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20. 魔王の影はこっそり育つ

前回のあらすじ!

十二神官の一人・ピスケスさんはなんとロリコンの変態お姉さんだったのです! 危うく捕まるところでした……みんなも知らない人についていっちゃダメですよ!

そしてまた新たな事件です! とある囚人が脱走! この間私の部屋に空き巣に入った人でした! 何やってるんですか、あの人……

────────────


 「どうしますか? あの泥棒さん探すんですか?」

 「コソドロに構ってる暇なんかねぇよ」


 ラスターさんはぶっきらぼうに答えました。そんな暇がない、ということはまた新しい任務が来てるんですね!


 「西の山村でツチリュウって魔物が暴れてるらしいんでな。退治を頼まれた」


ツチリュウ? というとドラゴンちゃんの一種ですかね? また大変な仕事になりそうです!


────────────


 「あーん、怖かったー! どうして誰も助けに来てくれないの!」


 脱獄して自分の根城に帰ってきたシルフィー=アランドロンはいきなり仲間たちに文句を垂れた。


 「勇者に倒されたならともかく、窃盗で収監される奴があるか。我輩は貴様の単細胞ぶりに呆れ果てたぞ」

 「その勇者に捕まったんです!」


尊大な口調でたしなめる白髭の老人に口を尖らせて反論する。そのやり取りを見ていた金色の鱗の竜人がボソリと呟いた。


 「……未熟者」

 「何さ、みんなして私のこと責め立てて!」


怒りながら涙目になるシルフィー。そんな彼女を褐色肌の妖しげな女性が胸に抱き寄せた。


 「私は味方よ、シルフィー。あなたは必要な仲間だから」

 「お姉さまぁ……」

 「次から気を付ければいいの、こんな化け物の言うこと気にしないで」


その言葉を聞いた老人の眉がピクリと動いたが、女はあえて気づかないふりをした。


 「いやぁ、相変わらず二人は仲良しさんだねぇ。まるで本当の親子みたい……へぶぅ!」


女はにやけながら近付いてくる糸目の男を蹴り飛ばした。女はゴミを見るような目で彼を見下ろしている。


 「誰が親子だって? せめて姉妹だろ?」

 「誰がそんな失礼なこと! 仲良し姉妹にしか見えないよ!」


そして糸目は誤魔化すように話題を変えた。


 「そ、そういえばさ! スーミンを見かけないけど、彼どうしたの?」


糸目の問いかけに、部屋の隅で体を小さくしていた2m近い大柄な女がたどたどしく答えた。


 「あいつ、ツチリュウ連れて、遠く行った」

 「へー、そっかー。自由だねぇ、彼も。ギガちゃん、怒んないの?」

 「魔王様、迷惑じゃない、から、いい」


糸目は細い目をさらに細めながらうんうんと頷いた。


 「優しいねぇ、ギガちゃんは」

 「何を言っとる。怒ると一番手が付けられんのはそいつじゃろうが」


そう吐き捨てる老人に向かって、糸目はたしなめるように、しかしその実挑発する気満々でこう言った。


 「そう言わずに、仲良くしましょうよ。たった7人の仲間なんですから! 6人と一匹の方が適切かな?」

 「貴様……!」


立ち上がる老人を傍らにいた竜人が抑えつける。老人はバツが悪そうに舌打ちした。


その騒がしい室内に幼い少女の声が響いた。


 「賑やかじゃないか、構わんぞ? もっと喧嘩したまえ」


場の空気は一気に凍り付いた。そいつは決して少女ではない、ラスターの妹・サラの体に憑依しているだけのただの──


 「魔王様……お見苦しいところを」


魔王を除くその場にいた6人全員が恭しく片膝をついて頭を下げた。ここは魔王とそのしもべ達の、根城であった。


────────────


 そして私たちはツチリュウ退治にやってきました! この村は山の斜面に無理やり人里を作ったようなところだと聞いています。土砂崩れが起きたらひとたまりもなさそうな場所です!


 「ツチリュウってどんなドラゴンなんですかね……」

 「チギリさん、ツチリュウはドラゴンではありませんぞ」


そうなんですか? それでは一体……そうです、こんな時のための『いきもの図鑑』です!


 「……もぐら? みたいです……」


に、見えますけど、頭にドリルついてますね……角が発達した物らしいです。まさかこれで掘るんですか? モグラってそんなダイナミック?


 「土の中でそいつが暴れるもんだから連日連夜地震が起こってるらしい」

 「それは大変ですね!」


だったら一刻も早く退治しなくては! まあしかし、ちっこいモグラちゃんだったら、ラスターさんの手にかかれば楽勝でしょう!


 「えっ、5m?」


────────────


 調査隊の方の計算によると、この山の山頂付近でモグラちゃんが暴れているそうです! 山登りですよ! ……と、思ったんですが……


 「ウリたん、重くないですか?」

 「ぶぃぶぃ!」(山登りは得意だぜ! 安心して乗ってな!)


ウリたんが運んでくれるので楽ちんです。ラスターさんとボマードさんは汗かきながら登ってるのに、なんか申し訳ないですね!


 「はぁ……もうすぐ山頂だ……」

 「ラスター殿、何か聞こえませんか?」

 「何が? 地響きか?」

 「いえ、音楽のような……」


そういえば山頂の方からメロディが聞こえてきていますね。ギター? でしょうか。誰かが山頂にいるみたいです!


 「面倒臭ぇ……そいつ先に避難させないとな……」


確かに危険です! 山頂に急がなくては!


