26. 召喚士は船を漕ぐ
前回のあらすじ!
師匠の熱い思いに心動かされ、シルちゃんを仲間に引き入れることにした私達! そしていきなり事件です! 北西の港町、カプルポートで漁船が相次いで沈没するという事件が起きているのです! さっそくレッツゴーですよ!
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ごんちゃんに乗って飛ぶこと約3時間、カプルポートの港に到着しました! 潮風の香りが爽やかです……何ですか、この臭い……
「おえぇええぇえ……」
シルちゃんがドラゴン酔いで吐いてしまっています! シルちゃん、海を汚しちゃダメですよ……
「何だよ、揺れるし狭いし……」
ずっとブツブツ文句言ってます。慣れると結構快適なんですけどね。背中さすってあげましょう。
「シルコさんが落ち着いたら参りましょうか。」
「いや、ここで船長と待ち合わせてるんだが……遅いな」
船長さん? ということは船に乗るんですか!
「船酔い……」
「シルコさん、それではこれを」
「何これ?」
「ザラアストゥラ寺院で浄めを受けた草花を熟練の職人が丹精込めて練り上げ作った……」
「なんかすごそうです!」
「酔い止めです」
シルコちゃんは酔い止めを飲みました、これで安心です。それにしても船長さんってどんな人ですかね~
「ラスターく~ん、お待たせしました~」
何ですか⁉ 急に鳥肌が……遠くから呼び掛けるこのゆるい声は!
「遅いぞピスケス」
「すみません~出航手続きに手惑っちゃって~」
ピスケスさん! 変態召喚士のピスケスさんじゃないですか! セーラー服着てますね。……それより何であんなに離れてるんですかね。
「とりあえずこっち来いよ、話しにくいだろ」
「それはできないんです~チギリちゃんがもう少し離れてくれないと~」
どうして私が?
「ちょっと王様に怒られちゃって~半径1m以内に幼女が近づくと全身に電流が流れちゃうんです~」
多分この間のことですね。王様の前でラスターさんに色々ばらされてましたからね。王様ナイスジョブです。
「それじゃあ離れましょう、シルちゃん」
「うん……」
私とシルちゃんは遠くで待機です。ピスケスさんは今日の航路とかをラスターさんに話しているようです。私が聞いても分からないのであまり関係ないですね!
「それでは船に乗ってくださ~い。準備でき次第出港します~」
大きな帆船が帆を上げました。いざボンボヤージュです!
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船員さんは男性ばかりでした。電流のせいかと思いましたが、ピスケスさんの航海はいつもこのメンバーなのだそうです。意外ですが、そのことについては
「可愛い眷属ちゃんにこんな肉体労働させられませんから~」
……と言ってました。らしいといえばらしいです。しかし屈強な船乗りの皆さんをまとめ上げるとは、実はすごい人なのかもしれません!
「潮風が気持ちいいね……」
「おぉ、シルちゃん酔ってないです!」
「あの酔い止め、めっちゃ効いてる」
シルちゃんは風のように爽やかな笑顔で親指を立てました。CMみたいです。甲板の上には心地の良いそよ風が吹いています。海の匂いです!
「お魚いないかな? 魚群見てみたい!」
「シルちゃん、乗り出すと危ないです!」
シルちゃんが楽しそうで私嬉しいです。最初はちょっと緊張してたんですね。船は波に揺られながらどんぶらこと進んでいました。
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「ラスターくん~やりますね~」
「何がだよ?」
ラスターとピスケスは船室で、本日の行動方針について話し合っているところだった。一区切りついたところで、ピスケスがニコニコしながら茶化すように言った。
「チギリちゃんだけで飽き足らずもう一人なんて~」
「……バカにしてんのか?」
「いえいえ~単なるやっかみですよ~」
ピスケスの笑顔の裏に隠された真意は測りかねていたが、敵が海にいる以上は彼女の力を借りないわけにはいかない。
「面白くねえな……」
「そうですか~? 私のセーラー姿でも見て機嫌直してください」
「直るか!」
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「眠くなってきた……」
「のどかです……」
出航してかなり時間が経っていますが、特にトラブルもなく船は進んでいます。船を沈ませる怪物なんて本当に出るんでしょうか……
「11時の方向に巨大な魚影を発見!」
双眼鏡をのぞいていた船員さんが大きな声で叫びました。言ってるそばから現れたんですか⁉ 一体どんな怪物が……
「やっと出てきましたか~」
ピスケスさんとラスターさんも甲板に出てきました。とうとう連続タイタニック事件の犯人が明らかになるんですね!
