131. 心の天秤
前回のあらすじ!
なんと世界中でゴーレムが大量発生! 元凶がギガさんであるという電波を受信したクレアさんの情報をもとに、私達はシングラ市・ギガリスラボ跡地へと向かうのでした!
シングラ市のギガリスさんラボの跡地……ここにギガさんがいるとクレアさんは言っていました。確かに、邪悪な気配、感じます!
「リーバーさん、中は危険だ。待ってた方が」
「いやぁ? 君にくっついていた方が幾分か安全であろう」
「……それもそうだな」
そして焼け焦げた建物の中に立ち入っていきます。前に来たときよりもさらに汚れていますね。放置物件だからいたしかたありませんか。
「あそこの大きな穴が特に邪悪です! もうジャクジャクに!」
擬音の意味はよく分かりませんが、クレアさんの指さす先には前に来たとき日記が埋まっていた穴がありました。ウリたんが一生懸命掘ってくれた穴です。
「そうか。二人とも、俺の肩に」
私とリーバーさんはラッさんの肩に飛び乗ります。ラッさんは地面に剣を突き立てました。おっ、あれをやる気ですね!
「奥義……天地返し!」
出ました、ラッさんの奥義! 周囲の地面は丸ごとひっくり返ります。ギガリスラボはもうボロボロですよ。
「誰? ここ私の家だよ?」
空洞に早変わりした室内に冷たい声が響きます。2m級の女性型土人形、ギガ江さんです。
「お前だな、ゴーレム共を操ってるのは。今すぐ止めやがれ」
「イヤ。……って言ったら?」
ラッさんは私達を肩から降ろしてギガ江さんに近づいていきます。それにしても以前に会った時と随分雰囲気が違います。ネコ被ってたのかもしれませんが、それだけじゃないような気がします。
「お前をここで斬る」
「やっぱり人間は自分勝手だね」
ラッさんが斬りかかります。ギガさんはその剣の側面に拳を這わせます。
並の剣士ならそのまま一発貰っていたでしょうが、ラッさんはラッさんなので、剣の向きをそのまま半回転させてギガさんの右手を切りました。
「ラスターさん、やるぅ!」
「まだである!」
本当にね! 右手は確かに切られたはずなのに、勢いを落とすことなくそのままラッさんの顔面に直撃しました!
「ぶごっ……何故だ……!?」
「人間の知恵もそんなものか」
失礼ですね、ラッさんの知恵を人間代表として扱わないでほしいです! でも今のは一体……?
「ゴーレムは魔力で動いている土である。統率者のあやつとて例外ではないはずである」
「というと?」
「魔力の通った土ならば自在に操作できるのである。切り落とされようが、依然としてあやつの手足なのである」
こんなのばっかりですね、もっと手足は大事にしましょうよ。そして、リーバーさんの考察を聞いたギガさんは彼を指さします。
「あなたはちょっと賢いみたい。でも賢い人間は何してくるか分からないから嫌い」
「それは少し浅はかではないかネ?」
そういえばラッさんの姿が見えません? いや、いつの間にかギガさんの背後をとっていました! すうっげぇです!
「単純ね、人間のアルゴリズム……」
しかしギガさんは振り向くことなく、左腕を有りえない方向に回転させて刃を掴んで受け止めました。手に食い込んでますが痛くないんでしょうね!
「奇襲で動揺させられたからって同じことやり返そうなんて」
「ぐっ……そんなことねぇやい!」
そして固定されたラッさん目がけて、再び右手のロケットパンチが飛んできました! あれズルいです!
「ラスターさんが!」
「大丈夫である」
剣が抜けないので、ラスターさんは剣を手放して回避しました! 間一髪です!
