128. リターンオブTHEクリエイター
前回のあらすじ!
体が思うように動かなくなってしまった私! そして現れたクレアと名乗る謎の人格! 私の体は乗っ取られてしまうのでしょうか!?
私はチギリちゃんです、誰が何と言おうとチギリちゃんなのです。しかし私は、「クレア」と名乗っていました。何を言っているか分からないと思いますが、私にも分かりません。
「ここが魔法屋さんですかぁ。中で見てる時から来てみたいと思ってたんですよね。私が生きてた頃はまだ魔法は無かったので」
私はそう言いながらお店の中を歩き回り始めました。何回も来ています! 私は何を言ってるんですか!
「ラスターくん、どうしよう、チギリちゃん、ひょっとして悪霊に取り憑かれて……」
リリスさんはあたふたしながらラッさんの腕を掴みます。悪霊とは失礼ですね、こっちは創造神ですよ。また何か混ざってます!
「リリス、あれは悪霊じゃない……」
ラッさんは私を睨み付けます。心なしか怒っているように見えます。
「クレア……この世界の創造神の名前だ」
「創造……神? ラスターくんったら、珍しいね、冗談いうなんて……」
ええ、リリスさんは誰よりもよく知っているはずです。ラッさんはあんな険しい顔して冗談を言えるほど器用じゃありません。
私は嬉しそうにラッさんの方を振り返ります。
「デンクマールさんからきっちり伝わっているようですね。『継承の力』を彼に託して正解でした」
この人、嘘はついていませんね。本当に神様のようです。だとしても何で私の体に? 怖いです、とても。
「1万年前に死んでから、私は何度も転生を繰り返してきました」
神様も死ぬんですね……そして私は、涙ながらに1万年前の出会いと別れ、この世界に帰ってくるまでの道のりを語り出しました。
「……ようやく帰ってこられました。あれ、涙が……」
良い話じゃないですか! チギリちゃんは絶賛体乗っ取られ中ですが、思わず感動してしまいましたよ!
私は私の胸に手を当てます。
「この方は、神の魂の器として立派に役割を果たしてくれましたよ」
「器だと……?」
ラッさんの周りの空気が震えています。私のために怒ってくれるだけでも嬉しいですよ。でも私の人生は器だったんですね……
「いくら神様だからってふざけんじゃ……」
ラッさんが私に近寄ります。怒ってくれるのは嬉しいんですけど、一応私の体なので痛いのは嫌です。
「そんなの酷いよ……チギリちゃん……」
リリスさんは俯き、静かに涙を流します。母が悲しんでいます……しかし私はもう体の自由がききません。
ラッさんは妻の涙をチラリと見た後、私のほうに向き直ります。
「……あんたがこの世界に戻ってきたのは俺だって嬉しいよ。十二神だってずっと待ってたからな。だがな……!」
ラッさんは私の肩を掴みました。痛……くないです。力強くも、しかし優しく、掴んでいます。
「チギリは俺の大事な仲間だ。それを器だと? あいつはな、元々はどこか別の世界でのほほんと暮らしてる普通の子どもだったんだ。それが突然こんな危険な世界に放り込まれて、俺みたいなバカ勇者に付いて来てくれてる」
ラッさんは目を伏せながら言いました。そんな風に思ってたんですね……
「あいつはアホだけど、アホなぐらい一直線なあいつが一緒にいてくれたから、俺も前を向くことができた。……ちゃんと見ててやらねぇと何しでかすか分からんからな」
そう言ってもらえるのは嬉しいですが、アホアホ言いすぎじゃないですか? ラッさんの手に力がこもります。
「……いてくれて良かったと思ってんだよ、俺なりにさ。なあ、あいつの命は、あいつだけのモンだろ? 違うのかよ?」
私は黙ってラッさんを見つめています。ラッさんは悔しそうに唇を噛みしめました。
「こんなことになるなら、言ってやればよかったんだ。お前は俺の娘だ、って。こんなことであいつが喜んでくれるなら……」
本当ですよ、こんなに嬉しいことはありません。私の体は創造神様のものになってしまいましたが、これでもう思い残すことは……
「……チギリさんを、娘と言いましたね?」
「ん……?」
私はにやりと笑いました。念のために言っておきますけど、私の意思じゃないですよ?
「ですってよ、チギリちゃんさん」
その一言ともに、腕を強く引っ張られるような感覚が私の魂を襲います。引っ張り出されるぅ~!
「へっ……おぉっ!」
視界が……私のモノに戻ってきました! ラッさんの目にたまった涙も、辛そうに様子をうかがうリリスさんの顔も、はっきりと見えます。
「あの、ラッさん……」
「チギリか!?」
私は黙って頷きます。さっきラスターさんが言っていたこと、全部聞いていましたよね? チギリちゃんからも伝えることがあるはずです。
「お前、意識が戻ったんだな? ……ったく、心配かけやがって……」
「はい! さっき言ってくれたこと、嬉しかったです!」
「……あ? お前、聞こえてたのか……?」
そう言うと、ラスターさんは急転直下、青ざめた表情になりました。私は少し離れたところにいたリリスさんの腕を引っ張り、ラスターさんの隣に連れてきます。
そして私はその間に挟まるのです。
「これで私達3人、晴れて家族ですね!」
「待てチギリ、さっきのは違うんだ」
ラスターさんは必死に言い訳を試みます。ですがそんなのは無駄なこと、この創造神クレアの策略にはまってしまったのですから!
「え~? でも私はすっごく嬉しかったです!」
「ラスターくん、もういいんじゃない?」
「リリスまでっ……いや、待て、だから違くて」
ラスターさんは「とにかく違う」としか言うことができません。チギリちゃんのことはずっと見てきましたからね、これが最大の恩返しになるはずです。
「……! そうか! チギリ、お前やりやがったな!? 芝居だったんだろ!?」
「違いますよぉ。本当に乗っ取られてたんです!」
「嘘をつけ、そんな異常事態が起きてたまるか! なぁ、リリス?」
「でも最初に信じたのはラスターくんの方じゃ……」
「いや、違うんだ、あの時は俺も血迷ってた」
リリスさんとチギリちゃんは手を繋いで微笑みあっています。ラスターさんに最早逃げ場はなく、認める選択肢しか残っていませんでした。
「ラッさん、認めた方が楽ですよ」
「あのな、だから……あっと、いけねぇ! そろそろ鍛錬の時間だ! じゃあな!」
「あー、逃げましたー!」
本気ダッシュのラスターさんを、私も全力で追いかけます。あれ? ひょっとして上手くいきませんでした?
「わーい、待て待てー!」
「はしゃぐな! くっ……無駄に速いなこいつ!」
……まあ、楽しそうなのでとりあえずOKですかね。
続く!




