25. 怪盗少女は取り入りたい・その2
前回のあらすじ!
謎の変質者、もといおじさん、もといアムールの姉御の粋な計らいによって、リリスさんに自信を付けてあげることができました! よかったですね、リリスさん!
そして姉御さんが出会った女の子とは? あれ、シルちゃん近くまで来てたんですか?
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「とんだ邪魔が入ったな……さてと」
アムールが連行されるのを確認したシルフィーは『マジカル☆ケミカル』に押し入ろうとした。しかし、その襟首を後ろから何者かが掴んだ。
「やっと見つけた。勝手に動き回るな、迷子になるぞ」
「く、クロウリー……貴様……」
「心配しなくても、ちゃんとラスターに会わせてやるから」
シルフィーと一緒にいたのはチギリの師匠、クロウリーだった。なぜ彼らがともに王都に来ているのか? 数時間前に遡ってみよう!
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「失敗した失敗した失敗した……」
スカイルーク孤児院に放り込まれたシルフィーは自分を責め続けて部屋で一人泣いていた。相部屋のガキどもが心配そうにシルフィーの顔を覗き込んでくる。
「もう、どこかに行って! 一人にしてよ!」
「わー、怒ったー!」
怒鳴りつけてもガキどもは全く怖がる様子もなく、楽しそうに言いながら部屋の外に出た。それが余計にシルフィーの心を傷つけた。
「どうすりゃいいのよ……」
お姉様からの称賛、魔王様からの労い、それをこのスカイルーク孤児院で得ることはほとんど不可能であった。
「……誰ッ⁉」
扉の方を振り返るとクロウリーがいた。扉を開ける音も聞こえなかったのに、だ。
「お前勘が鋭いな。相当苦労したみたいだな?」
「……何の用?」
「お前が泣いてるって聞いたからな。保護者として見過ごすわけにはいかない」
思わぬ助け舟であったが、シルフィーは相談するべきか迷った。ヘタを踏めば自分の正体がバレる恐れがある。(そしてシルフィーは高い確率でしくじる)
「いやぁ、それが……」
「分かってる皆まで言うな。広い世界を見て回りたいんだろ? 確かにそれならラスターに着いて行くのもいいかもな」
「えっ!」
100点満点。シルフィーにとってあまりにも完璧な彼の助け舟に、シルフィーは顔がほころぶのを抑えきれない。
「よし、俺からラスターに頼んでやるよ。どうだ?」
「ホントにホント⁉ あんた最高!」
「そうと決まれば善は急げだ。さっそく行くぞ!」
こうして、シルフィーとクロウリーは二人で王都にやってきたのだ。しかしクロウリーはシルフィーごときに良いように利用される器ではなかった。
「ねえ、早く勇者のところ連れて行ってよ」
「そう急かすな。お、あっちで焼き芋売ってるぞ。いるか?」
「……いる」
先程から歩き回っているのだが、クロウリーは一向にラスターのところへ向かう気配を見せない。シルフィーはアツアツの焼き芋を頬張りながらクロウリーを睨みあげた。
「ちゃんと連れて行く気あるの?」
「もちろん。せっかく王都まで来たんだから楽しんでいけよ」
このように、急かしても宥めすかされてしまう。何が悔しいって、シルフィーも普通に楽しんでしまっていた。これではまるで……
「デートみたい、とか思ってないよな?」
「思うか! お前ロリコンかよ!」
「ロリコン? おかしなことを言う。お前、結構いい歳だろ?」
「なっ⁉」
バレていた。しかしいつから……シルフィーは動揺を隠しきれない。
「兄貴は騙せても俺は騙せない。お前のことはラスターに押し付ける」
「サラッと最低なこと言ってる!」
「このまま放りだすのも寝覚め悪いしな。それにお前が一緒だと弟子も喜ぶだろ」
「弟子?」
「俺はお前と違って人望があるからな」
「そんな話してない! てか決めつけるな!」
終始クロウリーにペースを握られているシルフィーだが、話は彼女の望む方向に進んでいる。進んでいるのだが、気に食わない。
「クソッ……お前の思い通りになんか絶対……!」
「じゃあ俺一人でラスターのところ行くから」
「待って、連れて行ってよ!」
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「……お前何で俺の部屋にいるんだ?」
「いいじゃないですか! 独りぼっちは寂しいです!」
「ぶきゅ……?」(寂しかったのは嬢ちゃんだけでは……?)
ラスターさんが寂しがってると思って部屋に来てあげたのに……ウリたんも悲しんでますよ! おや、部屋の前から人の気配。
「ラスター、お客様が来てるぞ」
宿屋のご主人がラスターさんの部屋のドアを叩きながら言いました。ラスターさんのお客さんなら多分、調査機関の人でしょう。
「何て名乗ってる?」
「友人のクロウリーだって言ってたぞ」
「クロウリーが? ん、通してくれ」
「えっ、師匠?」
師匠ったらわざわざ王都まで来て何の御用でしょう? まあ師匠の場合“わざわざ”やってくる、なんて感覚持ってないでしょうが。
「よっ、ラスター。遊びに来てやったぞ」
「……どうも」
「あっ、シルちゃん!!」
シルちゃんがクロウリーさんの後ろからひょっこり顔を出しました。シルちゃんまで来てたなんて! 嬉しいです!
