る資格もないだろうと思った。適当に聞き流して国王のところに行こう、そう考えていた。
だがそう簡単には行かなかった。彼女がラスターの運命を変えたのだ。
「でね、これもすごいんだよ! フタ開けるとね……」
魔道具の話をする彼女はとても楽しそうだった。そこは昔から変わっていないんだな、と嬉しく思った。
そして、彼女の笑顔を見つめながらラスターの中にある感情が湧き上がってきた。
この笑顔を守りたい──
瞳にかかった雲が晴れる思いだった。世界はこんなにも美しい。
例え世界から愛されずとも、自分が愛する限りこの世界を守ろう。妹に誓ったではないか、この世界を守ると。
「……リリス、ありがとう」
「え? あ、うん、こちらこそ……?」
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……こんな話私聞いてません、この間は決意を固めるまでのお話を端折ってたんですね。やっぱり運命の二人じゃないですか……
はっ! いけない、二人はどうなりましたか!?
「私のこと悪く言うのはべ、別にいいよ、暗いし、コミュ障だし、すぐ周り見えなくなっちゃうし……でも、ラスターくんのことは、そんな風に言わないでよ!」
何度も声を詰まらせながら必死で伝えています。喋るの苦手なのに健気や……
「“好きな人のこと悪く言うな”……か」
ラスターさんはリリスさんに言われた言葉を小さく繰り返します。そして少し笑って
「……返すよ、そっくりそのまま」
聞き間違い……じゃないですよね? リリスさんも目を丸くしています、空耳じゃなかったようですね! それってそういうことですよね!?
「お前の笑顔に救われたんだ。だから……」
ヒュー、バタン。
リリスさん!? 驚きのあまり気を失ってしまいました!
「え!? リリス!? 大丈夫か!?」
良かったですね、リリスさん。そして私も、もう限界です。
「大変だ、女の子が鼻から血吹き出して倒れてるぞ!」
「医者を呼べー!」
~HAPPY END~
いや、まだまだ続く!




