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12. 魔法の師弟はロマンを語る

前回のあらすじ!


スカイルーク孤児院にやってきた私たち一行。何の用事かと思えば、なんと! 実質的な経営者であるクロウリーさんに魔法の教えを乞うためでした!

しっかり学ばせていただきますよ!ふんふん!

────────────


 「魔法のお勉強か。よし、外行こうか」

 「はーい!」

 「ラスターとボマード君は、ガキ共と兄貴の面倒見ててくれるか?」

 「クロウリー、僕が子ども達と同格なのはおかしくないかい?」


 草原の庭に出るとウリたんが子ども達に弄ばれて嬉しそうにしていました。楽しそうですねぇ。しかしさすがウリたん、子ども8人に乗られても平然としていますね。百人乗っても大丈夫じゃないですかね。


 「あれどこから入ってきたんだ……?」

 「あっ、私の友達なので大丈夫ですよ!」

 「………………そうか」


納得していただけたようですね! クロウリーさんは足元に駆け寄ってくる子ども達を優しくウリたんの元へ返しながら口を開きました。


 「今はどんな魔法が使えるんだ?」

 「えーと、†インフィニティヘルフレイム†と遠視と、あと釣り糸ですね!」

 「……釣り糸? まあいいか。それにしても、いきなり凄いの覚えたな」


クロウリーさんは少しあきれたように笑った後、厳しい顔になりました。


 「インヘルは使わない方がいい。魔力消費ばっかり大きくて実践で役に立たない」

 「あっ、はい。分かりました……」


私ももう使うつもり有りませんでしたけどね。もう火事はコリゴリですよ……答えると、クロウリーさんは「よろしい」とばかりに頷きながら、いつの間にか手に持っていた分厚い本に何か書きこんでこっちに渡しました。


 「使っちゃいけないヤツに印いれといたから。今度から気を付けなよ?」

 「おお……ご丁寧にありがとうございます」


『魔法大百科』ですか。結構いっぱいありますね……禁術ってロマン感じますよね。こんにちは。でも使っちゃダメですよね、これはゲームじゃないわけですしおすし。


 「チギリちゃんは、使ってみたい魔法とかあるか?」


使ってみたい魔法ですか……せっかくだからいろんな魔法を使ってみたいですけど、今一番欲しいのは……


 「浄化……ですかね」

 「ラスターの妹のこと聞いたのか?」

 「えっ!?」


一瞬で見抜かれてしまいました。しかしクロウリーさんはなぜか少し申し訳なさそうに


 「残念だが、あれは魔法使いや聖職者がどうこうできるものじゃない。勇者の振るう宝剣がなきゃ……」


でもラスターさんの話だと宝剣はもう……えっ、それじゃあひょっとして詰んでるんですか?!


 「嘘だそんなこと……」

 「ラスターに魔法が使えりゃどうにかなったかもな……」

 「ということはやっぱりラスターさんにはお嫁さんが必要……」


なんてこった、私の判断が正しかったじゃないですか。見つけてあげますからね!


 「代わりと言ってはアレだけど、役に立ちそうな魔法をいくつか教えてあげるから」

 「よっしゃ、お願いします!」


それから身体強化魔法、探知魔法、回復魔法、滋養強壮魔法、リラクセーション魔法、デトックス魔法、肩こり解消魔法などサポート系魔法の基礎を叩き込まれました。


 「よし、次はむくみ解消……」

 「おーい! クロくーん!」


むくみ解消魔法のトレーニングに移ろうとしたところ、草原の向こうから声が聞こえてきました。女性の声です。


その人はクロウリーさんに駆け寄ってくるとぱたりと座り込んでしまいました。走ってきたんですね、この広い草原を……


 「あれ? この子は新しく来た子?」

 「違いますよ! ラスターさんのお仲間です! あっ、名前はチギリです」


今度はしっかり名乗りましたよ! チギリちゃんは学習する女なのです!

そしてこの人はアルバミーナ=リズライトさん。ヴァイスさんの助手だそうです。


 「アルさん。今日は休みじゃなかったっけ?」

 「いやぁ……暇だったし何か手伝うことないかと……」

 「あぁ、兄貴に会いたかったのか」


クロウリーさんがぼそりとつぶやくとアルさんは顔を真っ赤にしてしまいました。えっ、何これは!