「わーい! シルちゃーん!」
「ちょ……抱き着かないで……」
押し退けられてしまいました。シルちゃんは適度な距離感が必要なタイプなのですね、仕方ないです! あ、そういえば二人はどうしてここに来たんでしょう?
「お前ら何しに来たんだ?」
「そう邪険にするなよ。今日はお前に頼みがあってな」
「頼み? まあ内容次第だな」
「シルコをお前の仲間にしてやってほしい」
「却下」
即答です! どうしてですか、ラスターさん! シルコちゃんと一緒に冒険できたら素敵じゃないですか~!
「俺達に仕事には危険が付き物だ。ただのガキを連れて行くわけにはいかない」
「じゃあ私のことは認めてくれてるってことですか⁉」
「ややこしくなるからお前は口出すな!」
怒られちゃいました。少し大人しくしておきます。
「それに勇者のパーティは4人までと伝承にも書いてある。もう定員いっぱいだ」
それどんな伝承ですか……でも言われてみれば確かにそんなイメージ有りますね。ラスターさんとボマードさんと、私と、ウリたんと、ごんちゃんと……あれ?
「ラスター、動物はノーカンにしないと、お前定員オーバーになるぞ?」
「ぐっ……確かに……」
「それじゃあ一枠空いたってことで」
「いや、それでもそいつを仲間にする理由にはならない」
「お前の目は節穴かよ? よし、シルコ、お前の実力見せてやれ!」
えっ、まさかシルちゃんには隠された力が⁉
「えっ」
師匠、シルちゃんビックリしてますよ……
「何かあるだろ? ほら、アッピルしろ!」
「ふざけんなよマジで仕方ないな……」
何かこそこそ話してますね。……あれ、シルちゃんはどこに?
「……やっぱり勇者様だね。見るからに高そうな剣だ」
シルちゃん、いつの間にラスターさんの背後に⁉ それにそのビー玉、ラスターさんが肌身離さず持っているはず……
「今の身のこなし……お前、何者だ?」
振り向いたラスターさんが尋ねるとシルちゃんは冷や汗を流し始めました。もー、そんな怖い顔しちゃダメですよ!
「あ、その……私……えっと……」
「ラスター! この子はずっと一人で生きてきたんだ、自分の身を守るためには強くなるしかなかった! 生き延びるためには何だってやった……モチロン盗みも……だけど、この子は変わりたいと願ってる! 頼む……この子を真っ当な人間にしてやってくれ……こんなこと、お前にしか頼めないんだ……」
師匠は声を震わせながら目頭を押さえています。シルちゃん……そうですよね、ずっと一人で苦労してきたんですよね……師匠、そこまでシルちゃんのことを……
「ラッさん、師匠もここまで言ってることですし……」
「……足手纏いにはなるなよ」
「ラスター……! いいのか?」
「こんな手癖の悪いガキ、野放しにできねぇからな」
ラスターさんってば相変わらず素直じゃないですね! でも、ということは……?
「シルちゃん、一緒に冒険できますね!」
「う、うん、うれしー」
シルちゃんはなぜか棒読みで答えました。嬉しすぎて実感が沸かない、ってところですかね! これからが楽しみです!
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「……というわけで今日からお世話になります……ぐっ! シルコです……」
シルちゃんはなぜか悔しそうに名乗り、深々と頭を下げました。ボマードさんもさらに深いお辞儀と自己紹介を返します。
「チギリさんのお友達も加えての珍道中ですか。賑やかになりそうですな」
「……俺は不安しかないけどな」
私は次の冒険が楽しみでしょうがないです! 早く指令来ませんかねー?
「ラスター様、指令書をお持ちしました!」
「うおっ!?」
ラスターさんのベッドの下から、伝達員さんが顔を出しました。どこから出てきてるんですか!
「……次から普通に出て来いよ」
「はっ! ではこちら指令書になります。受取証にサインをお願いします」
そうしてラスターさんに指令が伝えられました。次はどこに行くんでしょうか? わくわく。
「カプルポート……北西の港町だな。漁船が相次いで沈没している、か……」
「急いだ方がよさそうですな」
「よし、すぐ支度しな。さっそく出発だ!」
「おー!」
「ぶー!」(おー!)
また怖い事件です! 一刻も早く解決しないとです!
「ほら、シルちゃんも! おー!」
「え~? 私も……?」
「声出していきましょう! えい、えい、おー!」
「えいえいおー……」
「声が小さいです! もっと気合入れて!」
「もう……えい! えい! おー!」
「騒いでないでさっさと準備しろや!」
また怒られちゃいました☆ シルちゃんとの最初の冒険、前途多難です! 続く!




