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120. 慈愛の心が世界をつなぐ

クレアのあらすじ!

ソフィアさんは女神と呼ばれるにふさわしい、ふさわしくないこともない、慈愛の心に満ちたお優しく美しい方でした。しかし、そんなソフィアさんに魔の手が……

クレアとプニュスタージは、近頃ソフィアの周りで変わったことがなかったか、街の人達に聞き込みを開始した。


 「ソフィアさん? そうねぇ……そういえば!」

 「何か知ってるんですか!?」


その中で、事情通の船乗り夫婦からある情報が手に入った。


 「だいぶ前なんだけどね、都の貴族のドラ息子が家来いっぱい引き連れてソフィアさんにプロポーズしてね」

 「けど初対面なもんだからソフィアさんも困惑しててよ。あっさり振っちまったんだ。あの時の引きつった顔ったら、もう爽快……」

 「あんた! ソフィアさん捕まってんだよ、不謹慎だろ!」


妻が旦那の背中を思いっきりはたく。何はともあれ有益な情報だ。二人は夫婦に頭を下げた。


 「うちの子もソフィアさんのお世話になってるからねぇ」

 「助けてやってくれよ!」


夫婦から頭を下げ返された。クレアは「任せておけ」と言わんばかりの表情だが、プニュスタージはまだ迷っていた。


 「クレア、やっぱり……」


 「せんせー、悪い人なの?」


夫婦の後ろから、小さい男の子がおずおずと出てきた。不安そうに今にも泣きそうに俯いている。


 「……そんなことないよ」

 「プニさん?」


プニュスタージは男の子の頭にそっと手を置く。自分らしくもない、目の前で罪のない子供が悲しんでいる。彼女が動く理由はそれで十分だった。


 「クレア、行こうか」

 「もっちろんです!」



ソフィアは地下の独房に投獄されていた。鉄格子の隙間から一人の老紳士が声を掛ける。


 「ソフィア様、牢屋の住み心地はいかがですか?」

 「……どういった御用件ですか? こんな所まで来て……」

 「我が主が、『妻となるならばここから出してやってもいい』と、そうおっしゃっていますが」


取引を持ち掛けてきた。ソフィアに振られた貴族の策謀だったようだ。


 「お断りします」


ソフィアは即答した。老紳士は残念そうにため息をつく。


 「左様ですか……国家転覆を企てたとなれば、死罪は免れないでしょうな」

 「国家転覆? 何を……」

 「少年少女を革命の蛮族に染め上げていたのでしょう?」


ソフィアは背筋が凍る思いがした。ここではもはや事実は関係ないのだ。人の形をした欲と権力の獣が、ソフィアを食い殺そうとしていた。


 「なんて可哀想……」


ソフィアは決して裕福な生まれではなかったが、裏表のない快活な両親の背中を見て育ってきた。


両親はその性格ゆえか、狡猾な者に騙されることが少なくなかった。ハッキリ言って愚かであった。


しかしソフィアは両親を蔑んだことは一度もない。何度騙されても、困っていると言われれば慈しみの心で手を差し伸べ続けた両親を、どうして責められよう。


ソフィアの両親は純朴でかつ愚鈍であったからこそ、悪辣な詐欺師共の格好の的にされた。


純朴さは恥ずべきことではない。ならば知恵を磨けばよい。ソフィアは勉学に励んだ。


自分だけではない、他の者にも同じ思いはさせたくない、その一心から町の子ども達にも勉強を教えるようになった。


 「どうすれば──」


この獣たちを救うことができるだろうか。慈悲を知らず、ただ奪うことしかできない彼らに、ソフィアは同情を禁じえなかった。


 「何ですか、その目は? まあ、もうあなたに用はありませんので」


老紳士は立ち去っていった。そしてその去り際、見張りの兵士に


 「あの女、好きにしていいぞ」


と告げていった。兵士2人が下卑た笑みを浮かべながら鉄柵ににじり寄る。ソフィアは観念してまぶたを下ろした。



