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137. 愛する君のためだけに

前回のあらすじ!

エルフの村に現れた謎の男性はなんと、960年前に死んだはずのディヒター=ラブファントムさん!!

悪霊と化した彼は、エルフさん達を暴走させてしまうのです……!

 「あはは! とんだトバッチリだったね!」


ディヒターさんは、逃げ惑う私達を見ながらゲラゲラ笑っています。この人、悪い人ですね! いや、自分で悪霊って言ってましたけども!


 「二人とも頑張って! このままワープゲートまで!」

 「ひゃい!」


迫りくるツタから逃げながら分かったことがあります! 長老さんはそんなに強くないです! 幼女の脚力でも余裕で逃げ切れるレベルです!


 「村が見えてきました、もうすぐです!」


このまま逃げ切れたはずでした。しかし、村は地獄に変わっておりました。


 「ひっ……何ですの、これ……」

 「……争い合っています!」


エルフさん達が、殴り合いつかみ合い魔法攻撃を打ち合い、していました! どうしてこんな惨状に!


 「結界で瘴気は入ってこないんじゃありませんの!?」


 「おっとりぶっててもさ、魔物なんて一皮むけば瘴気の塊でしかないんだよ」


出ましたね、ディヒターさん! 空から余裕の表情で見降ろしています。


 「外からの侵入防いだって無意味だよ。ちょっと体内の瘴気のバランス崩してあげたら……ま、この有様ってわけ」


恨みがあるからって、よくもそんな酷いことできますよね! それにこの人達は種族が同じってだけじゃないですか!


 「で? どうすんの? このまま逃げるかい? この村は滅ぶだろうけどね」

 「……外道め」


アークさんは吐き捨てて、長老さんの方に向かって行きます。危ないですよ!?


 「なぁに? 血迷ったかな?」

 「チギリちゃん、サポートお願いします!」

 「うぇ? はい!」


ツタをどうにかしろって意味でいいんですよね? それなら、音の衝撃波でツタを吹き飛ばします!


 「一か八か……お願い、目を覚まして……」


アークさんは自分の髪を一本ちぎって長老の口にねじ込みました。


 「あれは……?」

 「召喚魔法の契約ですわ!」


すると長老が操っていたツタは動きを止め、体を覆っていた黒いカビはさーっと引いていきました。


 「わ、儂は何を……」

 「良かった……」


アークさんはよろめいて倒れそうになりましたが、すぐに立って走り出しました。


 「このまま全員……」

 「待って、アークさん!」


フラフラじゃないですか……ジェイミーさんは「契約」と言っていましたが、長老さんに何をしたんでしょう?


 「いけませんわ……召喚魔法の契約には多大な魔力が必要なんですのよ!」

 「えっ、そんな無茶したら……」

 「何を言うの? 放っておけとでも……?」


アークさん、すごい気迫です。あの優しい顔の裏にこんな表情も隠し持っていたなんて……


 「アークさん、私の魔力使ってください!!」

 「チギリちゃん……? しかし……」

 「心配いりません! 私の魔力は無限大です!」


エルフさん達を放っておけないのは私だって同じです。だったら、アークさん一人に背負わせるわけにはいきません!


 「キャッ、キャー!」

 「はっ、ジェイミーさん!」


ジェイミーさんが腕を掴まれています! 急がないと……


 「えっ、あっ、あら?」


と、思いましたが、ジェイミーさんが軽く腕を振ったら吹っ飛んでいってしまいました。ええ、もちろんジェイミーさんが華奢な腕に似合わぬ超絶怪力の持ち主ということでは有りません。


 「……ビックリするほど弱いですわ! 弱いです……」


ジェイミーさんは安心した後、悲しそうにしました。


 「こんな弱い方たちを無理矢理操って争わせるなんて……アークさん、迷ってる暇ないです!」

 「……分かりました。チギリちゃん、お借りします!」


小指と小指を魔力の糸をつないで、そこから私の魔力を注ぎ込みます。アークさん、頑張って!


 「ああ、またしても儂らのために……面目ない……!」

 「長老さん、チギリさんもアークさんもご自分で望まれたことです」


アークさんはものすごい手際の良さで次々に契約を済ませていきます。カリスマ営業マンも真っ青です!


 「ふぅん、へぇ? 都合のいいヒーローもいたもんだ」


ディヒターさんはつまらなそうにつぶやきました。今は構っている暇はありません!


 「長老! 村の人はこれで全員ですか!?」

 「え、ああ、はい!」


エルフさん全員との契約完了です! アークさん頑張りました、私も頑張りました!


 「なぁんだ、ホントに助けちゃったの? 逞しい女の子だなぁ」

 「へっへーんだ! あなたの企みは阻止してやりましたよ!」

 「別にいいよ。彼らのこともそんなに恨んでないし」


チギリちゃんは得意げでしたが、ディヒターさんの穏やかな表情に揺らぎはありませんでした。


 「な、なんですか、負け惜しみはカッコ悪いですよ!」

 「いや、ホントに何ともないんだ。娘を殺してくれたこともちょうどいい口実になったし」


雲行きが怪しくなってきました。ディヒターさんは張り付いたような笑みを見せてきます。


 「好きな女の子にさ、国をプレゼントするって約束したから、だから一番弱い(奪いやすい)エルフの国に攻め込む口実ずっと探してたんだよ」

 「はい? 何言ってんですか?」

 「そこで都合よく向こうのお姫様が僕に惚れてくれたもんだからさ、上手に良い夫を演じて子供まで作って、それであの新月の夜に……ね?」


あまりに楽しそうに笑うもんですから、こっちは不気味で仕方ありませんでした。それじゃああの悲劇は全部こいつの自作自演……


 「首尾よく国盗りできたまではいいけど姫にすごい剣幕で叱られちゃってさぁ、それがずっと未練なんだよねぇ。ね、何でだと思う? 女心って難しくってさぁ」


女心うんぬんの問題ではないでしょう! 彼本当に元人間でしょうか? 彼からは魔王と同じような邪悪さしか感じ取れません。


 「あなたねぇ……」

 「ふざけるな貴様! 姫は本気であなたのことを……!」


チギリちゃんが言うより先に、長老が怒りの叫びをあげました。しかしこいつは、それを見てまたクツクツと笑うのです。


 「ああ、そういや、君の初恋はこっちの姫様だっけ? でも仕方ないよね、僕に言い寄ってきたのは向こうだったんだから」


長老は目をかっぴらいたまま押し黙ってしまいました。どうしてそんなに平気で人の心を傷つけること言えるんでしょう? サラッと長老の過去まで暴露して。


 「じゃ、面白いもん見れたし今日は帰るね! “日月薄蝕”」

 「……!? 急に夜に……」


突然辺りが暗くなったかと思えば、ディヒターは空の黒色の中に消えていきました。目的は阻止したはずなのに、満足気でムカつきます!


 「むー! 覚えてろよ、です! ぷんすこ!」

 「チギリさん、その捨て台詞は三下みたいですわ」

 「えっ? 勝ったのはこっちですよ!」



続く!


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