21. 武闘派僧侶はもう逃げない
前回のあらすじ!
卑怯な手を使ってラスターさんを追い詰める憎きツチリュウ! そしてとうとう、ラスターさんの堪忍袋の緒が切れました! 勇者VSツチリュウ、一体どうなる!?
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「うおりゃぁあああああ!!」
ラスターさんはごんちゃんの背中からそのままツチリュウに飛びかかり、剣を振り下ろします。そしてその人達が、一刀両断、ツチリュウを真っ二つに切り裂きました。あんなに煽ったのに、ものの数行で決着ついてしまいましたよ!
「終わったぞ。ボマード、供養してやれ」
「ええ、もちろん」
ブチ切れてましたけど一応供養はしてあげるんですね。ツチリュウさんは光の粒になって消えていきました。ズルい子でしたね。
「いやぁ、見事な腕前! 感服しやした!」
背後から軽薄なギターの音色とともに、ラスターさんを褒めたたえる声が聞こえてきます。
「お前……まだいたのか……」
「勇者さんが戦うところなんて滅多に見れるもんじゃありやせんから」
流れ者のギターおじさん、スーミンさんです! さっき避難していたはずだったのですが……どこに隠れていたのでしょう。
「こう見えても逃げるのは得意でしてね。逃げ続けの人生でやしたもんで」
……ダメな大人です。どうしてちょっと得意げな顔してるんですかね……自分で言ってて情けなくないんでしょうか……
「それではいけませんぞ!」
「へ?」
ボマードさん、急に興奮してどうしたんでしょう。スーミンさんの両肩をわしづかみにしました。
「一目見たときから感じておりましたが……やはりあなたの心は堕落しています! 私が鍛え直して差し上げましょう!」
「えっ、ちょっと、お坊さん⁉」
……二人でどこか行っちゃいました。ボマードさん、いつになく熱かったですね。ラスターさんとウリたんと、去りゆく背中を見送ります。
「……メシにするか」
「はい、お腹すきました!」
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私たちはひとまずふもとの村で宿泊することにしました。しかし、次の日になってもボマードさんは戻ってきませんでした。ホントにあのギターおじさんと修行しているのでしょうか……
「血が騒いだんだろうな。最近坊さんらしいことしてなかったしよ」
「えっ、でも魔物のご供養とかしてましたよ?」
「それも大事だけどな、あいつにとっては違うんだよ」
ラスターさんの話によると、ボマードさんは「苦しむ人々の声に耳を傾け、正しい道を進めるよう手助けする、それこそが聖職者の役割である」と常日頃から語っていたそうです。
「あのおじさんは苦しそうでしたか……?」
「……分からん」
どちらかというと、自由気ままに苦労なんかと無縁に生きているようにしか見えなかったんですが……いえ、人にはそれぞれの苦悩がありますよね! 決めつけはイクナイです!
「そんなことよりラッさん。この村、魔法屋さんがあるって聞いたんですけど」
「暇だしちょっと覗いてみるか?」
「わーい!」
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「いらっしゃいませー『マジカル☆ケミカル オリヴィン山麓店』へようこそー!」
お店に入ると元気いっぱいのお姉さんが出迎えてくれました。おお、笑顔が眩しい……そして顔がよい……あれ? “マジカル☆ケミカル”ってどこかで聞いたことがありますね。
「あっ、王都にも同じ名前の店がありました! リリスさんのとこ!」
「あら、知ってるの? “マジカル☆ケミカル”は世界最大手の老舗チェーン店なんですよー! 王都にあるのは本店ですね」
そうだったんだ……結構こじんまりとしてたので親族経営でひっそりやっているのかなっ、と思っていました。
「私が店長のブルーメ=マジカル! リリスちゃんの従姉に当たります! 支店は全部マジカル一族のものが店長をやってるんですよー」
親族経営で豪快にやっていました! しかしこの世界にもチェーン店というものがあったとは……
「でも王都のとは店の雰囲気違いますね」
「そうなんですー! 支店ごとに特徴がありまして、うちはオリヴィン山で採れる鉱石を使ったアクセサリーが人気なんですよー!」
「魔法とは」
確かに指輪やペンダントのような小物が多めに見受けられます。キレイですけど……キレイなんですけど……
「……魔法関係なくないですか?」
そう言ったらブルーメさんの目の色が変わりました。その目で足元のウリたんをじっと見つめています。怖いです。
「言ってくれるじゃないですか! ふふ、それじゃあ見せてあげようじゃありませんか……」
「ぶひぶひ」(イヤな予感がするな。逃げるが勝ちだぜ)
ウリたんが店を飛び出してどこかに行ってしまいました。迷子にならなければいいのですが……そしてウリたんが消えたことにより、ブルーメさんの視線は入り口付近で商品を見ていたラスターさんに向きました。
「例えばこちらの指輪ですね。普通の指輪に見えるでしょう?」
「はぁ……」
深い赤色の石が情熱的に輝いています。お美しいとは思いますが……ブルーメさんは指輪を中指にはめて手の平をラスターさんの方に突き出します。
「これを指にはめて念じると……えいっ!」
「熱ィ! 何だこれ⁉ 敵襲か!?」
「ラッさんが燃えてるー!」
ブルーメさんがきゅっと手の平を閉じると炎は消え去りました。
「おいあんた……」
「このように誰でも手軽に魔法が使えるんですよ! 威力が低いので護身用程度にしか使えませんが……」
「すっごーい!」
なるほど、これは確かにマジックアイテムですよ! こっちの黄色いのとか青いのとか緑色のも全部ですか!