 「ウリたん、GO!」

 「ぶっひ! ぶぅううう!」(よっしゃぁ! ああ、足が滑ったぁああああ!)

 「うぅわぁー!!」


────────────


 大変な目に遭いました。死ぬかと思いました。やっぱり自分の足で一歩一歩、しっかり大地を踏みしめて歩いていくのが大事なんだなと痛感しました。楽をして得られる栄光などないのです。こうしてチギリちゃんはまた一つ成長していくのです。ぐすっ……


 「ぷきゅう……」(すまねえ、嬢ちゃん……)

 「いいんです、ウリたんは悪くないんです……」


そしてアクシデントはありましたが、やっとこさ山頂に到達しました! あの後姿……やっぱりギター弾いてる人いましたよ!


 「もし、そこの方。ここは危険です、早く降りられた方が……」

 「あんたがたも旅の人かい? あっしもでさぁ」


ボマードさんが話しかけていますが振り向く様子もなく演奏を続けています。


 「あっしは流れ者のスーミンと言いやす。ここの景色を音にしたくてね」


確かに良い景色です。でも危ないからさっさと逃げてほしいんですけど……


 「どうです? 今日の出会いの記念に、一曲弾いて差し上げやしょうか?」


ははぁ、さてはこのスーミンとかいう人、人の話聞かないタイプですね! そんでギターもそんなに上手くないですし!


 「そいじゃあ聞いて下せぇ。『ウサギとカメのラプソディ』……」

 「いい加減にしろ」

 「ああああぁああぁあぁぁぁぁぁ……」


ラスターさんが後ろから蹴りを入れると、スーミンさんは谷底目がけて真っ逆さまに落下していきました。大丈夫ですか⁉


 「……ぁぁぁぁあぁぁあぁあああああ!」


あっ、戻ってきました。なぜかごんちゃんの背中に乗せられています。


 「何すんですかい! たまたま下にドラゴンがいなけりゃ死んでやしたぜ!」

 「そうか、命拾いしたな。懲りたらさっさと下山しな」


ちゃんと下にごんちゃんを待機させたうえでの行動だったんですね、安心しました。


 「つれねぇ勇者さんだ。縁があったらまた会いやしょ」


スーミンさんはブツブツぼやきながらも下山していきました。これで一安心です。


 「これで仕事ができるな。チギリ、構えろよ」

 「はーい!」


山頂周辺にシャンプーハット状にバリアを展開します。山頂からの岩雪崩が村に落ちると危ないのです! どういう風の吹き回しか知りませんがラスターさんが私に役割を与えてくれたのです!


 「バリアの用意できました!」

 「よし。出て来い、モグラ野郎!」


ラスターさんが天地返しで付近の地面を掘り起こすと、出てきましたツチリュウさん! 日光が眩しいのか目を抑えてのたうち回っています。


 「ラッさん、チャンスですよ!」

 「不意打ちみたいで気が引けるなぁ……」


と言いつつも、うずくまるツチリュウさんの背中に全力で切りかかります! 流石ラスターさん、手段は選ばないのぜ!


 「終わりだぁあああああああああ⁉」


しかしその刹那、ツチリュウさんは素早く反転、迫りくるラスターさんを角ドリルで弾き飛ばしました! いちげきひっさつ! ラスターさんは谷底へ真っ逆さまです!


 「きゃー! ラッさーん!」

 「ラスター殿ぉおおおお!」


バサッ、バサッ!


おや、この羽音は聞き覚えが……というかさっきも聞きました!


 「……っはぁ、はぁっ! 危ないじゃねぇか! 突き落とすなんてよぉ!」


ごんちゃんの背中に乗って舞い戻ってきました! 微妙にブーメラン刺さってる気がしますが、とにかくよかったです!


地上に戻ってきたラスターさんとツチリュウが再び対峙します。しかし睨み合う両者の間に丸っこい影が現れました。ご存知ウリたんです!


 「ぶひきゅるる!」(待ってくれ兄貴!)

 「……どうしたんだよ?」

 「ぶるぶるぶるぅ」(俺にはこいつの言ってることが分かる……)


ウリたんは一体何を伝えようとしているのでしょう? それにツチリュウさんの言っていることとは?


 「ぶひぶひ……」(こいつは争いなんか望んじゃいない……ただここで暮らしたいだけなんだ! 人間に迷惑を掛けたことは謝る、だからここで居させてくれ、そう言っている)

 「こいつがそんなことを……」


ツチリュウさんも目に涙を浮かべています。そうだったんですか……そうですよね、この子だって悪気があったわけじゃないんですよね……


 「そうか……そうとは知らずに……悪かった」


気まずそうに頭を下げるラスターさんに向かって、ツチリュウさんは黙って右手を差し出しました。仲直りの握手……ですね! ラスターさんもツチリュウさんの手を、握り返します。そしてツチリュウさんはそのままラスターさんの右手を掴んで谷底へ投げ飛ばしました。


 「テメェええええええええ!!」

 「ラッさーん!!」


バサッ、バサッ!


さっきと同じ光景です。ごんちゃんがいなければ即死でした。


 「人の思いを弄びやがって! 貴様だけは生かしちゃおけねぇ!」


ラスターさん、マジ切れです。


────────────


 「少々演奏が刺激的すぎやしたかい? ま、勇者さんの実力じっくり見せていただきやす」


そして陰からラスターたちを見つめるスーミン! 続く!


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