「でもそれからどうする? 素手で私に勝つつもり?」
「関係ねぇよ……!」
ギガさんは奪った剣を構えてラッさんににじり寄ります。
「ラスターさんがやられちゃいます!」
「心配いらん。ラスターはリオと素手で渡り合える程度には武術も心得ているのである」
「プニさんの子孫と……!?」
それなら大丈夫でしょうか。ラッさんは相手の剣をかわしながら少しずつ距離を詰め、一撃を叩き込む機会を窺います。
「でも私たちも何か助けを……」
「手出しは無用である。それより今は、あの無邪気な土人形に人間の高潔な生き様を見せねばならない」
「だから1対1で? ……ランスランスさんがそう言うなら信じましょう」
クレアさんとリーバーさんは初対面だったと思いますが随分信用しているみたいですねぇ。まあ、実際ラッさんも互角に渡り合っていますし。
「しかしゴーレムというのは難儀な存在であるネ」
二人が戦っている様子を見ながらリーバーさんが口を開きます。
「ふつう行動には意思が伴う。意思によって行動が起こると言ってもいい。……であるが、あのゴーレムからはそれを一切感じない」
何となくわかる気がします。やりたいこと、やらなきゃいけないことしかしないですものね。
「正しき知識から正しき意思が育つ。正しき意思は正しき行動を呼ぶ。正しき行動から得た経験が、また正しき知識となる……だがその均衡が少しでも狂えばたちまちに暴走してしまうのである。ワタシには理性の天秤が狂ってしまっているとしか思えないのである」
リーバーさんの言う通り“狂って”しまったのだとしたら、その原因はやはり……
「『父親』に、裏切られたことですか?」
「強烈な体験によって、培ってきた知見が捻じ曲げられたと考えればである。感情のすべてが反転してしまうようなネ」
「親子なのに……そんな……」
クレアさんの感情が激しく揺り動いているのを感じます。私はたまらずギガさんに声を掛けました。
「ギガさん! 聞きたいことがあります!」
しかしギガさんはラッさんとの戦いに夢中でまったく反応してくれません。それも構わず続けます。
「人間と、ギガリスさんと暮らしてて楽しいことや、心躍ることは一度もありませんでしたか?」
ギガさんの手が止まりました。私から見ても明らかな隙でしたが、ラッさんは反撃しませんでした。
「……あった。でも全部ウソだった」
「そんなの分からないです!」
「黙れ、私は裏切られたんだ!」
「一人の人間しか知らないくせに! 悲劇のヒロインぶるな!」
ギガさんが体をこっちに向けました。クレアさんの口調がこんなに荒れるなんて……何か思うところがあるんでしょうね。
「あなたは人間の悪いところを知らないんだ! だからそんなことが言える!」
「知ってますよ! 傲慢で偏狭で狡猾で我儘で血の気が多くて……思い出すだけで嫌になるぐらい知ってます!」
「それじゃあどうして?」
「そうじゃない人間にもたくさん会ったから、人間が成長するさまをたくさん見てきたから、だから人間のこと……なんか、こう、憎めないな、って! そう思えたんです!」
クレアさんは張り裂けそうな声で叫びました。クレアさんはきっと色々なものを見てきたのです。
「ギガさん、あなたには一度もありませんでしたか? 人間を好きになったこと」
包み込むような優しい声で問いかけました。ギガさんは振り絞るようにしながら答えます。
「……ある。名前を付けてもらった時、初めてご飯を食べた時、私を娘と言ってくれた時……!」
「ギガさん……だったらその気持ちを信じましょう。きっとまた笑顔で暮らせる日が来ま……」
私が微笑みかけると、顔の横を右手のロケットパンチがかすめていきました。結んだ髪が焦げる匂いがします。
「でも今の私には怒りしかない……私がまた笑えるのは、人間が滅んだ時だけだ!」
ギガさんは向き直ってラッさんに切りかかります。ラッさんは悲しそうにしながら迎え撃ちました。
「……そうか。だが俺も人間を守らなきゃならねぇ」
ラッさんが軽く拳を当てると、ギガさんの体は土の塊となって崩れ落ちていきました。
「……お前にもいい父ちゃんがいたらな」
ラッさんは剣を拾い上げ、土の中に残った核を切先で砕きました。
それから少しして、世界中のゴーレムが行動停止して土に帰ったという報告が上がってきました。
続く