「来るなら来い……えっ?」
海面から大きな影が飛び跳ねました。私の目にはクジラさんに見えます。クジラさんはそのまま海に飛び込み、大きな水しぶきを上げました。甲板にいた私たちはずぶ濡れになりました。
「違ったみたいですね~」
「すごーい!」
本物のクジラさんを初めて見ました! 一瞬でしたけど圧巻でした!
「はしゃいじゃって可愛いですね~」
「……近づくなよ?」
ちょっと寒気がしました。体を乾かした方がいいですね。怪物もまだ出てこなそうですし……
「せ、船長……クジラが消えました……」
船員さんの一人が青ざめながら報告しました。海の中に潜っていったんですから当たり前じゃないですか。
「探知魔法にも一切反応がありません……恐らく、死んだのではないかと……」
えっ、さっきのクジラさん死んじゃったんですか? それはとても悲しいです……クジラさん、安らかに眠ってください……でもどうして?
「皆さん、衝撃に備えて……」
ピスケスさんがそう言った次の瞬間、大きな音ともに船が激しく揺れました。一体何事⁉
「船体が何かに衝突しました! 沈没します!」
いきなり沈没ですか!? 急展開が過ぎます! でも船がどんどん前傾姿勢になっているのは分かります! このままじゃ本当に沈みます!
「シルちゃん、どどどどどど」
「落ち着いて! もう仕方ないわね!」
その時でした。突然強風がいい感じの方向から吹いてきて、船はいい感じに体勢を持ち直しました。ラッキーです!
「ふひー! 助かりました!」
「はい~敵の正体も見えてきましたね~」
そう言っても、私には何も見えませんが……船乗りの勘でしょうか? よく分かりません。ピスケスさんは微笑みながら船首の方に出ていきました。危ないですよ?
「一撃で船を沈ませ、探知にも引っ掛からない……間違いないですね~でもこの子の目は誤魔化せませんよ~」
ピスケスさんが指をパチンと鳴らすと、海面に金色の魔法陣が現れそこから大きな魚が出てきました! おお、あの魚は……?
「ラッさん、マウオですよ!」
うろこに付いたいっぱいの目は間違いないです! あんな凶暴な魔物呼んでどうするつもりですか!?
「落ち着けチギリ。召喚士が召喚しないでどうする」
「それはそうですけど……っ!?」
マウオが船に向かって牙を向けています! やっぱり襲われちゃうじゃないですかー! マウオさんは船にガブッ☆と噛みつきました。もうダメだお終いだぁ……
「正体現しましたね~」
「ほえ?」
よく見るとマウオさんの牙は船体に届く直前で止まっています。しかし、確かに何かに噛みついているように見えます。するとマウオさんの噛みついたあたりから、赤色のテカテカした物体が姿を現し始めました! あれは……?
「やっぱりステルスダイオウイカでしたね~」
【ステルスダイオウイカ】
周囲の色に合わせて自分を変幻自在に変えられる。魔力も完全に遮断できるので探知魔法を使っても見つけるのは至難の業である。10本の触手を船に絡みつかせて海中に引きずり込む。捕食目的ではなく好奇心を満たすためである。マウオはわずかな光の揺らぎから、透明化した彼らを見つけられるので天敵である。
(『いきもの図鑑』より)
そんな恐ろしい魔物が犯人だったとは! しかしマウオさんがイカに噛みついたまま、あごの力で船から引きはがします! マウオさん、がんばれー!
「引き離せましたね~みんな、ご飯の時間ですよ~」
ピスケスさんがもう一度指を鳴らすと、今度はイカを取り囲むように5つ、さっきと同じ魔方陣が現れました。マウオさんがさらに5匹!
「ラッさん、私たちの出る幕は?」
「……なさそうだな」
合わせて6匹のマウオさん達が、ステルスダイオウイカを貪り食っています。これはまた一方的な……
「それじゃあ、ごちそうさまでした~」
イカさんをたらふく食べて満足したマウオさん達は海の中に帰っていきました。あっさり終わりましたね……
「あなた、シルコちゃんでしたっけ~」
「……そうだけど」
ピスケスさんはシルちゃんの方を振り返りました。
「あなたのお蔭で助かりました~ありがとう」
シルちゃん何かしてましたっけ? ピスケスさんがシルちゃんに手を差し出しながら近付いてきます。シルちゃんは私の背中に隠れました。
「お礼の握手~……いたたたたたた~!」
ピスケスさんは気絶してしまいました。あっ、半径1m……
「船長が倒れたぞー!」
「すぐに船長を幼女のいない所へ!」
ピスケスさんは慌ただしくタンカで運ばれて行きました。シルちゃんに手出しされなくてよかったです。
「……嫌な風だね」
「早く吹き止んでほしいものです」
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「うぅ……あの子は幼女じゃないのにどうして……」
「船長がご乱心だ! 早く手当てを!」
続く!




