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116. 神様のプロポーズ

クレアのあらすじ!

デーライト公国の大公、ウールコットンさんは確かに善き人間のようです。しかしプニさんが、赤ちゃんをあの人に引き取ってもらうよう提案してこられたのが、どうしてか嫌でたまらなくて……私はその場から逃げ出してしまったのでした。

クレアはデイライト城下を、一人泣きながら歩いていた。通行人が何人も心配そうに振り返る。自分でも泣いている理由は分からなかった。


 「君、何泣いてるんだ?」


一人の青年が困り顔で声を掛ける。


 「こんな所で泣いてたら悪い王様の養子にされちゃうぞ」

 「……はい?」


言っている意味はよく分からないが、ウールコットンとは浅からぬ関係のようだった。クレアは彼に事情を聞いてみることにした。


 「あの王様ってどんな人ですか?」

 「いきなりだな。まあ、いいや、教えてあげる」


近くの長椅子に、隣り合わせで腰かける。


 「ウールコットンには、さんじゅう……今は2だったかな、32人の妻がいる」

 「さっ……! 不純です! ふしだらです!」


人間の一途さを好むクレアは、そのことに明らかな嫌悪感を示した。ぶんぶん腕を振って抗議の意を示す。


 「人間は一人の相手と添い遂げるのではないのですか!?」

 「ホント困ったもんだよ。気付いたら母親や兄弟が増えてんだもん」


口ぶりからしてこの青年はウールコットンの息子のようだ。とりたてて追及することでもないのでクレアは黙って聞き流す。


 「それにウールコットンは不実ってわけじゃないよ。家族にした分の責任は十二分に果たしてる」

 「そんなことが……? 人の身で本当に?」

 「はっはっは、あの人は超人だからさ。それに、家族にするのは『抜け道』ってところもあるんだよ」


抜け道というのはどういうことだろう、クレアは首をかしげた。


 「デイライト公国はね、前の大公によって急激に豊かになった。でもその反動で、貧富の差が広がったんだ」


つまりウールコットンの父が残した、ある意味での負の遺産、しかし責めることはできなかった。国を守ろうとした結果なのだから。


 「だから自分が尻拭いをするんだって躍起になってね。けど、国の予算で貧困支援するにも限界があった」


壁にぶち当たったウールコットンはその裏技を思いついた。


 「『家族にポケットマネーでお小遣い渡すなら文句ないだろ?』ってね。荒っぽいことするでしょう?」

 「でも王様の収入って、結局は国民から徴収したお金では?」

 「どうかな……重そうな荷車引っ張って国外に行くところがたびたび目撃されてるらしいけど」


本人はばれていないと思っているようだが、そうやって地道に稼いだ金も足しにしているらしい。


 「おかしな王様ですね。王様って言ったら、もっと傲慢で、暴力的で、民を虐げているイメージでしたが」

 「……君も若いのになかなか苦労してソウダネ」


ウールコットンは、親としても王としても申し分ない男だった。しかしそれでもクレアの気持ちは──


 「……やっぱりきちんとお断りしてきます」

 「ああ、もう手出されてたか……」

 「ありがとうございます、親切なお兄さん!」


クレアはもときた道を引き返す。途中でプニュスタージとすれ違った。


 「クレア!?」

 「プニさん、もう一回王様に会いましょう!」


プニュスタージの腕を引いて走り出す、クレアは心のままに。


 「ウールコットンさん!」


クレアが来ることを分かっていたかのように、ゆっくりと顔を上げる。


 「自分の気持ちは分かったかい?」

 「それはもう、バッチリハッキリと!」


ウールコットンは満足気に頷いた。そしてクレアは、隣にいるプニュスタージの方に体を向ける。


 「プニさん、さっきの続きです」

 「え、何?」


話を読めていないような顔で尋ねた。クレアは背負っていた赤子を体の前に抱きかかえる。


 「プニさんさえ良ければ、私と二人でこの子を育ててくれませんか?」

 「えっ? それって今まで通りってこと?」


プニュスタージは面食らった。クレアはいつか自分のもとを去って行くものだと思っていた。震え声で質問を重ねる。


 「クレアはそれでいいの?」

 「私は最初からそう言っています」


月下の森で出会ったあの日から、クレアの心は決まっていた。軽くあしらわれたので封じ込めていたが──


 「プニさん以外にありえません。私が人間を愛し続けられたのは、プニさんが一緒にいたからです」


涙が流れたのはプニュスタージと離れたくなかったからだ。


 「プニさん、どうですか?」

 「そんな、急に言われても……」


本当に自分の器でクレアを受け止められるか? プニュスタージは戸惑った。ここでウールコットンが口をはさむ。


 「神様がここまで言ってくれてんだ。本気で答えなきゃウソだぜ」


本気に本気で答えるのは、彼女としても望むところだった。忖度も遠慮もない、ありのままの気持ちを。


 「ありがとう、クレア。その子とクレアは、何があっても私が守るから」

 「プニさん……!」

 「これからもよろしくね」

 「……はい!」


 「こりゃぁ、スゴイ現場に出くわしちまったな」


ウールコットンは微笑みあう二人を見ながら感慨深そうにつぶやいた。神と人間が真に心を結びあった瞬間であった。


 「あっ、大公、悪いけどさっきの話はなかったことに」

 「いいってことよ。神様のお世話なんて荷が重いと思ってたんだ」

 「そうですか……ん? 神様って……」

 「私、そんなこと一回も言ってませんよ」


いつからか分からないが、ウールコットンはとっくに気付いていたようだ。誤魔化すように赤子の方を指さした。


 「その子、名前付けてやんねぇの?」

 「あっ、そうでした! プニさん、どうしましょう?」

 「ん、あー、実は考えてんだよね……」


披露するときが来ると思っていなかったその名前。プニュスタージは嬉しそうに告げた。


 「『ユーシャ』……ってどう?」


クレアは目を輝かせ、赤子に微笑みかける。


 「ユーシャ! “勇気ある者”! いい名前です!」

 「よかった、気に入ってもらえて……」


クレアは、ユーシャをプニュスタージに預けると、ウールコットンに一歩近づいた。


 「今回はいろいろお世話になりました」

 「俺は何もしてないよ。じゃ、家庭菜園に水をやらないと……」


その場を離れようとするウールコットンの背中に問いかける。


 「今日はいい天気ですか?」

 「ふっ……明日はもっとな。それこそ、光の当たらない場所がないぐらいに」


王の背中を見送った後、プニュスタージはクレアの耳元に顔を寄せた。


 「今のどういうこと?」

 「王様の心構えです!」


ユーシャはプニュスタージの腕の中ですやすや眠っている。太陽が沈まない限り、夜は来ない──


続く!


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