長いまばたきの後、再び目を開けると、牢の前で兵士が泡を吹いて倒れていた。見上げるとそこには──


 「ソフィアさん、迎えに来た」


赤子連れの女2人とイノシシがいた。ウリオールの鼻でここまで臭いを辿ってきたのだ。プニュスタージは鉄柵に手を掛ける。


 「えっ、プニさん、まさかそれは流石に……」

 「そぉー……れっ!」


プニュスタージは素手で柵を捻じ曲げてこじ開けた。


 「さっ、出るよ!」

 「プニさん、ソフィアさん固まってます」

 「…………あっ、ああ、はい!」


ソフィアは戸惑いながらも、プニュスタージとクレアに手を引かれて出口を目指す。


 「し、しかし、脱獄の手引きをすればあなた達も罪に……」

 「兵隊さん何人も吹っ飛ばして来てんだから、今更関係ないって」

 「そうです、そうです!」


途中で何人もソフィアを捕まえに来たが、プニュスタージは片手であしらった。あまりの頼もしさに笑みさえこぼれた。


 「ソフィアさん、この国は出た方がいいと思う。町まで戻ってもまた捕まえに来る」

 「でも他に行くところなんて……」

 「知り合いに王様がいるのでその人に頼んでみます!」


デイライト公国ならソフィアを受け入れてくれるだろう。しかしソフィアには一つ気がかりがあった。


 「ですが……子ども達は?」


教え子たちのことが気がかりであった。ソフィアが尋ねると、クレアとプニュスタージは顔を見合わせて笑った。


 「ソフィアさん、来る前にね町の人達に相談したんだ」

 「そしたら皆さん言ってましたよ!」


ソフィアはきっとこれから狙われ続ける、北の国に留まるのは危険であることを告げた。すると、ソフィアの教え子の親たちは


 「ソフィア先生には今までお世話になってるからね!」

 「俺達じゃ荷が重いかもしれんが、皆で協力しよう」

 「これからはソフィア先生の代わりに、私達が交代で勉強教えよう!」

 「ワシには学がないが、手伝えることなら何でもやるぞ!」


と、口々に申し出た。


 「ソフィアさんのしてきたこと、皆さんちゃんと見てくれてたんですよ!」

 「うん、だから、寂しいかもだけど、きっと大丈夫だよ」


一番追い込まれた状況で、自分が振りまいてきた善意が思わぬ形で帰ってきた。ソフィアは感動で泣きそうになった。


 「皆さんがそんなことを……ああ、思いは繋がっていたのですね……」

 「はい! 最後の挨拶、していきましょう」



しかし町には兵士がうろついていて、とても近づけるような状態ではなかった。


 「参ったな……やっぱり全員殴り倒して……」


肩を回すプニュスタージの額に、鳥の形に折られた紙がコツリとぶつかった。


 「なにこれ?」

 「あっ、それ……私が息抜きに教えた……」


ソフィアは拾い上げて中を開く。中を見た途端、ソフィアはボロボロ涙をこぼした。


 「……あの子達ったら……」

 「何が書いてあるんですか?」


子ども達がそれぞれの思いを寄せ書きした物だった。その中の一つにこうあった。


 『いつか絶対、先生が帰ってこれるようにする!』


無残に切り付けられた心が、温かい思いで満たされていく。無償の愛を注ぎ続けてきたその証として。


 「見返りなんか求めたつもりはないのに、それなのに、こんなに嬉しい、満ち足りた気持ち……これが愛でなければなんと呼ぶのでしょう……」


ソフィアは子ども達からの手紙を愛おしそうに抱き締めた。彼が言う「いつか」、その日を信じて──


 「未来を開く力は、愛なのかもしれませんね。ねっ、プニさん」

 「うん、間違いないね」


ソフィアはデイライト公国に亡命した。


そしてソフィアを送り届けるのを以って、クレアたちの旅は終わりを告げた。


続く!


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