3. オシノチギリは我慢できない
前回までのあらすじ!
私オシノチギリ、どこにでもいる普通の小学生!でも大変なことが起こっちゃいました! ある日突然怪死してしまった私は、異世界に転生してしまったんです! いきなり勇者・ラスターの妻になれなんて言われても私困ります。まだ11歳なのに……
「こんなガキを妻にできるか」
ちょっと、ちょっと! 呼び出しておいてそれは無責任じゃないですか!? こうなったら私のやるべきことはただ一つ!
「私が勇者様のお嫁さんを見つけてあげます!」
好き勝手カップリングして妄想し倒してやりますよ! えっへっへっへ!
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それでまあ、何やかんやあってラスターさんとその仲間の僧侶・ボマードさんと行動を共にすることになったわけです。今日からはドキドキファンタジー世界冒険譚のはじまりはじまりですよ!
「フード付きの黒いローブに、とんがり帽子に、木のでこぼこが残った杖……もうこれだけで一流魔法使いの気分です! えへへへへへ……」
これはラスターさんからのプレゼントです! 堅物勇者さんかと思ったらなかなか分かってるじゃないですか。髪をいつものようにポニーテールにまとめたら、早速魔法使いコーデに変身です! 姿見がないのが少し残念ですが……ヴィンテージ感というかアンティーク感の漂う宿屋さんだから仕方ないですね。
「私は可愛いからきっと似合ってるはずです!」
ラスターさんとボマードさんはもう起きているでしょうか? 私が急に来たせいで二人は相部屋になってしまったそうで、少し申し訳ないです。ラスターさんったら私のことガキって言ったくせに変なところ律儀なんですから。……そういうのポイント高いですねぇ! ベストマッチが見つかればどんなに尊いカッポーが……
「おっはようございまーす!」
新しい朝が来ましたよ! さあ、元気いっぱい挨拶を……
「きゃー!」
「こっちのセリフだ!」
私はご挨拶しようと思ってドアを開けただけなんです。なんとラスターさんは着替え中でした! お父さん以外の男の人の体を見るのは初めてです……ラスターさんは慌てて体を脱ぎ捨てられていた服で隠しました。目を覆いたいのはこっちですよ!
「私初めてだったのにシクシク……」
「ノックしないお前が悪い」
着替えを済ませたラスターさんは落ち着き払った様子で私の涙を切り捨てました。冗談の通じない勇者様です。そういえばボマードさんの姿が見えません。
「ボマードさんは?」
「早朝の修業とかなんとかだ。そろそろ戻ってくるだろ」
12個の数字が刻まれた大きな振り子時計の短針は「6」を指しています。てことはこれよりもっと早い時間から出かけて修行に勤しんでいたということですか……すごいです!
そしてラスターさんの読み通り、ボマードさんが帰ってきました。
「お目覚めですかラスター殿。チギリさんも、おはようございます」
「おう」
「おはようございます!」
相変わらず見た目に似合わない丁寧な物腰です。初めて見たときは熊かと思いました。何はともあれ、これで3人の仲間が揃いました!
「さあ、行きましょう!」
「どこへだ?」
ラスターさんが怪訝そうに聞いてきました。あれ? ボマードさんも合点がいかない顔をしています。
「え、ほら、魔王討伐の冒険に……」
「王国から命令が出るまでは待機だよ」
ラスターさんはベッドに寝転がりながらぶっきらぼうに言い放ちました。説明プリーズ。
「チギリさん、魔王の居場所もまだ分かっていない状況です。国が調査機関を立ち上げていますから、それが分かるまでは待機、ということに……」
代わりにボマードさんが説明してくれました。何ですと? それではドキドキワクワクの異世界冒険ファンタジー大長編は? もう私の楽しみラスターさんの嫁探ししかないじゃないですか。
「……つっても! 魔王の復活が近づいてる影響で魔物たちも気性が荒くなってる。そいつらの討伐も俺の仕事だ。……勿論あちこち飛び回ることになるな!」
ラスターさんは何かの気配を察したように飛び起きながら続きの説明をしてくれました。何に怯えているのか知りませんが、そういうことなら!
