15. オシノチギリは誤魔化したい
前回のあらすじ!
師匠がちゃんと洗ってない野菜を食べさせたせいで体調を崩してしまったウリたん! そんなウリたんを助けて下さったのは名医・キャンサー=シザークラフト先生!
ですが、なんと! シザークラフト先生は黄道十二神官の一人でもあったのです!
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「そういうことだから、その子が食べた野菜の調査、頼んだよ」
「あ、はぁ……ラッさんにも伝えておきます……」
この優しそうなおじさまがエクリプスロードだなんて信じられません……最強の12人というからには、リオさんみたいに豪快な人の集まりだと思っていました。
「最強の……? リオさんがそう言ったの?」
「……? はい、そういう風に聞いています」
シザー先生は少しあきれた風に笑った後、優しい口調で説明してくれました。
「まぁ、間違いではないんだけど。十二神官には神器を通じて与えられる啓示を民衆に伝える、っていう大事な役割があってね。だけど神様が一人じゃないからそれぞれに担当がいるんだ。それで、リオさんの担当が“力の神様”だから聖拳総師範代ってことで選ばれたんだけど……就任して日も浅いしまだよく分かってないのかもね」
そういうことだったんですか……リオさんってば雑な説明してたんですね。
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「へっくし!」
「姉上、大丈夫ですか?」
「うるせえ、自分の心配してろ!」
「……申し訳ありません」
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そうこうしている内にウリたんが目を覚ましました。ウリたんの瞳はいつも通りのつぶらな可愛らしい瞳に戻っていました。良かったです!
「うん、これなら大丈夫だね。連れて帰っていいよ」
「お世話になりました!」
「ぶひぶひ……」(迷惑かけちまった……旦那、この恩は忘れねぇ!)
これで安心して帰れます。しかし帰ろうとしたところでシザー先生に呼び止められました。
「最後に一ついいかな?」
「はい、何でしょう?」
「ラスターくんのこと、しっかり見ててあげてよ。彼、なんだか危いから」
どうしてシザー先生がそんなこと言うのかはわかりませんが、言われなくてもそのつもりです。特にお嫁さんに関しては完璧に面倒を見るつもりです!
「お任せください!」
「頼もしいね、それじゃあよろしく」
シザー先生はさらさらと指令書をしたためて手渡してくれました。よろしくされちゃいましたからね、お城までラスターさんを迎えに行きましょうか。
「さあ、行きましょう、ウリたん!」
「ぷひゅぶぃっ!」(おう! 一生ついていくぜ!)
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「……で、迎えに来たのか」
「はい!」
お城に来るのもなんだか久しぶりな気がします。相変わらず立派なお城ですねぇ。なぜか中に入れてもらえなかったので、城門の前でラスターさんと合流しました。
「そりゃお前のことは一部の人間しか知らないからな」
「そうだったんですか!?」
「事情はどうあれ、勇者を助けるために転生したってバレたら狙われるだろ」
「あっ、確かに!」
私って結構危うい立場だったんですね……これからはもっと気を付けて慎ましく暮らさないと……
「それじゃあボマード迎えに行くか」
「いえっさー!」
ボマードさんは元に戻ってますかね……
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「いや……大変ご迷惑をおかけしました……」
「気にすんな、こいつのせいだから」
「あっ、ズルいですよ! ラッさんもちょっとは悪いです!」
子どもに責任転嫁なんて最低です! そりゃ元をたどれば私の……待ってください、そもそも師匠が私にあんなことを頼まなければこうならなかったのでは……?
「やっぱり師匠が全部悪いですよ!」
「いや、お前が弟子入り志願したからだろ」
「ウリたん、やっぱり私のせいだ!」
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そして、一度宿に戻って荷物を整理してからヴェジー村に発つこととなりました。あっ、そういえば宿って……
「ラッさん、ボマードさん、私の部屋見ちゃダメですからね!」
「見ねぇよ」
ウリたんが暴れたおかげで見るも無残な状態になっているんでした……見つかったら確実に怒られてしまいます! どうやって誤魔化せば……
ガタッ
おや? 何か物音がしますね、ベッドの下からでしょうか? 覗きこんでみるとそこには……
「げっ」
「ぎゃー! どろぼー!」
小柄な女の子が私の本を抱えて潜り込んでいました! 私と目があったその瞬間、素早くベッドの下から飛び出して部屋のドアへ! 何て素早い身のこなし! マズいです、逃げられてしまいます!
