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141. 生き残りのウラワザ

前回のあらすじ!

ラッさんとピスケスさんはししょーの説得に向かいました! 私は別の用事を頼まれたのでお留守番です!

そして時を同じくして魔王と師匠は……

魔王城


 「クロウリー、私の言いたいことは分かっているか?」

 「……さあ、何でしょう?」


思い当たることならあった。勇者の仲間の魔法使いに、リッキーを倒せるように助言した。そのことを怒っているのだろうと考えていた。


 「リッキーのことはもうどうでもいい」

 「え?」


魔王が冷たく言い放つのでクロウリーは拍子抜けした。かの邪悪な存在に仲間への情など存するはずもないと改めて思い知る。


 「今日はお前に感謝したくてな。お前の尽力の甲斐あって私の力も戻りつつある」


優しい声色が逆に不気味だった。魔王が素直に手下をねぎらうはずなどないことはよく分かっていた。


 「空間魔法も、使えるようになっていたよ」


クロウリーは背筋が凍った。その言葉は、もう魔王にとってクロウリーが不要であることを意味していたのだから。


 「どうした、クロウリー? 顔が青いぞ?」

 「いえ……何でも……ありません……」


その恐怖に、初めて魔王と出会った時の気持ちを思い出していた──



────────────



 「ふむ、魔法を使った戦術を学びたいとな?」


魔法学校の卒業を間近に控えたクロウリーは焦っていた。勇者とともに戦うとして、今の自分の実力では足を引っ張ってしまうことは明白だった。


 「それなら召喚魔法について、深く掘り下げてみるといい」


彼の師であるリッキー=ライムストーンはこう助言した。この時リッキーは既にスライムが成り代わっている。


 「そうじゃな……我輩からもいくつか書物を紹介しよう。魔術の基本はまず『知ること』じゃからな」

 「はい! 助かります!」


すでに罠に嵌っているとも知らず熱心に読み漁っていると、その中の一つの書物に強く目を引き付けられた。


 「【最強】無敵の使い魔が君の物に!?今すぐ最強の召喚士になれちゃう裏技!! ……何だこのあからさまに怪しいタイトルは」


クロウリーは警戒心をあらわにしたが、同時に抗えない魅力を感じてしまうのも本音だった。クロウリーは手の平に魔方陣を作る。


 「……これが限界だもんな」


綿毛のような小さな虫が魔方陣から飛び出してくる。己の力の矮小さにため息が漏れた。


 「とりあえず、こういう時は……先生に相談だな」


相談する相手として最悪であった。この罠を仕掛けた張本人が、彼が「先生」だと思い込んでいるソレなのだから。


 「何をためらうことがある? やってみればいいではないか。勇者の力になりたいのだろう?」


彼の師は背中を押してくれた。地獄の谷底に向かう彼の背中を。クロウリーはリッキーの監督のもと、その本に記された召喚術を実行した。


 「えーと……床に八芒星型の魔法陣を描き、その中心で2回ジャンプ、時計回りにその場で3回転した後、2回屈伸、魔法陣の外縁を反時計回りに3周、中心に戻って自分の血がついた刃物を魔法陣に突き立てる……何のまじないだこりゃ」

 「やると決めたんならさっさとやらんか」


リッキーに促されるまま、書かれた通りの手順をなぞる。進めるほどに、体が重く、それこそ自分の物でなくなっていくような感覚がした。


 「何だこれ……やっぱりヤバいんじゃ……」


だが恐れる心に反して体は止まらない。クロウリーは自分が何かに取り憑かれてしまったようにしか思えなかった。


 「先生……止めて下さい……」

 「決めたなら最後までやり遂げよ」


師の心が分からなかった。怯えた目でリッキーを見つめながら右腕の血をナイフに吸わせる。最悪の召喚術がまさに完遂されようとしていた。


 「……終わったか?」


儀式を終わらせてしまったクロウリーは魔法陣の中心でガタガタ震えていた。正体は分からなかったが、自分で描いたその魔方陣からこの世の邪悪を詰め込んだような強大な気配が溢れ出しているのを感じた。


 「お前か? 私を呼んだのは? ふっふっはっは……やはり人間の子供は騙しやすい……」


魔法陣から人型をした黒い霧の塊が姿を現す。本能で理解できた、この邪悪な存在は自分に“死”をもたらすものだと。クロウリーはあまりの恐怖に呼吸の仕方を忘れていた。


 「そう怯えるな。空間魔法の使い手よ、私はお前の力を借りたいのだ」


乱れに乱れた呼吸のまま、疑問の意味を込めた呻き声を絞り出す。「お前は誰だ」や「何が目的だ」の気持ちを込めて。


 「おっと、自己紹介が遅れたな。私は……魔王だ」


満面の笑みで告げるそいつに、クロウリーは身の毛がよだつ思いだった。そいつがこれから発するお願い(めいれい)に、逆らえないことを。


 「クロウリー=スカイルーク。私の足となってくれないか?」


逆らえば命はないことを。クロウリーの臆病な脳が思考を巡らせる。協力したとして自分はどうなる? 一時生き永らえたところでその後は? それにそもそも──


ラスターはこいつに勝てるのか?


巨悪を前に友への信頼に揺らぎが生じた。眼前のこいつを倒せるものがいなければ、どの道を選んでもクロウリーには絶望しか待ち受けていないのだ。


 「俺は……俺は……」


狡猾なる邪悪な化身は、その動揺を見逃さない。クロウリーの弱き心に巧みにつけこむ。


 「お前、兄がいるよな?」


クロウリーの唯一の肉親にしてこの世で最も敬愛する人物、それを引き合いに出されてクロウリーにまともな判断など求めようもなかった。


 「生き残らせてやろう。何、私としても人間を根絶やしにするつもりはないのだ」


人間が滅べば、魔王の生命源である「悪感情」が供給されなくなる。生き残らせる人間は魔王のさじ加減一つであった。


 「ホントに兄貴は……助けてくれるのか?」


クロウリーは弱かった。最愛の兄のためという方便を用意されれば、そちらに流れてしまうこと、魔王は見透かしていた。


 「ああ、生かしてやるさ」


そしてクロウリーは恐怖に震えながらも、魔王の前にひざまずいた。彼はこうして魔王の奴隷となる道を選ばされた。



続く!


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