「それじゃあ旅先でもラッさんのお嫁さん探せますね!」
「逆効果だったか……」
なぜか額を押さえていますね……どうしてでしょう? ラスターさんがどう思っていようと私のやることは変わらないので別にいいんですけどね。
「はぁ……こいつといると疲れる……」
「何ブツブツ言ってるんですか?」
「ボマード、こいつに王都を案内してやってくれ!」
「おお、たんけん!」
「私がですか? まあ構いませんが……」
満面過ぎていっそ不気味な笑顔で提案するラスターさん。なんだ、ラスターさんもいいところあるじゃないですか!
「ラスター殿は来ないのですか?」
「俺はちょっと、王宮の方に呼び出されてるから! ほら、俺勇者だから!」
そういうわけでボマードさんに王都を案内してもらうことになりました! お店がいっぱいあってにぎやかな街ですねぇ。オシャレなブティックとか食べ歩きも気になるところですが、せっかくファンタジー世界に来たのですからそれらしいところを見てみたいです。
「ボマードさん、私魔法の道具が見たいです!」
「それでしたら昨日ラスター殿が買い揃えて下さったのでは……」
「そういう問題じゃないんですよぉ! ロマンです、ロマン!」
「分かりました、そういうことでしたら」
そう言ってボマードさんが案内してくださったのは、魔道具屋さん「マジカル☆ケミカル」なんだか女児向けアニメチックな店名ですが、200年以上続く老舗なのだそうです。それではさっそく中をのぞいてみましょう~
「いらっしゃいませー……」
そう言って出迎えて下さったのは、少し猫背の、前髪で目が隠れてしまっているお姉さん。おやおや~? なんだか元気がありませんね~どうしたんでしょう~?
「チギリさん、そのナレーションは……?」
「あ、気になりますか?」
でしたら普通のしゃべり方に戻しましょう。魔法屋さんってもっと薄暗い雰囲気かと思ってましたけど、ショーケースに飾られた商品が間接照明で照らされててオシャレな雰囲気です。よく分かんないビンとか石とかありますけど、多分ポーションとか魔石ってやつですかね。
それよりも、あのお姉さんどうしちゃったんですかね? とても接客ができるような雰囲気には見えません。何かお悩みを抱えているのでは……
「お姉さん」
「ひ……はいっ!」
足元に駆け寄って話しかけてみますが……この反応はやっぱり何か物思いにふけってますね。元気のない人は見過ごしておけません!
「どうかしたんですか? 何かお悩みでも……」
「え、いや……あの……その……」
「私で良ければお話聞きます!」
「あっ、と……だから……」
「さあ、遠慮なさらずに! さあ、さあ!」
「チギリさん、チギリさん!」
ボマードさんが私の肩をポンポンと叩きながら小声で話しかけてきています。どうしたというのでしょう。
「おそらく、チギリさんに怯えているのでは……」
「えっ!? 私!?」
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「ごめんなさい……」
「い、いえ、私が人見知りなばっかりに……」
元気がなかったように見えたのはただコミュニケーションが苦手だっただけみたいですね。反省、反省。
お姉さんの名前はリリスさん。店長をしてらっしゃるおばあさんが出掛けているので代わりに店番をしているそうです。大変そうですねぇ。
「……あ、その杖とローブ……」
「ほえ?」
私の恰好を見て何かに気づいたようです。……ひょっとしてこの杖とローブが実は伝説の大魔導師の装備だったとか!?
「こ、この杖とローブがどうかしたんですか!?」
「昨日ラスターくんが買っていったの。あなたのだったんだね」
「……何だそういうことですか」
ただの市販品だったみたいです。まあそんなに都合よくいきませんよね、買ってくれただけでも感謝感激雨嵐です。……ちょっと待ってください。リリスさん、今……
「リリスさん、今なんて言いました?」
「え? それチギリちゃんのだったんだね、って……」
「違います、その前です」
「えーと……昨日ラスターくんがそれを……」
なんてこった、聞き間違いじゃありませんでした……これはつまりそういうことじゃないですか!
