130. ギガのスピードラーニング
前回のあらすじ!
ロボットのいるパン屋さん「ガレオン堂」はクレアさんの思い出の地だったのです! 思い出の味を堪能したクレアさん、良かったですね。
そしてそんな中、メシアガレオンさんに異変が……! って、街にも異変が!?
初めて人間の食事を口にしたとき、胸の奥に生温い古ぼけた明かりがともるのを感じた。確かにそこには愛があった。
しかし──人間は彼女を裏切った。
醜悪に、執拗に、これでもかというほど彼女に対して悪意を打ち込んだ。
胸にともった小さな明かりは、やがて憎悪の炎となって彼女の身を焼き焦がした。
ギガは人間にはなれなかった。土人形として生き、土人形の友だけに囲まれて永遠を過ごすつもりだった。
『醜い人間に代わって、君たちゴーレムが地上の支配者となるのだ。それこそ、君の父の望みではないのかね?』
邪悪な存在がささやいた。主を失って空っぽになった土人形の心が、深い暗い闇の色で塗り潰されていく。
『……すべて魔王様、のため』
それからギガは、世界中に種を撒いて“友達”を作った。弱く脆い土の塊だったが種さえ無事ならば彼らは何度でも蘇る。
それに彼らの見た物聞いた物体験した物は、大地を通じて全てギガの知能に集約される。
「人間の戦い方、全部分かった。全ての始まりのこの場所から、全て終わらせる」
随分と流暢に喋るようになったギガは、ギガリスラボの跡地から全世界の大地に向けて魔力を送る。
世界中の大地から、彼女の友達が沸き出でてきた。
「地上には私の友達さえいればいい……父さんなんか、人間なんかいらない」
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王都
この意味不明な状況は一体どうしたことでしょう! いきなりそこら中の地面から土人形が生えてきて破壊活動を始めました!
「何だよこれ、おい! 神様、これか? ギガの企みってのは!?」
「間違いないです、でもこれだけじゃ……」
ラッさんが喰いとめてくれていますが明らかに手が足りていません。ラッさんが沢山いたら……あっ、そうです。クレアさんは魔法を使えるでしょうか?
「チギリちゃんの魔力をお借りしていいなら!」
じゃあそれでいいです! 魔力でラッさんをかたどって、複製します!
「何匹いやがんだ……って俺!?」
「それはラスターさんのコピーです!」
「……なるほど。あと3体くらい作れるか?」
「ガッテン承知です!」
3人程度なら作っても私の魔力にはまだまだ余裕があります。クレアさんは手慣れた様子で魔力を練って三人のラッさんをあっという間に複製しました。
「よし、街ン中に均等に配置してくれ」
「リョーカイ」
コピーラッさんは命令されるまま、他の区画を守りに行きました。流石に性格まで完全再現とはいかなかったようですが、ややこしくなるのでこれでいいです。
「行くぜぇ! 覚悟しろよ土人形ども!」
ラッさんは狭い市街地の通路を勇ましく飛び回りながらヒット&アウェイ! いいですよ、今日も太刀筋キレキレです!
「やっちゃえです! ……それにしても皆さん避難が速やかですね……」
これほどの騒ぎにもかかわらず、街には野次馬の姿は全く見当たりません。ラスターさんを信頼しているんですね!
「……いっちょあがり! コピーの手伝いに行ってやるか!」
と、感心している内にラスターさんが土人形を倒していました!
いえいえ、これでは終わりません! 破壊されたはずのゴーレムさんが土の中から再生してきます。ラッさんは知らないんでした、クレアさんに伝えてもらいましょう!
「……それは大変です! ラスターさん、中の種を破壊しないとダメみたいです!」
「種? よく分からんが分かった!」
ラッさんが剣を構え直して振り上げようとした瞬間、その目の前に一人の男性が落ちてきました。
「ラスター、待つのである! 君が戦ってはいけない!」
「リーバーさん!? 何で上から……って、それより戦ってはいけないって?」
落ちてきたのはなんと十二神官リーバー=ランスランスさんでした! 感情のないゴーレムさんですが、突然落ちてきた人間に心なしか困惑しているように見えました。
「なんだ、こいつ?」
「ギガに、そうだん」
よく分かりませんが都合よくゴーレムさん達の動きが止まりましたよ! リーバーさんの言っていたことはどういう意味でしょうか?
「百聞は一見に如かずである! ゴーレム共の戦いぶりを見てみるといい」
「どういうこと……おい!?」
リーバーさんはラッさんの襟首を掴んで屋根伝いに飛んでいきます。私も追いかけないと!
「にげた?」
「ゆうしゃ?」
屋根から街の様子を見渡します。ラッさんのコピーが存分に戦っていますが……
「ゴーレム共の動き……あれは……」
「うむ、君とほぼ同じである!」
確かに、早さや滑らかさは劣りますが、ラッさんの動きとよく似ています。何故ゴーレムさん達があんな動きを……あ!
「ラスターさんの動きが学習されています!」
「何だと?」
お寺の時と同じです、あの時はリオさんの動きがコピーされてとても苦戦しました。今回はラッさんが、パクられました!
「その通りである。君が戦うほどに、あいつらの動きは洗練されていく」
「関係ない、学習する暇もなく全滅させればいいだろ?」
リーバーさんは無言で首を振って否定しました。やはり私の想像通りのことになっているようです!
「知恵の樹の上から見渡したのである。至る所で奴らが発生している」
「……マジかよ」
「ラスターさん、操っている本体を叩きましょう!」
流石クレアさん、ナイスアイデアです! しかし本体はどこにいるのでしょう?
「シングラ市です! そこからロボットさんに不正アクセスの形跡が!」
「よくやったのである! 急ぐぞラスター!」
しかしラッさんは後ろ髪を引かれる様な表情を見せます。頭では解かっていてもこの街を放っておくことは──
「案ずるな! ここは彼らが引き受けてくれるのである!」
リーバーさんの指さす先に、白銀の軍勢! あれは……!
「誰ですか?」
「王国騎士団だよ、バカ」
バカは言いすぎでしょうよ! ですが初めて見ました。噂には聞いていましたが実際に活躍するところは。
「ラスター、味方が多いのは向こうだけではないぞ!」
「……そうだったな。よし、それなら本丸潰しに行くぜ!」
なんという頼もしさ! いざシングラ市へ、ギガさんとの決着の時です!
続く!




