30. オシノチギリは策を弄する
前回のあらすじ!
へ~、ラスターさんにそんな秘密があったとは意外です!
情報収集は完了しました! あとはこれをもとに完璧な作戦を立てて差し上げますよ!
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「どう? 変じゃない?」
鏡の前に座ったリリスさんが不安そうに振り返ります。変じゃないです! ポニテも似合ってますよ!
「最高ですよ!」
「鼻血、鼻血」
おっと、いけない。それにしてラスターさんがポニテ好きとは意外でした!
『ラスターの秘密……それは……あいつはポニーテールが好きだ』
正直拍子抜けしましたが利用しない手はありません! 早速リリスさんにもポニテになっていただきました!
「で、いきなり告っちゃうの?」
「えぇっ!?」
「落ち着いて下さいな、お二人さん」
今はまだ仕込みの時期です。ちゃんと師匠に電話してアドバイス聞いてきたんですから!
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「ししょー! アドバイスしてほしいことがあるんです!」
「どうした、何なりと言ってみろ」
「ラッさんとくっつけたい女性がいるんです!」
「…………は?」
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そして師匠からのアドバイスをもとに立てた完璧な作戦がこちらです!
1.ゴルドさんからラスターさんがポニテ好きと聞いたことを伝える
「えっ、言っちゃうの?」
「当然です! それが次につながるわけです!」
2.ここでリリスさんのポニテ姿を見せる
「……それにどんな意味が?」
「師匠から教えてもらいました! へんぽーせいのげんりって言うそうです!」
1の段階で自分の秘密を知られたことを認識したラスターさんは、2の段階でこう思うはずです。こいつ、もしかして俺のこと……
「ならないでしょ。どんだけ自意識過剰なの」
「ふっふっ、“見せただけなら”そうかもしれませんね」
3.そして少し頬を赤らめてこう言う「どう……かな?」
「完全に惚れてるじゃん」
「でしょう!」
自分のことを好きな相手のことは段々気になってくるものだ、と師匠が言っていました。そこを完璧についてあげるっていう寸法ですな!
「そしてここで一度退却します」
「攻めないの?」
4.しばらく寝かせる
「リリスさんのことが気になってドッキドキのはずです! そこで時間を置いて思いを募らせる!」
「あぁん、じれったい!」
シルちゃんも身もだえてます、ようやくこの作戦の素晴らしさが理解できましたか! カレーも気持ちも一晩寝かせた方がいい、と師匠が言ってました!
「そしてそこで満を持しての告白ね!」
「まだです!!」
5.髪を下ろす
「えっ、せっかくポニテで気を引いたのに?」
「甘いです! 大甘ですよ!」
髪を下ろしたリリスさんを見てこう思うはずです。「いつもの髪型に戻しちゃったのか」と。そして「何だ、考えすぎだったか」と! そして油断したところにすかさず、こうです!
6.「昨日の髪型の方がよかった?」
「ヤダ、魔性じゃん!」
「でしょう、でしょう!」
そしてぇ! ぐらついたハートにさらに畳みかけます!
7.「ねえ、私たちが初めて会った時のこと憶えてる?」
「ちょっとどういうつもり!? どういう意味!? ドキドキする!」
「でしょう、でしょう、でしょう!」
ここまで来れば完全にパーフェクトです! これでトドメですよ!
8.Let’s プロポーズ!
ここはもう思いの丈をありのままぶつけてしまいましょう! これなら流石のラスターさんもズッキュンするはずです!
「凄いよチギリちゃん、すごすぎるよ!」
「でしょう! リリスさん、この作戦どうですか!!」
「上手くやれるかなぁ……」
「イケますって! ちょっとの勇気さえあれば!」
「勇気……そうだね、私頑張る!」
その意気です! まずは仕込みの第一段階! これは私とシルちゃんの担当です! 今日はしっかり準備にあてて、明日から決行するとしましょう!