「あなた……以前からラッさんと知り合いでしたね?」
「ら、ラッさん?」
「ラスター殿のことです」
私のような可愛らしい女子小学生に恐れおののくほどの人見知りであるリリスさんが「ラスターくん」と呼んだんです! ……これは、事件ですよ……詳しく話を聞かなくてはいけません。
「ボマードさん、この人にカツ丼を」
「カツ……ドン……?」
「ち、チギリちゃん? まぶしっ!?」
照明をおひとつ拝借。
「じゃあまず、あなたとラスターさんの関係を教えてもらいましょうか?」
「えっと……子どものころからよくうちに遊びに来てて……」
「ほう? よっぽど仲が良かったので?」
「いや、その……ラスターくんのお父さんがうちの店ひいきにしてくれてたから、それで」
「なるほど、いや、しかし不可解ですねぇ。それほど人見知りなあなたと、あのツンツン勇者ラスターさん、いかにして仲良くなったというのですか?」
「え? ラスターくんは、優しいよ?」
リリスさんが不思議そうな顔で反論してきました。ホントに言ってるんですか?
「“勇者をやってる”ラスターですよ?」
「うん……だからそのラスターくん……」
オーマイガー。何ということですか。私にはあんなにツンツンした態度をとっているというのに! リリスさんには”優しい”と評されているなんて!
「……そうですか、よく分かりました」
「チギリちゃん?」
「チギリさん、確かにラスター殿は少々口が悪いところがありますが、素直でないだけで決してチギリさんを軽んじているわけでは……」
「“いい”じゃあないですかッ!!」
リリスさんがビクッと肩をすくめてしまいました。ボマードさんもポカンとしています。急に大きな声を出しちゃったからですね、気を付けないと。
「幼馴染だけに見せる優しい一面……良いッ! 良いですよ、リリスさんッ!」
「え、ええ……良いって何が……?」
取りあえずリリスさんが逃げ出さないように両手を固く握りこみます。いきなり大チャンスが巡ってきたんです。モノにしなければなりません!
「ボマードさん、ラッさんに連絡を。大至急です!」
「はぁ……」
「何ですかその気が抜けた返事はぁ!」
「は、はいっ! 直ちに!」
ボマードさんはそそくさと店外へ出てラスターさんに連絡を取ります。これで準備は整いました。あとはリリスさんの意思を確認するのみです!
「チギリちゃん、怖いよ……」
「リリスさん、ラスターさんのことはどう思ってますか?」
私の問いかけにリリスさんは頬を染めました。あっ。
「どう、って……」
「思いのままに」
「うーんと……私みたいな人見知りとも仲良くなってくれて感謝してるっていうか……私同年代の友達とかいなかったから……」
「うんうん。憎からず思っている、ということですよね?」
「え!? そうだけど、そういう言い方……」
はいはい、そーですか。これもう確定じゃないですか。そんなに照れちゃって。はー、ポテンシャルありますあります。もう単刀直入に言っちゃいましょう。
「リリスさん」
「な、何?」
手をさらに固く握りなおし、前髪に隠れた瞳をジッと見つめる。リリスさんは気まずそうに目を逸らしました。よく見たらきれいな瞳じゃないですか。顔も良いとかもう最高ですね。それでは意を決して!
「ラスターさんのお嫁さんになるつもりは……痛ぁい!」
何者かに頭頂部をチョップされた感覚が伝います。何ですか!? せっかくいいところ……あ。
「ラスターくん……」
「怖がってんじゃねえか、このバカ」
振り返るとそこには愛を知らない冷血勇者が立っていました。ボマードさんに呼び出させたのが裏目に出ましたか!
「どうして邪魔するんですか!」
「するに決まってんだろ!」
そのままローブのフードをむんずと掴まれてお店の出口まで引きずられて行きます。まさかそのためにこのローブを!? 抜け目のない勇者です!
「……悪かったな、リリス」
「い、いや、いいの、気にしなくて……」
「ああ、ここの会話もっと聞きたい!」
「お前は黙ってろ! 行くぞ!」
私は結局引き摺られたまま宿に連れ戻され、リリスさんのお店には接近禁止のお達しがラスターさんより下りました。
今回は失敗してしまいましたが私は絶対にあきらめません。ラスターさんの嫁を見つけるその日まで!
「あっ、そうだ、ラッさん」
「……何だよ」
「もし最高に尊いお嫁さんが見つかったら私を娘にしてくださいね!」
「答えはNOだが一応理由を聞こうか」
「押しカプをいつでも間近で眺められるなんて最高じゃないですか……」
しばし微笑みあうチギリとラスター。そしてラスターは大きく息を吸い込み、こう叫んだ。
「……誰か助けてくれぇー!!」
だいたいこんなノリでやっていこうと思います。