「泥棒⁉ 大丈夫か⁉」
「うぎゃー!」
おぉ……ナイスタイミング……ラスターさんが勢いよく開けたドアで思い切り顔面を強打して気を失ってしまいました。
「……こいつか?」
「はい……ビックリです……あっ」
ピンチはまだ終わっていません。このボコボコになった部屋をラスターさんに見られてしまいました。誤魔化し方をまだ考えていません……
「随分荒らされたな……他には何も盗られてないな?」
「……!! そうなんです! 帰ってきたら部屋がこんなことに!」
僥倖……! 上手いこと誤魔化せそうです……! この子には申し訳ないですが盗人に慈悲はありません!
「きゅっぷい……」(嬢ちゃん、これは俺が……)
「しっ! ウリたん、黙っててください!」
「…………なに話してんだ?」
「何でもないですよっ!」
やりました! 泥棒さんのお蔭で誤魔化せました! 結果的に何も盗られなかったし、いいことづくめです!
「うーん……はっ! ここは……」
「よお、目ェ覚めたか」
ラスターさんが目覚めた泥棒さんの腕を押さえつつ顔を覗き込みます。泥棒さんは自分の置かれた状況を理解したのか冷や汗をかいています。
「……お前まだ子どもじゃねえか。なんでこんなことした?」
「そうですよ! ありがとうございます!」
「え?」
「いや、何でもないです!」
泥棒さんは虚ろな目で天井を見つめています。しばらくして、目に涙をためながら口を開きました。
「弟たちが本が読みたいって……でもそんなお金なくて……そこの窓から偶然その子が読んでるのが見えて……それで私……」
そうだったんですか……小さいのに苦労してるんですね……
「この部屋窓ないけどな」
「…………ちっ」
この人今舌打ちしましたよ! ウソ泣きしながら大ウソついてたってことですか!?
「お金に困ってたんですぅー盗んで売っ払おうと思ったんですぅーこれで満足?」
「開き直りやがった……」
盗人猛々しいとはまさにこのことですね……それにしてもどうしてこんな小さな子が……見たところ私よりも年下に見えますが……
「さっきから子ども扱いしてきますけどぉー私立派な成人女性なんですけどぉーはいはい、ちんちくりんですみませーん」
タダのダメな大人でした。
「よし、衛兵に突き出す」
「ちょっと待って! そんなことしたら私逮捕されちゃう!」
「だからだよ」
腕を引きずられながらも泥棒さんは必死の抵抗を見せます。すごい踏ん張りだ……ラスターさんが全力で引っ張っているのにびくともしません……
「……ふぅー、もったいないなぁ。そのパワーとさっきの身のこなしなら王国騎士団でだって通用するだろうに……」
「何よ……どうせ私なんか……」
「紹介してやってもいいけど? 給料はかなりいいと思うぞ」
「えっ!? 本当⁉ あんた良い奴だったんだね!!」
ラスターさんは泥棒さんを連れて行ってしまいました。本気なんでしょうか……?
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「じゃあ、あとはよろしく」
「ご協力感謝します!」
「騙したなー!? この卑怯者!!」
「いやぁ、いいことすると気持ちがいいな!」
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「ただいま」
「おかえりなさい……ラッさん、ホントにあの人紹介したんです?」
「するわけないだろ、コソドロだぞ」
「そうですよね! ……なんか可哀想な人でしたね」
「お前はあんな大人になるなよ」
確かにあの人みたいな哀れで救いようのない大人にはなりたくないです。
「……実はこの部屋、ウリたんが体調崩して暴れちゃったんです。怒られると思って嘘つきました。…………ごめんなさい」
「……そうか、怪我してないか?」
「はい……ウリたんも無事回復しました」
「ならいい。早く支度すませな」
「はい!」
正直に生きようって、そう思いましたまる
そして一行はいざヴェジーへ。続く!




