110. 鍛えた鋼は不撓不屈
クレアのあらすじ!
ワンダーフォーゲル家の皆さんが村人から許してもらうことはかなわず、彼らは村を追われました。それでもファミールさんとミラコさんは希望を捨てていませんでした。彼らがためになら、きっと奇跡は起こるでしょう。後ほど「奇跡の力」を進呈いたします。
そして私達が次に出会うのは……
村を出た一行は旅を続ける。苦い思いはしたが、ファミールの心意気に報いるためにも暗い顔はしていられない。
「南の国ももうすぐ周り終わるね。この国の武道家も強かった……」
「でもプニさんよりは弱いんでしょ?」
「それでも学ぶべき技は多い。私もますます強くなれる」
「これ以上……?」
クレアは頼もしく思うとともに少し恐ろしくなってきた。そして次に向かうのは、中央に険しい山がそびえたつ村……
「イロン村か。ここはどんなところかな……」
しかしあまり期待できそうではなかった。殺風景な街並みと、一軒だけそびえる豪邸。目につく住民も少し痩せているように見えた。
「……ああ、あれか」
山のトンネルから男達が岩石を運び出しては、また坑道の中へ戻っている。鉱山労働者だろう。
「プニさん、ここは鉱業の町みたいですね」
「みたいね。……まともなのはツリーズさんとこだけか」
鉱石や金属加工品で稼いだ金を、領主らが独占している構図を思い浮かべる。決めつけに過ぎないが、もういい加減にしてくれと思った。
「……決めつけは良くないか」
歩きながらときどき横目で鉱山の様子を見ていると、気絶した男がトンネルの入り口にロクな手当てもされずに打ち捨てられるのが見える。どうやら決めつけは当たっていそうだ。
「……ごめんねクレア」
「もう慣れました」
こんなことに慣れさせてしまう人間の情けなさを恥じ入った。
「あ、誰か近づいていきますよ」
気絶した労働者の所へ白衣の男が駆け寄っていく。
「なんだ、ちゃんと医者いるんだ……決めつけて失礼……ん?」
一瞬見直しかけたが、その医者がこの村の者ではないことにすぐ気づいた。
「あれって、ジャッザーさんじゃないですか?」
医師ジャッザー=シザークラフトは流れ者である。ここにいるということは、この土地の者ではないということだ。
「ジャッザーさん、お久し振り」
「おや、また会いましたね。この方の診察をするので待ってくださいね」
ジャッザーは労働者の状態を手早く確認し、日陰に運んで休ませる。労働者は過労のようだ。
「休めば良くなるはずですが……水を汲んできます。ちょっと見ててもらえます?」
「うん、分かった」
ジャッザーが離席してしばらくすると、労働者は目を覚ました。
「あ……いけない……仕事に戻らなければ」
「ちょっと、ちょっと!」
足元もおぼつかないまま立ち上がろうとするので、プニュスタージは無理矢理座らせる。
「過労ですってよ。休んでた方がいいよ」
「どなたが存じませんが、働かなければ家族が暮らしてゆけない……」
「死んだら元も子もないっしょ?」
「それはそうなんですが……」
こっちの方も重症のようだ。プニュスタージはため息をついた。
「……ここの責任者ぶっ飛ばしてぇ」
「プニさん、そんなことしたら死んじゃいます」
たしなめるクレアだったが、彼女も同じ気持ちだった。詳細を聞かずとも分かる、ここでは完全な搾取体制が出来上がっているのだ。
「え、え、その話はどういうことですか?」
後ろから声がした。白い着物に赤い袴を着た女性が、動揺した様子で立ちすくんでいる。
「休業補償は? 制定されたはず……」
労働者は諦めた様子で答える。
「あんなの貰えませんよ。上の連中が懐にしまい込んじまって」
「ウッソぉ……」
着物の女性は絶望の表情を浮かべた。それはそうと、彼女が何者か気になった。
「あのー、すみません……」
「はい! ああ、看てくれてたんですね。どうもありがとうございます」
「うん、それはそうと、あなたは何をされてる方なの?」
「あ、はい! 私はルピオン=スティングホールド、ここの領主の娘です」
またしても領主の娘である。プニュスタージとクレアも自己紹介を返した。
「ところで、さっき休業補償がどうとか言ってたけど?」
「危険の多い仕事なので、ちゃんと休んだ方が安全につながるかと思って、父さんにお願いしたんですけど……」
プニュスタージとクレアは顔を見合わせた。悪徳上司のせいで無駄に終わったようだが、彼女は搾取体制を変えようとする意志がある。
「もう一回父さんに掛け合ってきます! うん!」
「ルピオンさん、クレアも付いて行っていいかな?」
「プニさん?」
プニュスタージ自身も、クレアの性格は掴みあぐねていたが、ひょっとしたらルピオンとクレアは気が合うかもしれないと思った。
「ルピオン的にはオッケーですけど……」
「ほら、ルピオンさんもこう言ってくれてるし」
「はぁ、分かりましたよ」
クレアは不思議そうな顔をしていた。しかし、民のために尽力する人間を見ておくことは無意味ではない、そうも思っていた。
「じゃあ、この人は私が家まで運んどくわ。住所分かる?」
「ああ、はい……」
ルピオンは片手で男1人軽々持ち上げるプニュスタージに困惑しながら道を案内する。それぞれの目的地へ。
そしてあの男が、水を汲んで戻ってきた──
「…………誰もいない!?」
続く!




