145. お預かりした物
前回のあらすじ!
魔王の手下・ディヒター、ヴァイスさんとアルさんの結婚式に乱入してきてせっかくの幸せな時間をぶち壊しにしてくれました!! 許せません!! 怒りに燃えるラスターさん達はディヒターを追い詰めますが……
「生身の人間が聖力を打ち込まれたら体壊れちゃうんだったよね? 確か」
ボマードさんが、いえ、ボマードさんに乗り移ったディヒターがラスターさんに襲い掛かります! ラスターさんは剣の腹でうまくさばいていますが……
「どうしたの? 仲間には攻撃できないか?」
「……クソ野郎が」
あの人マジで最悪ですね! ボマードさんの体に傷はつけられないのでトラちゃんも身動き取れません。
「私が魔法でどうにか……」
「別の使い魔を……」
私とピスケスさんが同時に魔法を使おうとしましたが、何も起きませんでした。おかしいです、こんなこと今までなかったのに!
「ああ、魔法ね! 僕の呪いで使えなくしちゃったよ! 目と目が合ったあの時に!」
「えぇっ!?」
何でもありですか! 魔法が使えないチギリちゃんなんか、ただちょっとかわいいだけの小学生女児じゃないですか! どうすんですか!
「クロウリー! チギリを連れて逃げろ!」
「えっ、俺!?」
さすがラスターさん、的確な判断です。後ろの方から様子をうかがっていた師匠は私の方に駆けてきました。
「チギリ、行くぞ!」
「あっ、ちょっと待って」
クレアさんです。言いたくないですけど魔法が使えない私がいても足手まとい……
「ラスターさん、これ!」
「あん?」
私の杖から虹色のキラキラが飛び出してラッさんの剣にまとわりつきました。あれは十二神官どきどきスタンプラリーを突破した証!
「預かってたので、返しておきます!」
「何か分からんがサンキューな!」
そして私は師匠に手を引かれて礼拝堂の外へと闘争を試みます。ですが向こうの狙いは師匠、簡単に逃がしてくれるとは……
「行かせないよ! 星宿変化!」
やっぱりです! こっちに隕石が飛んできました! 魔法も使えないのにどうやって対処すれば!?
「ひー! ししょー!」
「……クソッ!」
師匠は私を覆いかぶさるように抱きかかえます。かばってくれるのは嬉しいですが、人間一人じゃクッションにならないと思います……このまま師匠と心中ですか……私は覚悟して目を閉じました。
「……あれ?」
隕石は? どこでしょうか? 頭に砂粒がパラパラと降ってきます。まさかこれが?
「邪悪を切り裂く光……そうか、この剣の煌めきは……!」
「えぇ? ちょっと、どうなってんの? 間合いじゃなかったよねぇ?」
ディヒターは不思議そうにもう一度隕石を降らせてきます。そんな気軽に落として良いものじゃないんですよ! 隕石って!
「また来ましたよー!」
「させねぇ」
ラッさんの剣は隕石には届いていません。しかし、あのキラキラが、刃の形になって隕石の方に飛んでいきます!
「わぁお! バラバラになっちゃった! それズルじゃなぁい?」
「お前が言うなクソ野郎」
剣撃のリーチ大幅アップです。まさに鬼に金棒、さすが神様パワーの賜物です! 私と師匠は今のうちに逃げおおせます。
「ラスターは凄いな……」
「今更何言ってんですか?」
せっかく逃げ出せたチギリちゃん達ですが決着はすぐにつきそうです。キラキラの力はそれだけじゃありませんからな!
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「いやぁ、ズルいズルい、ズルいなぁ勇者くん」
勇者の仲間を人質に取りながら悪霊は嘯く。彼は敢えて攻撃せずに勇者の表情を楽しんでいる。
「ふっはっは、その顔、魔王様にも見せてあげたいなぁ。鏡いる?」
「……相棒の体は返してもらう」
ピスケスはこの場からクロウリーが逃げてくれて良かったと心から思う。ラスターの態度から嫌でも突きつけられる、彼が座りたかった席には既に他の者が座っていることを。
「私、知ってますよ~……それでも──」
攻めあぐねるラスターの瞳に剣の煌めきがちらついてくる。神々が、創造神の作った世界を守るために託した力。
「俺も使わせてもらうぜ。俺の守りたいモン守るために」
不規則に流動していた光が螺旋状になって剣に絡みつく。ラスターの思いに応えるかのように。
「お前が俺の仲間を利用し、ダチの命狙ってんなら、切らない理由はない」
裏切られて傷つけられても、それでもクロウリーはラスターにとって最初の友人だ。それだけで彼は唯一無二の存在なのだ。
「切る、って? どうやって? 仲間の体を、斬れるのかい?」
「お前、神様とか信じないタイプだろ」
ラスターは不敵に笑いながら輝く剣を振り抜いた。その剣は勢いのままボマードの肉体をすり抜けていった。
「おいおい、どうしたの? 当たってなかったみたいだけどぉ……おっ!?」
ディヒターが突然うずくまり苦しみ始める。そこにすかさず、もう一太刀、すり抜ける斬撃を浴びせた。
「何をしたぁ! うぐっ!」
神からの試練を乗り越え、託された力が突破口を開いた。きらめきをまとった剣は、邪悪のみを切り裂く。
「これで終わりだ……!」
「させるかぁっ! ツチリュウちゃん!」
ラスターがトドメの一撃を浴びせようとしたその時、地面から現れた巨体の影にボマードの体は隠されてしまった。
光の一閃を受けたツチリュウはすぐさま消滅してしまった。そこにはボマードが横たわっていたが、先程までの邪悪な気配はなくなっていた。
「……邪気が消えた」
「やっつけたんですか~?」
「……いや、多分、違う」
ディヒターはツチリュウを囮にしている隙にボマードの体から分離し逃げおおせていた。ラスターは舌打ちしながらボマードの体を抱え起こす。
「まあいい、次は逃がさねぇ」
友を苦しめた者への怒りの火は、ラスターの心で静かに燃え続けていた。
続く!




