14. 世話焼き名医は助けたい
前回のあらすじ!
クロウリーさんに弟子入りした私の最初の試練は、クロウリーさんの兄・ヴァイスさんとアルさんを正式な交際に至らせることでした。
色々なハプニングはありましたが私の完璧な作戦のお蔭でお二人は無事にお付き合いを始めました!
そしてスカイルーク孤児院を後にした私たち一行でしたが、一つ大きな忘れ物があったのです……
────────────
「あ! いました!」
「よし、さっさと連れて来い。中で待ってるから」
豊かな緑色の草原。その真ん中に寂しそうな茶色の点がポツリと置かれていました。あれこそが私たちの忘れものです。
「ウリたーん!!」
「ぷひ!?」(嬢ちゃん、迎えに来てくれたのか!?)
ウリたんがいないことに気づいたのは王都に戻った後でした。すぐにごんちゃんに乗って引き返して迎えに来ました。
「ごめんなさい、ウリたん……もう離しません!」
「きゅっぷい、ぷひっ……」(いいってことよ、気にすんな……)
私とウリたんが抱き合いながら涙涙の感動の再会を喜び合っていると、スカイルーク孤児院の扉が開きました。
「ああ、迎えに来たのか」
「あっ、師匠!」
出てきたのは我が師・クロウリーさんです。野菜が盛られた器を持っていますが、あれはひょっとしてウリたんのご飯でしょうか?
「さっきはありがとな。兄貴達には俺から説明してあるから」
ラスターさんには権威を振りかざして女性を思い通りにしようとする屑勇者を演じていただいたのですが、作戦成功後の種明かしができずにモヤモヤしていたのです。
「おお、これでラッさんの名誉は守られましたね!」
「俺の頼みだからな。そこは俺が責任持たないと」
師匠はご飯をがっつくウリたんの頭を撫でながら微笑みました。ところで私、正式に弟子にしてもらえたんでしょうか?
「……本当に感謝してる。礼といっちゃなんだが……教わりたいことあったらいつでも来いよ」
「……! それって……!」
「ああ。俺に教えられることならいくらでも教えるさ」
これで正式に弟子入りですよ! ラスターさんのお嫁さん探し、さらに勢いつけてやっていきますよ!
「ありがとうございます!」
「もごっ……ぶひっ!」(もごっ……良かったな嬢ちゃん!)
再び喜び合っていると、師匠が懐から水晶玉のようなものを取り出してきました。キレイです! 指先で何か描くようにして水晶玉をなぞっています。
「これを渡しておこう。それには俺の空間魔法を磨りこんであってな、魔力を流せばいつでも俺と連絡が取れる」
電話みたいなものですね! 凄い便利アイテム! 多分、後々重要になる奴ですね!
「ありがとうございます! 大事にします!」
「おう。頑張れよ!」
こうして、今度はちゃんとウリたんも連れて、スカイルーク孤児院を後にしました。師匠……私、頑張ります!
────────────
「これで一安心です! よかった、よかった!」
「ったく、世話の焼ける……」
ラスターさんは何やらボヤいていますが、こうなったのはそもそもボマードさんが役に入り込みすぎてしまったのが原因です。そしてボマードさんがそこまで入れ込まなきゃいけなくなったのは茶番が予定通りにいかなかったからで……そうなったのはラスターさんの芝居が下手だったから……そしてそんなラスターさんに芝居をさせたのは私……
「ウリたん! 全部私のせいだ! はっはっは!」
「さっきから一人で何言ってんだ」
ラスターさんはこれからお城に報告と報酬の受け取りに行くそうです。ボマードさんはまだ役が抜けきっていないので、偶然王都に来ていたリオさんのところに預けてきました。
────────────
「これはこれは。田舎の尼僧が王都に何の用ですかな?」
「おい、ラスター。弟に変なもん食わすなよ」
────────────
ですので私とウリたんはしばらくお留守番です。迷子になったら困るので宿のお部屋で大人しくしておきます。師匠から貰った魔法大百科にでも目を通しておきますか。
「ぷぎゅぅ……」
「ウリたん? 顔色がよくないですよ?」
どことなく不機嫌そうに見えます。置いていったことをまだ怒っているのでしょうか? 仕方ないですね、後でラスターさんにご馳走をたかることに……
「ぷぎゃー!」
「ウリたん⁉」
突然の出来事でした。ウリたんはその丸い体をさらに丸めて飛び跳ね、天井にぶつかりさらにバウンドして壁にぶつかり、そのままピンボールのように部屋中を跳ねまわり始めました。
「ウリたん!! 部屋が壊れちゃいます!! 落ち着いて!!」
「ふごー!!」
いけません、私の言葉が全然聞こえてないです! このまま放置しておけばこの部屋だけでなく宿ごと崩壊してしまっても不思議ではありません!
