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136. ラブファントムはまだ眠らない

前回のあらすじ!

アークさんの引率のもと、エルフの村にやってきた私とジェイミーさん。エルフさん達がこの森を閉ざしたきっかけは、一人の人間の男性だったそうです……

 「……で、そのディヒターさんが何を?」


尋ねると、長老は伏し目がちにしながら答えてくれました。


 「私どもの姫と、結婚したのです。両国の友好の証に」

 「まあ!」


種族の垣根を超えた愛情ですか……チギリちゃんは感心していましたが、多分この後の展開はあまりハッピーではなさそうです。


 「お二人の子どもが生まれてすぐのことでした……その日は新月の夜でした」

 「ぞわぁああっ!」


何ですか!? 新月って聞いたとたん鳥肌が……すみません、私です。クレアさんでした!


 「姫は突如として正気を失い、娘を襲いました。その次は夫を。夫の方は逃げおおせましたが……」

 「え、ちょっと待ってください、娘さんは……」

 「……まだ赤子でしたから。声を上げる暇もなく」


そんなことが……どうしてお姫様はそのようなことを……


 「その後、夫は祖国に帰り、私達に対して報復をしかけました」

 「それって戦争、ってことですか?」


長老は無言で頷きます。何ということでしょう……せっかく幸せになれるはずだったのに。


 「姫様はどうして……」

 「……瘴気の影響ですね」


アークさんが重々しくつぶやきました。瘴気って魔物とか動物に効くやつだったのでは?


 「そうです。我々エルフは、魔王によって作られた魔物ですから」

 「えーっ!?」


ジェイミーさんと二人で声を合わせて驚きます。エルフって魔物だったんですか! ていうか魔物って魔王が作ったんですか!


 「どうりでクレアさんが知らないはずです!」

 「ですわ! クレアさんが誰か知りませんけど!」


てことは、瘴気の影響で暴走して、それで子どもや旦那さんを……そんな酷いことってあります!?


 「我々は二度と同じ過ちを起こさないよう、森の中に身を潜め、森に結界を張り、自らを人間たちから隔離しました」


なんて優しい……人間を傷つけないためにわざわざ自由に出入りできない場所に暮らすことを選択するなんて。気付けばチギリちゃんは泣いておりました。


 「うぅ……辛い……そんな話……」

 「泣いて下さるのですか? お優しい子だ」


しかし私達、ここに来てしまってよかったんでしょうか? エルフさん達の決意を無駄にする行為なのでは?


 「いえ、ご心配なく。この森の結界は瘴気を寄せ付けません。私達が外に出ない限り、暴走の心配はありません」


はえー、すっごいですねぇ。ただ、結界の範囲には限界があるのでこの森の周辺しか守れないそうです。


 「話のついでに一つお見せしたいものが。ついて来てください」


長老に言われて守りの奥まったところまで行くと、「ディヒター=ラブファントム」と刻まれた石碑がありました。これはお墓でしょうか?


 「我々の過ちを忘れぬよう、その象徴として、彼の鎮魂碑を立てました。つまらぬ自己満足かもしれませんが……」

 「そんなことありませんよ」


アークさんは長老に微笑みかけた後、石碑の前にひざまずきます。


 「私達も祈りましょう、彼の魂の安穏を……」

 「ですわね」

 「私も!」


私達もアークさんに続きます。ディヒターさんが安らかに眠れますよーに、と……


 「なになに? こんな石っころで許してもらおうっての? 君たちは虫がいい種族だなぁ」


何ですか!? お墓の上に男の人が座り込んでいました。なんと罰当たりな! ていうかこの男性、見たことありますよ!


 「確か、ディッ……ディヒ太……」

 「ディヒター様!? なぜあなたが!?」


私が思い出しかけるよりも先に長老が声を上げました。いやいや、ディヒターさんって960年前の人間でしょう? いるわけないじゃないですか……


 「ふーん、僕のこと覚えてんだ? フローラ姫の甥っ子のブローウィくん。パセリは食べられるようになった?」


猫なで声で長老に話しかけます。えっ、マジでディヒターさんですか!?


 「そんなことまで……本当にディヒター様……」

 「ねぇ、ねぇ、僕さぁ、君らのせいで悪霊になっちゃったよ。責任とってくれない?」


悪霊! ゴードンさんの奥さんが言ってました、死んでから4日以内に成仏しないとなっちゃうって! 1000年物の悪霊なんて……一体どうなっちゃうんですか!?


 「ねぇ、長老さぁん、君らの創造主がさ、もう要らないってさ」


ディヒターさんはふわふわ浮かびながら長老さんに近づきます。


 「長老、逃げて!」


アークさんの叫びが森に響きました。しかし、ディヒターさんの指先は、長老さんの額に届いています。


 「お優しいねぇ、麗しきご令嬢。だが、もう、遅い」


長老さんの体を黒いカビのようなものが浸食していきます。あれは一体?


 「七つの呪い(セヴンスカース)・自界叛逆……魔物らしく、きっちり暴れてちょーだい」


ディヒターさんはそう言うとスイーッと木のうえに上って高みの見物を決め込んでいます。長老は何をされたのでしょうか……


 「チギリちゃん、ジェイミーちゃん、走れる?」

 「えっ?」


アークさんは冷や汗をかきながら尋ねてきました。それってまさか……


 「うおおおおおおおっ!!」


あの優しかった長老さんが、突然奇声を上げ、植物魔法で地面から巨大なツタを生やして襲い掛かってきました!


 「逃げますよッ!」

 「はいー!」


長老さん……どうして……!


続く!


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