 「そ、そういうんじゃないからぁ!」

 「あ、そう。……でも今日兄貴いないぜ?」

 「そんな……」

 「やっぱりそうじゃん」

 「あっ、いや、だからぁ! 大人をからかっちゃダメだよ!?」


アルさんはそう言い捨てて建物の中へ走り去ってしまいました。どうなってるんですか! 詳しい話を聞かせて下さい!


 「5年前、俺は兄貴に図鑑の制作を提案したんだ。兄貴もウキウキで承諾したが……一つ問題があった。俺と兄貴しかいなかったからな、それをやると人手が足りなくなる」

 「それで助手が新たに必要になった……」

 「そう。図鑑に挿絵なんかもあるといいと思ってな、絵が上手いって評判だったアルさんにお願いしたんだ。図鑑制作はもう終わったんだけど、いてくれた方が何かと助かるし引き続き手伝ってもらってる」

 「へぇ~それはそれは……ん?」


ヴァイスさんに図鑑制作を提案したのはクロウリーさん。

図鑑に挿絵を入れることを考えたのもクロウリーさん。

その絵をアルさんに頼んだのもクロウリーさん。

図鑑制作後も引き留めたのもクロウリーさん。

そして、先ほどのアルさんへの態度……


つながりました。脳細胞がトップギアです。


 「クロウリーさん。すべてあなたが仕組んだことじゃないんですか?」

 「へぇ、ちょっとドキッとしちゃったな。勘が良いじゃないか」


やっぱりそういうことだったんだ……ふっ、どうやら私が学ぶべきことはまだまだあるようですね!



────────────



 「すみませんね、散らかってて」

 「いえいえ、クロウリー殿は私の恩人ですからこれぐらいは」


 研究室の片づけを手伝うボマードに、ヴァイスニットは恐縮したように言った。そして部屋の隅の方で無言でその光景を見ていたラスターはこう言った。


 「ヴァイスさん、ボマードはあんたより年下……まだ16だ」

 「えっ? ……えっ?」


ヴァイスは思わず二度見した。今度はボマードが恐縮した。


 「すみません、このような見た目で」

 「こちらこそすみま……ごめんね」


二人が頭を下げ合っていると、研究室の扉が勢いよく開いた。ラスターはビクッと肩をすくめた。


 「ヴァイスくん、来たよ!」

 「アルさん!? 今日は休みのはずじゃ……」

 「あ、もしかして迷惑だった……?」

 「ううん、全然! むしろ嬉しいよ!」

 「そっか! よかった……」


いい歳こいた二人が頬を染めながらぎこちなく会話している。実年齢が大人のラスターと精神年齢が大人のボマードは直ちに二人の間に流れる空気を察知した。


 「……ヴァイスさん、俺らチギリとクロウリーの様子見てきますね」

 「そうですな、そろそろいい時間ですし」

 「え、そうか? 手伝わせてばっかりじゃあれだから何か御馳走しようと思ってたんだけど……」

 「ヴァイスくん、この二人は?」


ヴァイスの白衣の裾をくいと引っ張りながら尋ねるアルに、二人は簡単に自己紹介と挨拶を述べてそそくさと立ち去っていった。そして狭苦しい研究室にはヴァイスとアルだけが残された。


 「……ホントに休まなくて大丈夫? ここ最近働き詰めだったし……」

 「平気だよ、好きでやってるから!」

 「女性でこんなのが好きって珍しいね」

 「好きってそういうことじゃなくて……」

 「えっ? 何か言った?」

 「な、何でもにあ、ないよ! さっ、お掃除お掃除!」



────────────



 「やっぱりそういうことだったんですね……!!」


 クロウリーが右手に握った水晶の中にはヴァイスの研究室の様子が映し出されていた。チギリはしばらくその様子を観察した後鋭い目でクロウリーを見据えた。


 「全部ヴァイスニット博士とアルさんをくっつけるためだったんですね⁉」

 「その通り。だが見ての通りだ、じれったいったらありゃしない」


あの二人を結ばせるためにそこまで周到に準備していたなんて……この人は私とはレベルが違う……!


 「でも……どうしてそこまで?」

 「別に? 俺は兄貴が幸せならそれでいいんだ」


なんという献身! 純粋に幸せを願う気持ち! そして堅実な策略! クロウリーさんは私に足りなかったものを持っている……


 「私を弟子にしてください!」

 「えっ、なぜこのタイミング?」


こうしてチギリは師匠を得た。彼女の更なる飛躍に期待したい。続く!


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