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13. 裏切り師匠は見届けたい

前回のあらすじ!

クロウリーさんが私の《同類》にして《先を往く者》であることが分かりました。これはもう弟子にしてもらうしかない! と、いうことで私、弟子になりました!

本人の了解? きっとクロウリーさんにもこのほとばしる情熱は通じているはずですよ!


────────────


 「師匠ねえ……気が進まねぇなぁ」

 「がーん!」


 《同類》なら私の気持ちも理解してくれているはずだと思ったのに! こんな裏切りってないですよ! うらぎり者! 私の熱意が伝わってこないんですか!?


 「お願いしますよ! クロウリーさんしかいないんですよ!」

 「いやいや……(魔法のことなら)俺より凄い人たくさんいるって……」

 「そうなんですか? すごい世界だ……」


とはいえ私はクロウリーさんの姿勢に感銘を受けました。やはり弟子にしてもらうならクロウリーさん以外にありません。


 「それでもお願いします、弟子にしてください!」

 「困ったな……あー、それじゃあ一つ手伝ってもらえないか?」

 「おっ、何ですか?」


────────────


 クロウリーはこう考えていた。


──魔法と一切関係のない手伝いをさせれば、勘の良いこの子は察して立ち去ってくれるだろう。ついでに自分の目的にも協力してもらえて一石二鳥だ。


と。しかし彼とチギリの間に生じたすれ違い、それにまだ彼は気づいていなかった。


────────────


 「俺はいい加減に兄貴とアルさんをくっつけたい。そのために知恵を貸してくれ」


 おお、いきなり実戦練習ですか! いや、これは私の実力を試している……? そういえば、魔法の練習の前にもどんな魔法が使えるのか聞かれましたね。先に生徒の実力を知るのがクロウリーさん流の教え方なのですね!


 「……なるほど。では、現在の二人の関係性は?」

 (あれ、なんか前のめりだな。思ったより勘がよくないのか?)


クロウリーさんはなぜか不可解そうにしながら、ヴァイスさんとアルさんの状況を語り始めました。まずは二人の関係性を確認すべきだと思ったんですが、違ったんですかね?


 「ふむふむ、好き合っているのは間違いないが交際には至っていない、と。一番キュンキュンの時期ですね! もどかしい!」

 「キュンキュンってのはよく分からないが、まあその通りだ。とにかくもどかしいんだよ。この段階まで来ると周りができることって少ないからな」


そうなったら交際までの間の精神的ハードルを取り除いてあげるのが一番だと思うのですが、そう簡単なお話でもないようです。


 「……俺が独り立ちするまでは安心できないそうだ」


それがヴァイスさんにとっての精神的ハードルだそうです。あれ?


 「テメェが頼りないから手伝ってやってんだろうが! くだらねぇ時だけ兄貴面すんじゃねぇよ! むしろお前がさっさと結婚して俺を安心させろや!」

 「クロウリーさん、抑えて!」


クロウリーさんは二人が一緒になるのを見届けないと安心して出ていけないが、そうしているとヴァイスさんはいつまでたっても踏み切れない……


 「だったらアルさんから告白してもらえば!」

 「できると思うか? ちょっとからかっただけで顔真っ赤にするような人だぞ?」

 「ですよねー……」


なるほど、難しいわけです……こうなったら無理矢理にでも告白せざるを得ない状況に持ち込むしかなさそうですね……


 「……思いつきました! ……でもこれは使えないです」

 「どっちだよ」

 「それなりの立場がある人の協力が必要なんです! そんな都合よく……」


いるわけないですよねぇ……イチから考え直しです。考え込んでいると建物のドアが開く音が聞こえてきました。


 「チギリ、そろそろ帰るぞ」

 「…………いました」

 「…………は?」


ラスターの背筋に悪寒が走った。


────────────


 「なあ……ホントにやるのかよ?」

 「二人の幸せのためですよ! 民衆の幸せのために尽くすのが勇者じゃないんですか!?」

 「……分かったよ」

 「わーい! それじゃあ二人を呼んできますね!」


 地下研究室ではヴァイスさんとアルさんが楽しそうにおしゃべりしていました。少し心苦しいですがこれも二人のため……


 「アルさん、アルさん!」

 「えっ、私? どうかした?」

 「勇者様がお呼びですよ!」


少しビックリしているようですが、すんなり連れ出せそうです! ヴァイスさんは……こっちをチラチラ見ていますね、気になってるみたいですよ!


 「よろしければヴァイスさんもご一緒に! 雇い主とあれば無関係でもありませんし……」

 「え、え? ああ、それじゃあ、聞かせてもらおうかな……」


チョロいもんですよ! 二人まとめて一本釣り完了です! あとはラスターさんとボマードさんが手筈通りにやってくれれば上手くいくはずです!


 「あの……私にお話、って……」

 「あ、ああ、来てくれましたか」


ラスターさん表情が硬いですよ! もっと自然体で爽やかにお願いします! まあここはいいです。次の台詞はバシッと決めて下さいよ!


 「アルさんに伝えたいことがあるんですよね?」

 「………………」


何黙ってるんですか! ここにきて怖気づいちゃいましたか? うわ、めっちゃ嫌そうな顔してるぅー!


