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16. 勇者は畑を掘り起こす

前回のあらすじ!

私の部屋に泥棒が入ったり色々ハプニングが起こりましたが、ウリたんを狂わせた謎の野菜について調べるためにヴェジーに向けて出発しました!

────────────


 「はえ~畑がいっぱいです!」

 「大陸最大の農耕地帯ですからな」


 ラスターさんは村長のところにお話を聞きに行っているので、その間に私たちは村の畑を見て回ることにしました。


ウリたんは私の足元を不安そうに歩いています。食べなければ平気だと思いますけど……それにまだここのお野菜が原因と決まったわけではないってシザー先生も言ってました。


と、歩いていると第一村人発見です。早速あのおばあちゃんにお話を聞いてみましょう。


 「すみませーん!」

 「あら、可愛らしい子やね~」


かわいらしいだなんて、照れちゃいますね~。おばあちゃんはニコニコしながら手を伸ばして頭を撫でました……ウリたんの。


 「ふぐ、ごふっ……」(そう簡単に手懐けられると……気持ちぃ……)

 「可愛いイノシシちゃんね~お嬢ちゃんが飼い主かえ?」

 「あっ、はい……ちょっとお話いいですか?」


ウリたんはモフモフで愛くるしいですから仕方ないですね。それより聞き込みです。先生のお話だと、大気中の瘴気濃度が高いなら不作になっているはずだ──よく分かりませんでした。


難しいことは賢い人に任せるとして、私はとにかく情報を集めるのです! そう決めたのです!


 「今年はお野菜元気に育ってますか?」

 「ええ、もう。元気も元気、大豊作だよ!」


……話が違いますね……ここのお野菜は関係なかったということでしょうか? それじゃあウリたんを狂わせたものとは一体……?


 「もういいかい? そろそろ昼飯なんでな……」

 「ああ、はい! すみません、ありがとうございました!」

 「うんにゃ、またいつでも来なよ」


おばあさんは「ああ、腹が減った」とつぶやきながらお家に戻っていきました。それにしても、もう昼食時ですかいつの間にそんな時間が……


 「……まだ朝の10時ですよ」


その後もいろんな畑でお話を伺いましたが、この村はどこの畑でも近年まれに見る大豊作だったそうです。


 「どうして……ウリたん、拾い食いとかしてませんか?」

 「ぶひぶる!」(俺がそんなことするわけねぇ!)

 「そうですよねぇ……でもそれじゃあ何で……」


謎は深まるばかりです。何の手がかりも得られていませんが、取りあえずボマードさんと合流してラスターさんのところに向かいましょう。まだ村長のお家にいるはずです。


 「チギリさん、何か分かりましたか?」

 「いえ、何も……ボマードさんは?」

 「こちらも空振りです。強いて言うなら皆さんやたらとお腹が空いておられるのだな、と」

 「それ私も思いました! やっぱり農業って大変なんですねぇ」

 「そうですな」


ボマードさんは頷きながら村長さんのお家の呼び鈴を鳴らしました。おさげ髪の活発そうな娘さんがお出迎えてくれました。


 「勇者様のお仲間さんですね? お待ちしておりました! ささ、どうぞ!」


そう言ってラスターさんと村長さんが話している部屋に案内してくれました。


 「おっ、ボマード、待ってたぞ」


私は……?


 「早速で悪いんだが、村長を見てくれないか?」

 「構いませんが……」


ボマードさんは不思議そうな顔をしながら、村長さんに手をかざしました。村長さんの魔力を見て一体何が分かるというのでしょう。


 「……これは!」

 「えっ、何か分かったんですか!?」


ボマードさんは信じられないといった表情で声を上げました。村長さんの体にどんな秘密が……


 「村長殿から……邪悪な魔力を感じます……」

 「えぇっ!?」


ラスターさん以外の全員が驚きました。……村長さんご本人も含めて。


 「わ、私は悪い村長じゃないですよ!?」

 「そうです! 父がそんな……」


二人が焦りまくって混乱状態の中、ラスターさんはゆっくり立ち上がり村長さんの肩にそっと手を置きました。


 「痛みは一瞬だ……そぉい!」


そしてラスターさんは村長さんのお腹に思いっきりパンチを食らわせました。すると、村長さんの口から何か透明のゼリーのようなものが飛び出してきました。


 「うへーきたな……あれ? ラッさん、この痰動いてますよ!」

 「痰じゃない。それはスライムだ」


村長さんが吐き出した物体が床の上でうねうねと不規則に動いています。これがスライムですか。しかしどうしてスライムが村長さんの口から?


