135. エルフの森の訪問者
前回のあらすじ!
私とジェイミーさんは、アーク先生の引率のもと、遠足に行くことになりました! さてはて、その行き先とは?
「ジェイミーさん、これから行く場所は遠いですか?」
「う~ん……」
ジェイミーさんは首をかしげます。
「それじゃあ近いんですか?」
「う~ん……」
ジェイミーさんは首をかしげます。
「……じゃあ中くらい?」
「う~ん……」
ジェイミーさんは首をかしげます。どこへ行くかは分かっているんですよね? 少し不安になってきました。
「あの、アークさん……」
「詳しい位置は私も知らないんです。郊外の森からワープゲートが繋がっていますから、そこから出入りします」
それ以外の行き方は明かされていないらしく、世界の誰も“そこ”がどこにあるか知らないそうなのです。
「じゃあそのワープゲートは誰が? 繋げたんですか?」
「現地の方々が、人間たちとの唯一の窓口として」
人間たち? 住所不明といい、男子禁制といい、さっきから引っ掛かることが多いですね。
「あっ、それから鼻の利く動物も連れ込み禁止です。ニオイで場所を覚えてしまうので……」
「ぶひ!?」
あちゃー、それじゃあウリたんはお留守番ですね。大慌てで鼻に土を詰めていますが無駄な抵抗です。
「いろいろと面倒なんですねぇ」
「異種族との関係は難しいですから、仕方ありませんわ」
ジェイミーさんがため息交じりにつぶやきました。えっ、今「異種族」って言いました?
「ジェイミーちゃん、チギリさんに話してなかったの?」
「そういえば行き先は伝えていませんでしたわね」
うっかりしてましたわ、とおどけてみせました。行き先も聞かずにホイホイついて行ったチギリちゃんもどうかと思いますが。
「あのですね、チギリさん、これから行くところは……」
「チギリちゃん……」
「えっ?」
アークさんが説明しかけるとチギリちゃんは切なそうにつぶやきました。
「私もチギリちゃんって呼んでほしいです」
「……そ、そうですか? ではチギリちゃん」
ジェイミーさんが親しげに呼ばれているのを見て羨ましくなったんですね。私の宿主可愛くないですか?
「これから向かうのはね──」
そしてワープゲートの先にあったのは、周囲を密林に囲まれた小さな村でした。そしてそこに住んでいるのは……
「耳が尖ってるイメージでしたけど、言われないと分かんないレベルですね」
「ですわ。私も初めて見たとき意外でしたわ」
エルフと呼ばれる種族が住んでいました。私も実物を見るのは初めてです。前世でのゲームやアニメでのイメージはありますが。
「クレアさんもそうなんですか?」
「チギリちゃん? あの、何を言って……」
「近頃ひとりごとが多いんですの」
私が創った覚えのない生物です。今まで見てきた中にも知らない種族はいましたけど、エルフには特に異質感を覚えます。こんなに人間そっくりなのに。
「そうですか? ファンタジー世界にエルフ! ど定番ですよ」
チギリちゃんは「らしくなってきた」と浮ついていましたが、今までの経験からして彼女がファンタジー世界に寄せる期待は裏切られる傾向があります。
「チギリちゃん、今から長老さんのお話を聞くんだけどいいかな?」
「へ? ああ、はい! 楽しみです!」
まあ、裏切られるにしても、なるべく軽い感じで済むことを祈りますが……
「よく来ましたね、人の子たち」
長老さんと言うからにはもっと老人然とした見た目かと思いましたが、意外にお若いというか、普通に青年のようにしか見えません。
「儂の知っていることなら何でも答えましょうぞ。遠慮なく」
「いたみいりますわ。それでは……」
ジェイミーさんはお兄さんから託されたメモを参考にしながら長老さんに次々と質問をしていきます。生態系がどうとか、地質がどうとか、なんか難しい話をしています。
「アークさん、何言っているか分かります?」
「いやぁ、半分ぐらいしか……」
やっぱりジェイミーさんは凄いです。こういう部分で努力をかかさないからこそいろんな大人から信頼を置かれるんでしょうね。
「地質的にも植生的にもまるっきり繋がりが切れていますわね……本当に不思議な土地ですわ……」
おや、いつの間にかお話が終わったみたいです。ジェイミーさんはとても不思議がっていました。
「ひょっとして異世界だったりして?」
「いせっ……!」
異世界の異世界ってことは超異世界? いやいや、そんなバカな。
「はっはっは! そんなことはありませんよ。千年近く……960年も外界から閉ざされていては繋がりも途切れましょう」
私にはよく分かりませんがそういうものなんでしょうか? とりあえずここは別世界ってわけではないようです。
「しかし960年前に何が?」
長老に尋ねると、アークさんがビックリした顔で私を振り返りました。あっ、聞いたらマズかったでしょうか……
「チギリちゃん、そこはデリケートな問題だから……」
「いえいえ、構いませんよ」
やっぱりマズかったみたいです! しかし長老は笑みを絶やさずに答えてくれました。ええ人ですぜ……
「……昔々、我々はもっと広い土地に住み、仲間ももっと沢山いたのです。それこそ一つの国として認められるほどに」
今のこじんまりとした様子からは想像もつきませんね。長老もまだ子どもの頃のお話しだそうです。
「そこに隣国の王族の男がやって来ました。名を“ディヒター=ラブファントム”」
ディヒター? 何かどこかで聞いたことがあるような……思案するチギリちゃんでした。
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魔王城
「ディヒター、お前に命令だ、ありがたく受け取れ」
「うわぁ! 身に余る光栄です、何なりとお申し付けください」
魔王に呼び出されたディヒターは歓喜で身震いしていた。魔王はそんな彼の態度を鬱陶しく思いながら命令を言い渡す。
「ちょっとしたゴミ掃除だ。アレは失敗作だった」
「……ああ、僕も嫌いですよ」
ディヒターは冷たい瞳のままで微笑んで見せた。
続く!




