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105. 公平無私の流れ医師

クレアのあらすじ!

プニさんが崖から落ちた改心男さんを助けるも、他の誰もお医者さんの居場所を教えようとしてくれません。せっかく変わろうとしたのにどうして……と思っていると、そこに一人の男性が現れ、こう名乗ったのです。


 「ジャッザー=シザークラフト。医者です」

その男は医者だと名乗った。抱えていたカバンから道具を取り出すと、手際よく処置を始めた。


 「うん、この分ならしばらく安静にしてれば平気でしょう」

 「ホントか?」

 「ええ。あなた、この方のご家族?」

 「違うけど。ちょっとした知り合い。そういうあなたは?」

 「ただの通りすがりです。家を知ってたら運んであげて下さい」


ジャッザーは応急処置を済ませるとさっさと立ち去ってしまった。クレアは慌てて後を追う。


 「プニさん、その人頼みます!」

 「クレア? ……まあいいか」


クレアは不思議だった。自分たち以外の全員が見捨てていたあの男を、ジャッザーはさも当然のことかのように助けてくれた。


 「あの、ジャッザーさん! 少しお話を伺っても?」

 「いいけど……何でしょう?」


彼は少し戸惑った様子だった。


 「なぜ彼を助けたのです?」

 「おかしなことを聞きますね。私は医者ですよ? 助けない理由を探す方が難しい」


これもまた、当然のことかのように答えて見せた。クレアは俄然、彼に興味がわいてきた。


 「まあ、私がこんなことを言えるのも、よそ者だからかもしれませんね。回復した彼が、また街の人達を虐めるかもしれない。しかし……」

 「放っておけなかった?」

 「そうですね。それにね、好きじゃないんですよ、手も尽くさない内から天罰だとか言うのは」


群衆の一人が言っていたことであったか、「天罰」という言葉。


 「天が決めるから天罰なんですよ。助けられる人を敢えて見殺しにしたなら、それは私刑と同じだ」


ジャッザーの答えにクレアはおおむね満足していたが、彼はさらに続けた。


 「それに、あれは何かかばって落ちたように見えました。どんなきっかけがあったか知りませんが、あの人たちが言っていたような横暴は、もうしないでしょう」


ジャッザーの見立て通りになった。


男に助けられたという子供が現れ、「道場の人間とつるむな」と母親に言われていたから助けられたことを話したら怒られると思った、と白状したのだ。


 「あの一瞬でそこまで見ていたのですか……!」

 「医者ですから。患者の状態はいち早く把握しないと」


クレアは目を輝かせた。完全にジャッザーのことを“気に入った”。


 「ジャッザーさんはこれからどこへ?」

 「旅を続けますよ。治療を受けられない人は世界中にいますから」

 「……いいですね」

 「はい?」


クレアたちも同じく旅の身、ならば同じ道を歩くのも縁というもの。


 「一緒に来ませんか? 私たちも旅してるんです」

 「君と……さっきのお人好しのお嬢さんかい?」

 「はい。それとこの赤ちゃんとイノシシのウリオール」


ジャッザーは少し面食らった様子だった。しかし嬉しかった、この孤独な戦士に、仲間を与えてくれたことが。


 「嬉しいですね。けど遠慮しておきます」

 「えっ!? 旅の仲間になる流れだったじゃないですか!?」


予想外の回答に、今度はクレアが面食らった。ジャッザーは楽しそうに笑いながら理由を話した。


 「情を抱いてしまったら、私は公平でいられなくなってしまう。だから今のところは離れましょう」

 「いや、でも……」

 「それに、道はいずれ交わるもの。ひとりぼっちでも、遠くで戦う友がいると思ったら、元気が出ます。それで十分」


会ったばかりのクレアのことを「友」と呼んだ。誘いを断られたのはショックだったが、今のクレアにはそれで十分だった。


 「分かりました。友の道を、応援しています」

 「ありがとうございます。神様も頑張って」


ジャッザーは手を振って立ち去っていった。クレアが違和感に気づいたのは彼の背中が小さくなり始めてからだった。


 「えっ!? 何で私の正体……ジャッザーさーん!?」

 「はっは、医術はもともと神事ですから」


神と流しの医師の邂逅は、最終的にクレアが呆気にとられる形で終わった。


そして夜、宿に戻ったクレアとプニュスタージは今日の出来事を振り返る。


 「いいお医者さんでした!」

 「へぇー、随分気に入ったんだな。てことは……?」

 「はい! 二人目です!」

 「よかったじゃん! あと10人、まだ先は長いね」


「先は長い」そう言いつつもプニュスタージは嬉しそうだった。


 「そっちはどうでした? あの人無事ですか?」


クレアは、改心男の心配をしていた。プニュスタージは安心させるように微笑んだ。


 「うん、あっちの道場でちゃんと看護してくれてる」

 「そうですか……」


クレアはそれを聞いて安心した。プニュスタージはさらに続ける。


 「向こうの師範のことも殴っておいたし」

 「そうですか……は!?」


急に安心できなくなった。


 「弟子のことちゃんと見てろ! ……ってな」

 「えぇ……」


クレアは少し引いたが、それももちろん、しっかりした意図があっての行動だ。プニュスタージ的には。


 「今回のことだってさ、もちろん自業自得なんだけど、あいつの師匠がちゃんと“心”も鍛えてやってたら、こうはならなかったわけでしょ?」

 「そうですかね?」

 「師匠、ってそういうモノだよ。力だけ与えて無責任に放置してたんじゃ、猛獣を放し飼いにしてるのと同じだからね」


善意の鎖をしっかり自分にくくりつけている猛獣は言うことが違う。彼女が存外ちゃんとした考えを持っているので、クレアは感心した。


 「まあ、悪い人じゃないみたいだけどね。弟子が武術で狼藉を働くなんて思っても見なかったー、てタイプ」

 「ふーん、なんか人間って……」


プニュスタージは緊張した面持ちで言葉の続きを待った。クレアがときどき、「人間」を品定めするような目をしているのが、少し不安だった。


 「人間って、憎めないですね!」


あっけらかんと言い放つクレアに、プニュスタージの緊張は一気に解けて笑顔の波が押し寄せてきた。


 「あっはっは! 憎めない、か……確かに、それが一番しっくりくる」


プニュスタージは涙を拭う。クレアはそこまで笑うことかと困惑したが、この気持ちは当事者にしか理解できない。


 「クレア、明日もよろしくね」

 「あ、はい! 勿論です!」

 「赤ちゃんとウリオールもな」


プニュスタージは願う、この不思議な少女との旅が幸せなゴールを迎えることを、この不思議な少女が人間を愛し続けてくれることを……



続く!


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