 「ちょっとの辛抱ですから、ねっ?」


小声で伝えるとようやく固く閉ざした口を開いてくれました。世話が焼けます、まったく。


 「……えー、あなたを一目見たときから、心火を燃やしてフォーリンラブでした! 結婚して下さい!」

 「「えぇぇっ!?」」


深々と頭を下げて右手を差し出すラスターさん。アルさんとヴァイスさんは声を揃えて仰天しました。そしてここでボマードさんがすかさず追撃!


 「突然のことで申し訳ありません。しかし御覧の通りラスター殿は真剣です。それにあなたにとっても悪い話ではないと思いますが……」

 「いや、でも……急にそんなこと……」


うろたえてますね、いいですよ! ヴァイスさんはただ後ろでオロオロなさってますね……さあ、ラスターさん、ボマードさん、一気に畳みかけちゃってください!


 「戦う勇者の居場所、帰る場所となり安らぎを与える、素晴らしいことではありませんか! そういう方がいればこそラスター殿も安心して戦いに行けるというものです!」


いい感じですよ! さすがボマードさん、寺生まれは違いますね! ラスターさん、トドメの台詞言っちゃってください!


 「いかがですか? 断る理由はないと思いますが……他に好きな人とか恋人がいらっしゃるなら仕方ありませんけど。好きな人とか恋人が! いらっしゃるんですか!? 好きな人とか!!」


あちゃー、ちょっと芝居がかってますねー。結果を急ぎすぎですよ、後で反省会ですね。しかし幸いアルさんもヴァイスさんもまだ気づいていないようです。後はなるようになれですよ!


 「……えと、ごめんなさい……」

 「あぁっ! 断るならせめて理由をお聞かせください! 例えば他に好きな人がいるとか!」


もうラスターさんには期待しません。


 「他に好きな人が……いるから……」

 「本当ですか? 俺を傷つけまいと嘘をついているのでは……」

 「本当ですよ!」

 「それじゃあその好きな人とは誰ですか!?」


これだけ臭い芝居を見せられて気づかない方もどうかと思います。何はともあれクライマックスです。もう最後まで突っ走ればいいですよ。


 「い、言えません……」

 「ほらやっぱり嘘だ! ああ、俺の心は深く傷ついた……」

 「ラスター殿、お気を確かに! この状態ではとても魔物と戦うなど……」


アルさん大分困ってますね。気付かないんですかね、いや気付かれない方がいいんですけど。アドリブですが私がトドメを刺しましょう。


 「好きな人の名前言えばラッさんも安心するんです! このままでは勇者が失われてしまいます……せめて名前だけでも……」


アルさんはうぅ、と可愛らしいく唸り声をあげ、そして意を決したように大きく息を吸い込みました。


 「ラスター、よしてくれ。アルさんが困ってる」


おっとぉ? これは思わぬ展開です、後ろであたふたしていたヴァイスさんが乱入してきました。アルさんの前に立って彼女を守っています。


 (おい、チギリ、どうすんだよ?)

 (アドリブで何とかしてクダサイ!)


ラスターさんとボマードさんに小声で完璧な指示を伝え二人のほうに向き直ります。ボマードさんは完全に役に入り込んでますし、任せておけば大丈夫でしょう。


 「ヴァイス殿、ご自分が何をしているかお分かりですか? この方は神託を与えられし勇者なのですぞ?」


完璧に役割をこなしてくれているボマードさんの横で、ラスターさんは表情だけ作って立ち尽くしています。もうそれでいいですよ。


 「あなたと彼女は単なる雇い主と労働者の関係……二人を遮る理由はありませんな」

 「それはおかしい……いや、でも……嫌がってたし……」


おかしいのなんて百も承知ですよ! うちらはあなた達から”例の言葉”を引き出せればそれでいいんですよ! 何モニョモニョしてるんですか!


 「それとも、もっと深い理由があるのですか? ラスター殿の愛に勝る熱いものが!」

 「ぼ……僕は……僕が彼女のこと好きだからだよ!!」


 「言ったぁあああああああああ!!」

 「クロウリー⁉」


とうとう言いましたね! 物陰で見ていたクロウリーさんもたまらず飛び出してきましたよ! 作戦大成功です!


 「ちょっと……これもしかして……!!」

 「兄貴、やっと言えたな!」


クロウリーさんは嬉しそうにヴァイスさんの肩を組んでいます。良かったですねぇ、長年の努力が報われて……後は最後の仕上げですね! ここは女の子に任せて下さい!


 「アルさん、あんな大胆な告白されたからには答えないと!」

 「えぇっ!? ……わ、私も……同じ気持ち……キャー!」


アルさんは相変わらず顔を真っ赤にしながら、しながらですがはっきりと言いました!


 「あなた方の愛に負けました! ラスター殿、引き揚げましょう!」

 「いや、先にネタバラシ……おい、どこ連れてく! やめろ!」


あっ、ボマードさんがラスターさん引っ張っていっちゃいました! 私を置いていかないでくださいよ!


 「それじゃあ末永くお幸せにー!」


急いでごんちゃんに乗り込み飛び去っていきます。これにて一件落着ですね! 二人の姿は空から見ていても暑くなりそうでした!


 「今回は残念でしたな、ラスター殿。しかしまたきっと良い出会いが……」

 「いつまでやってんだよ」


ボマードさんまだ役が抜けてませんよ……まあ、ボマードさんのお蔭で上手くいったので良しとしましょう。


……あれ……そういえば何か忘れているような……




 「………………ブヒ」(嬢ちゃん、俺は乗せていってくれないのかい?)



続く!


ウリたんはそのうち拾いに行きます。

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