 「おそらく、そいつが村人たちの空腹の原因だ」

 「なるほど……! そういうことですか……」


ラスターさんとボマードさんは何やら二人で勝手に納得しているようですが私にはさっぱりです。村長さんもお腹を押さえながら説明を求めました。


 「どういうことです……? なぜこんなものが……」

 「多分、村人全員の腹の中にそれが入ってる。そいつが食った飯を勝手に盗んで自分の栄養にしてたのさ。だから食ってもすぐに腹が減るんだ」


ほほー、そういうことでしたか! だから皆さんやたらとお腹を空かせていたんですね。しかしこれをどうやって体の中にいれたんでしょう……


 「推測だが……ここの野菜だろうな。だが、取りあえずは村人にスライムを吐き出させるのが先だ。どうしたもんかな……」

 「ボマードさんの聖拳でじょーかできないんですか?」

 「ダメですな。生身の人間に聖力を打ち込めば体が耐えきれず爆散します」

 「怖っ!」


ヒエラティックアーツにそんなリスクがあったとは……どうしたものですかね……おや?


 「勇者様! お、思いっ切り打ち込んでください!」


娘さんが恐怖に顔を歪ませながら両手を広げてノーガードの体勢をとっています。どういうつもりでしょうか。


 「ほら、さっき父にしたみたいに……」

 「おお、確かに!」


これで解決じゃないですか! さっきできたことならさっさとやればいいのに。


 「女子供や老人の腹を殴れっていうのかよ?」

 「あっ」


確かにそれは心証がよくないです! 一般人に暴力を振るう勇者なんて見たくありません!


 「直接引っ張り出せれば一番いいんだけどな……ん?」

 「ん?」


ラスターさんは私の顔を見て何か思いついたようです。……何ですかね?


────────────


 「ちょっとくすぐったいですよ~……そぉい!」


 まさか“釣り竿”がこんな形で役に立つとは。魔力の糸で次々とスライムさん達を一本釣りにしていきます。他人の胃袋の中に自分の魔力を突っ込むのはちょっと気持ち悪いです。


 「ふぃ~全員終わりましたよ~」

 「お疲れ様です」


骨の折れる作業でした。しかし引っ張り出してきたスライムはどうするんでしょう? まだその辺の地面でウニョウニョしています。


 「俺の推測通りなら……こうなるはずだ」


ラスターさんはそう言ってスライムを1つ摘まみあげました。素手でいきましたよ。そしてそれを、その辺の畑にポイっと投げ入れました。


 「……やっぱりな」


投げ入れられたスライムさんは、畑の土の中にスイーッと染み込んでいきました。これは?


 「土壌に染み込んだスライムを野菜が水と一緒に吸い込んだのさ。そうやって体内に潜り込んだ……ってとこかな」

 「はえ~スライムさんも手の込んだことしますね~」


でも土の中に染み込んでるってことはひょっとして……


 「まだ大量に埋まってるだろうな」

 「ひえーっ! どうするんですか?」

 「対処法はある。村長、住民を全員避難させてくれ」


そう言って村人さんと私たちを全員村の外に避難させました。ラスターさん、何をするつもりなんでしょう。村のちょうど中心になる地点にいるみたいですけど……魔法で覗いちゃいます!


剣を抜いて深呼吸をしているようです。ここからどうするんだ? そのまま剣を地面に垂直に突き立てました。


 「奥義……天地返し」


そして突き立てた剣を斜めに引き抜きました。抜いただけ? ……に、見えましたが、次の瞬間、巨大な土壁がせりあがってきました。ラスターさんを中心にするように、周りの地表面がカサブタみたいにべリベリと剝がれ始めていたのです! 何ですかあれは⁉


 「あれこそが奥義・天地返し……」

 「知っているのですか、ボマードさん!?」

 「ええ、文字通り地面をひっくり返す究極の剣技です……!」

 「見ればわかりますよ!」


でもあんな無茶したら村がメチャクチャに……あ、一応民家は避けてるみたいですね。なんて器用でダイナミック!


 「さてと……第二ラウンドか……」


そして、引っぺがされた地面の下には、巨大スライムさんがびっちり埋まっていました。何ですか、あれ⁉


続く!


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