「試してみます?」
「なぜ俺を見る……試し打ちならカカシにでも……」
「それだと威力が伝わりにくいじゃないですか!」
「あんた頭おかしいんか⁉」
ラスターさんが頑丈だからと言ってあまり無理をさせるのはイクナイですね。それに私には必要のないものです。
「他に何かないんですか?」
「もう飽きたのね……子どもを楽しませるのは大変だわ……」
ブルーメさんは何やらボヤキながら商品棚を物色しています。次はどんなのが出てくるんですかね! わくわく!
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「あびゃぁああああ!! む、無理、ギブあっぽぼぼぼぼ!!」
ボマードに連れていかれたスーミンは例の滝行をやらされていた。精神修養が彼には必要だと考えたからだ。しかしボマードはスーミンの姿に一抹の違和感を覚え始めていた。
「今日はここまでにしましょう。お疲れ様です」
「はい、どーも……」
「……あなたは不思議な人だ。心は堕落しきっているというのに、同時にある種の悟りのようなものも見受けられる」
「買い被らないでくだせぇ。あっしはただ楽して生きてきただけでさぁ」
スーミンは濡れた体を布でふき取りながら誤魔化すように笑った。ボマードはスーミンのために乾木を擦って火を起こしてやった。
「すいやせんねぇ。何でこんなお節介焼いてくれるんですかい?」
「いえ……私も色んなことから逃げ回っていた時期がありましたので、つい……」
「ほぉー、意外ですなぁ。聞かせてもらっても?」
「思春期の少年のささやかな反抗ですよ」
ボマード=グレイゾは先代聖拳総師範代の長男として生まれ、その後継となることが決められていた。しかし彼はそのさだめに反発して14の時実家を飛び出した。
「結局その後、異次元に飛ばされて行方不明になっている間に姉上が後継者に決まっておりました」
「えっ、急に異次元?」
「今でもときどき後悔します。もしあの時逃げ出さなければ、と」
「待ってくだせぇ、異次元の話まだ処理できてない」
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「どうですか! このように遠くの様子を映せるんですよ!」
次に見せられたのは透明な水晶玉でした。ボマードさん達真面目な話していたみたいですけど、覗き見してよかったんでしょうか……
「あの人聖職者でしょ? 寛大な心で許してくれますよ!」
「ボマードさんを都合のいい神様にしないでください!」
ていうか、この程度のことだったら私の魔法でもできますよ。もっと面白いものはないんですかね?
「負けないわ……マジカル一族の名に懸けて……この子を笑顔にしてみせる……」
「さっきから何ブツブツ言ってるんですか?」
ブルーメさんはまた商品棚を物色し始めました。ずっと小声で何か言ってて怖いです。
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「貴重な体験させていただきやして、ありがとうございやす」
「いえ、こちらこそ」
ボマードとスーミンはお互いに頭を下げ合った。少し早く頭を上げたスーミンは腰を下ろしてギターを構えた。
「お坊さん、後悔とおっしゃってやしたが……勇者さんと一緒にいることも、ですかい?」
スーミンの問いにボマードは即答した。
「いえ。ラスター殿も、どらえごん殿も、チギリさんも、ウリたん殿も、素晴らしい仲間です」
「さいですか、では記念に一曲弾かしてくだせぇ」
スーミンがかき鳴らすギターの音色を聞きながら、ボマードはしみじみとあることを考えていた。
(下手な演奏ですなぁ……)
続く!