「さっきのことなら謝ります! もう二度としませんから!」
「ふぎゃー!」
明らかに様子がおかしいです! ひょっとして何か悪いものでも食べたのでは⁉
「こうなれば実力行使です! ……えーと……」
何ページでしたかな? ……ありました!
「痛みは一瞬です! 【穿孔閃光】!」
「ぶーん!」
強力な電撃で気絶させられたウリたんは白目をむいて落ちてきました。これでひとまず安心ですね……それにしてもウリたん、どうしてしまったというのでしょう……こんなに暴れたりする子じゃないのに……
「ぷぎゅる……」
「やりすぎました! 病院に運ばないと!」
────────────
「さてはて……獣医さんはどこでしょうね?」
世間の風は冷たいものです。こんな可愛い女の子が可愛いイノシシを背負って歩いているというのに誰一人声を掛けてはくれません。というかこの世界に動物病院なんて気の利いたものがあるんでしょうか。もしかしたら「人を襲う悪いイノシシだ!殺せ!」なんてことに……
「あのぉ、お嬢さん……」
「ウリたんは悪い子じゃありません!」
「え?」
私に声を掛けて下さったこのジェントルメェン、聞くところによると獣医さんをやっているそうです! タイミングがいいですよ! さっそくこの人の病院にウリたんを運びましょう!
「……重くないの?」
「魔法使ってるので!」
────────────
「うーん、瘴気にやられてますねぇ。変なもの食べさせてませんか?」
変なものなんて食べさせてないですよ! ウリたんのご飯は毎食しっかりボマードさんに浄めてもらってから……
あれ、そういえば師匠があげてたご飯って……
「……ちょっと確認します」
さっき貰ったアイテムがさっそく役に立つ時が来ました。こんな形で役に立つとは……
「早速か。どうした?」
「師匠、ウリたんにあげてた野菜ってちゃんとお浄めしてますか?」
水晶玉からは無言が跳ね返ってきました。
「……いやぁ、知らなかったなぁ」
「知らなかったじゃないですよ!」
師匠のせいで大変なことになっちゃいました! ボマードさんは頼りにならないし、ウリたんは元に戻るのでしょうか?
「およ? 先生、何してるんですか?」
「この子には聖水を飲ませておきましたから。もう安心ですよ」
なんか大丈夫だそうです! 目が覚めたらいつものウリたんに戻っているはず、とのことです。名医ですね!
しかし先生はまだ何か気になることがあるようです。難しい顔で考え込んでいます。
「しかし変ですねぇ……これほど高濃度で瘴気が蓄積されることは、通常ならありえないんですがね。この子が食べた野菜の産地、確認できますか?」
「あっ、師匠に聞いてみます!」
そういうことらしいです。再び師匠に電話します。
「ヴェジーっていう農村だよ。王都からだと……ドラゴンで1時間ぐらいじゃないか?」
ごんちゃんで1時間ですか……てことは師匠の孤児院から結構近いんですかね。
「あれっ、方角逆じゃないですか! めっちゃ遠いですよ」
「みたいだねー」
……師匠は空間魔法が使えるから距離とか関係ないんでした。やはり便利です!
「なるほど、ヴェジーか。お嬢さん、ラスターくんと一緒に調査に行ってくれるかな?」
「私も気になりますけど、私の一存では……」
決められませんねぇ……ラスターさんをそこに引っ張り出してる間に何か起こっても責任持てないですしね……ウリたんをこんなにした原因を知りたくはあるんですが……
「問題ありません。私が許可しましょう」
先生は微笑みながらそう言いました。いやいや、先生に一体何の権限があるんですか……あなたはただの名医じゃないですか。
「そういうわけにはいかないですよ……」
「え? ああ……自己紹介がまだだったね。私の名はキャンサー=シザークラフト。黄道十二神官の一人です」
「えーっ!!」
二人目の十二神官・シザークラフト登場! 続く!
没になった会話
「お医者さんなのにキャンサー(癌)って名前なんですな」
「……シザークラフトって呼んでね。シザーでもいいよ」
没理由
チギリちゃんにそんな知識あるわけないだろ!