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「あ、お姉様? 私です、シルフィーです!」
チギリたちとの作戦会議を終えたシルフィーは早速お姉様に連絡した。かなりはしゃいでいる様子だった。
「ご機嫌ね。良いことでもあった?」
「チギリちゃんの作戦凄いんだから! あれなら勇者の野郎もイチコロですよ!」
サラメーヤは妹分の状態を瞬時に把握した。彼女は自分の目的を完全に見失っている。
「そう、楽しい?」
「はい!」
「それならいいわ。じゃあ引き続きよろしくね」
しかしあえて諭すことはしなかった。もちろんそれには彼女なりの理由がある。
「ホントに可愛いわね。うっふふ」
はしゃぐシルフィーが可愛かった、ただそれだけだった──
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そして第一段階は無理なくクリアーです! ここから第2段階に移行するために、ラスターさんを『マジカル☆ケミカル』に向かわせなければなりません!
「ラッさん、シルちゃんが魔法屋さんに行ってみたいらしいんですけど」
「うん、見てみたい!」
「……そうか、ボマード、連れていってやれ……」
「すみません、ラスター殿! 少し実家の方に呼び出されていまして……」
甘いですよラスターさん! 気遣いの化身であるボマードさんがこちらの思惑に気づいていないはずがありませんでしょう!
「仕方ねぇ……行くか、シルコ」
「うん!」
シルちゃんは背中に手を回して親指を立てていました。私は着いて行けませんが、ここは任せましたよ!
そして数時間後……
「ひぐっ……うぅ……えぇ~ん!」
「シルちゃん!? なぜ泣いているんです!?」
シルちゃんは私の部屋に戻ってくるなりエンエン泣き始めました。まさか失敗したのですか……?
「上手くいったよ~! 緊張したよぉ~!」
紛らわしいです!
「シルちゃん、よくやったです!」
「うん、えへっ……これで最後の仕込みだね!」
よしよし、頭撫でてあげましょう。これで作戦をファイナルフェイズに移行できます。数日後またいろいろと理屈付けてリリスさんの所に連れて行きます!
「あ、そうだ。あの店に忘れ物してきたんだ」
「大変です! 取りに行かないと!」
「ふっふーん、分かってないわねー」
得意げに言っていますが何のことやら分かりません!
「ぶひ……」(なるほど、そういうことか……)
「ウリたん、分かるんですか!?」
「だから何で分かるの……」
「ぶひゅぶる」(俺が嬢ちゃんにも分かるように説明してやる)
失礼なことを言われたような気がしますが、ウリたんによるとこういうことらしいです!
「シルちゃん、賢いです! 忘れ物を口実にするんですね!」
「でしょでしょー? もっと褒めていいのよ!」
「ご褒美にクッキーを授けましょー!」
「やっふぅ!」
「はいウリたんも」
「ぶっふぅ!」
作戦は順調です! このまま一気にゴールインさせてあげますよ!
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「……なの! 私すごいでしょ!」
「そう、すごいわね、シルフィー」
サラメーヤはシルフィーの報告を微笑ましく聞いていた。もはやシルフィーが自分の役目を思い出す気配はない。しかしそこに水を差す男がいた──
「ちょっと失礼。シル子ちゃん、言われたこと忘れちゃった?」
ディヒターだ。2人の通話に横入りしてむき出しの真実を突きつけた。サラメーヤは急いで通話を中断し、彼を引き剥がす。
「あなた、どういうつもり? シルフィーをもっと愛でたいとは……」
「確かにはしゃぐシル子ちゃんは可愛い、それは一面の真理だ。しかし……」
睨み合う両者。その間には一触即発の緊張感が漂っていた。張り詰めた空気の隙間を縫って、ディヒターが告げる。
「慌てふためいているシル子ちゃん──見たくない?」
二人は固い握手を結んだ。そこに言葉は必要なかった。サラメーヤは直ちに通話を再開した。
「シルフィー、あなた何をしているの? 邪魔しなさい、って言ったわよね?」
「あ……あぁぁぁああぁぁあ!! ご、ごめんんさいお姉様、わた、私……」
「はぁ……勇者が愛の力でパワーアップ! なんてことになったら……」
「お願いお姉様、見捨てないでぇええええ!!」
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「チギリちゃん、やっぱり作戦中止にしない?」
「どうしたんですか、藪から棒に!?」
果たして作戦は上手くいくのか! 続く!
次回はこの作品にとって一つの大きな節目になります。後タイトルも次回更新前に変えます。(チ)




