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118. 知行合一ガーディアン

クレアのあらすじ!

平和を愛する青年・カルム=タウラスさん、きっと世界の静謐のためには、彼のような何があっても動じず穏健な姿勢を貫ける人物が必要なのだと思います。後ほど「平穏の力」を進呈いたします!

そして私達が次に出会うのは……

旅を続けるクレア達。大樹が一本だけそびえる大草原で足を止めた。クレアはその大樹に何故だか引き付けられた。


 「プニさん……あの木の下でちょっと休みませんか?」

 「うん、いいよ」


ユーシャをあやすプニュスタージを尻目に、クレアはボーっとした顔で大樹を見上げている。


 「よっこらしょ、と……クレア、どうかした?」

 「この木……どこかで……」


クレアは記憶の糸を懸命にたどる。彼女が知るこの“樹”はもっと小さく弱いものだった気が──


 「気になるかネ?」


声のする方を見上げると、長髪の男が木の上から見下ろしていた。


 「……はぁっ! ランスランスさん! そうです、これは知恵の樹!」

 「えっ、クレアの知り合い?」


ランスランスと呼ばれた男は木の上から飛び降りてきた。足首の砕ける音がした。


 「ふぬぅ……! いかにも、君の言う通りである!」

 「いや、すごい音したよ!? 大丈夫!?」


男はクレア達から青ざめた顔を逸らしながら親指と人差し指を立てる。


 「まず一つ、ワタシはいかにも、ウィズダム=ランスランスである!」

 「あの、だから足……」

 「そして二つ目、この大樹こそ“知恵の樹”! 我が一族が代々守ってきた“叡智の象徴”である!」


さらにウィズダムは、そのまま小指を立てる。


 「三つめ! 足首は捻挫している! 着地に失敗したのである!」

 「だったら早く言えや!」


ウィズダムは足首を清水で冷やしながら、腕組みして考え込んでいる。


 「しかし不可思議であるな……君は何故ワタシやこの大樹のことを知っていたのだネ?」


クレアは言いづらそうにしていたが、苦々しい顔で口を開いた。


 「ウィズダムさんの、ご先祖に会ったことがありまして」

 「ほお、ワタシの? 親かネ? それとも祖父母?」


クレアは曖昧に笑ってみせる。


 「えへへ、忘れちゃいました!」

 「そうであるか」


ウィズダムは残念そうにこぼした。彼もまた、何かを思い出そうとしているようであった。


 「ご先祖さんが言ってました。ある……少女に、知恵の樹の苗を託された、と」

 「少女に……?」

 「人の叡智が育つまで、見守ってほしい、と」


その時ウィズダムが何かに思い当たった。腫れた足を引きずりながら大樹の幹の周りを探し始める。プニュスタージは慌てて肩を貸した。


 「うむむ……確かこの辺りであるか……」

 「なになに?」


クレアはウィズダムに期待の眼差しを向ける。幹を半周ほどしたところで、見つけた。


 「これである!」

 「何か彫ってあるけど……これって!」


大樹の幹に、少女の顔が彫ってあった。そしてその少女は、クレアそっくりだった。


 「何でクレア……」

 「幼き頃、父に言われたのである。この少女が来たときには力を貸してやりなさいと。先祖代々の約束であると」


クレアは話を聞きながら涙を一粒こぼした。


 「ああ、そうですか……受肉して忘れてしまったのかと思っていました……命と約束、繋いでくれたんですね……」


プニュスタージはクレアの泣きざまを不思議そうに見ていた。ウィズダムはクレアに微笑みかける。


 「君なのであるな? 約束の少女は?」


クレアは何度も何度も頷いた。不思議だった、彼女が見た目相応に子どもっぽく泣くのを見るのは初めてだった。


 「ウィズダムさん、約束したのは、あなたとじゃないですけど、力を貸してくれますか?」

 「当然である。叡智を与えられた恩返しが、まだであるからな」


ウィズダムは迷いなく頷いた。足首を怪我しながらなので恰好は付かなかったが──


何のことか分からなかったプニュスタージは、ウィズダムと別れた後の道中で、クレアに尋ねてみることにした。


 「クレア、さっきの……全体的にどういう意味?」

 「ひょっとして妬いてますか?」

 「そういうんじゃねーし! クレアがよく分かんないこと言ってるのが嫌だっただけ」


クレアは生暖かい目を向けながらプニュスタージの問いに答えた。


 「ウィズダムさんの先祖はですね、天界の使者・ランスランスなのです!」

 「え、てことはクレアの使い?」

 「左様です。人間に知性を与える時に、手引き役として送り込んだのです」


そして本来、役目を終えた神の使いは天界に帰るはずである。しかしランスランスはそうしなかった。


 「受肉して人間になったんですよ」

 「ねえ、受肉ってのは?」

 「好きな相手の血を一滴貰うんです。そしたらその相手と同じ生き物になります」

 「じゃあ、そのクレアの使いって人は……」

 「人間になったんです。きっと愛する人と添い遂げることを選んだんですね」


クレアは帰ってこない使いのことを誤解していた。しかし思いがけぬ偶然の再会により、使いが使命を繋いでくれていたことを知った。


 「会えてよかったです。立派に育ちました」

 「……そっか!」


クレアの晴れやかな顔を見て、プニュスタージも嬉しくなった。だが同時に突き付けられた、クレアは自分とは違うということを。


 「……てことは、私が先に死ぬのか」

 「えっ、死んじゃ困ります!」

 「今すぐじゃないよ。何十年も先の話」


とはいえ、やはり先の話、実感は湧かなかった。しかし残された時間が、有限だと知ったからには──


 「だからそれまで、たくさん思い出作ろうよ」

 「プニさん……はい!」



続く


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