103. どっちも果て無し
クレアのあらすじ!
私の衝撃の告白にプニさんの反応は……
「私ですね……この世界の創造者なんですよ」
「…………はぁ?」
クレアの告白にプニュスタージは怪訝な表情を浮かべた。またふざけているのかとも思ったが、表情は真剣そのものだった。
「本当なの?」
「本当です。信じてくれますか?」
見つめるクレアの目は、不安がっているようであり、同時に脅迫するようでもあった。
「ごめん、クレア。私にはよく分からない」
クレアは悲しそうだった。プニュスタージは身がすくむ思いだったが、声を振り絞る。
「分からないけど、君のことは信じてみたい。だから、私を信じさせて?」
曇りのない目で見つめられたクレアは、しばし逡巡した。試すつもりが、あべこべに試されることになった。そしてため息一つ。
「しょうがないですね……ま、その内に分かることです」
「……ありがとう」
そしてクレアは話を続ける。彼女の目的の半分、赤子の親探しと、もう片方。
「それから私、この世界を回ってみたいと思っています」
「それはどうして?」
「私の力を託すに足る人物を、探すために」
「創造者」としての言葉だろうか、一人は既に見つけたという。
「人の器の限界を考えると、12人は欲しいです」
「じゃあ、あと11人ってことか……ちょっと親父さん」
プニュスタージは店長を呼びつけて、地図を持ってこさせる。彼女もどうせ世界を回る身、少女一人と赤子一人を連れて行くぐらい、何てことはなかった。
「おお……正確な世界地図……!」
クレアは人類の英知に感動していた。
「感激してるとこ悪いけど、これからの話していい?」
「あ、はい!」
「これから世界中回るんだけどさ、私は強さを求めて、君は後継者と親を求めて……だよね?」
「その通りです!」
プニュスタージは地図の真ん中を指さす。
「ここが、私たちが今いるところ、カプル王国。大陸の中央部を牛耳ってる」
次に地図の東西南北を順番に指し示す。
「東西南北にそれぞれ大国があって、この4つがちょっと仲悪い感じ」
「えー……」
「小さい国もいくつかあるけど、ほとんどが4大国のどれかの傘下だね」
そして、それらの情勢を踏まえたうえで、旅程の説明をし始めた。
「大国やその属国間の移動、これがちょっと厳しいんだ」
クレアは地図を覗き込む。
「えっと、じゃあ例えば北の国から東の国、とかは難しいってことです?」
「うん、そういうこと。でも完全に制限されてるわけじゃない」
プニュスタージは、北の国に置いた指を、東の国ではなく、大陸中央のカプル王国へ滑らせる。
「このカプル王国が、4国の緩衝地帯になってる。こっち経由なら、出入りの自由度は比較的高い」
「ということは、北→東はダメだけど、北→カプル→東ならOKってことですか?」
「その通り。だから、まあ、まどろっこしいんだけど、いちいちここに戻ってこないといけないわけね」
クレアはうんうんと頷く。心なしか瞳が少しうるんでいるように見えた。
「世知辛い世の中ですねぇ。人間同士で争って……こんな調子じゃ……」
「こんな調子じゃ、何?」
クレアはしまったという顔をした。
「何でもないですよ! へへ、善は急げです! 早く出発しましょう!」
クレアは明らかに何かを隠しているようだったが、あえて追及はしなかった。自分と同じように、彼女もまだ「信じたい」段階なのだと思ったからだ。
「……そうだね。じゃあ行くか」
「そうしましょう!」
二人は結局、何も注文せずに食堂を立ち去ろうとした。その二人を、食堂の主人が呼び止める。
「……ご注文は?」
「ごめん、勘弁! お金なくて……」
頭を下げるプニュスタージの前に、無言で皿が置かれた。
「腹減ったまま旅に出るつもりか?」
「でも、あの、ホントにお金払えない……」
「どうせこの街、戻ってこなきゃいけないんだろう。お代はその時でいい」
主人は少し考えるような仕草をしてみせた。
「俺はこの店空けらんねぇからな。代金がわりに土産話、聞かせてくれや」
「おやっさん……!」
プニュスタージとこの主人はほぼ初対面だった。その食事は、少し塩辛かったが、今までで一番美味かったという──
こうして二人は、旅立った。心の船に、たくさんの荷物を積んで──
「ねえ、クレア。さっき、世知辛い世の中って言っただろ?」
「ん? はい」
東の国境の山を歩きながら、さっきの味を舌の上で思い返す。泣いてしまってまともに味わえなかった料理、もう一度行かないと失礼だ。
「でもな、さっきの食堂のおやっさんみたいな人もいるんだよ。だからどんなに世の中が落ち込んでもさ、人の何だろう……優しさとか、そういうのって、無くならないんだと思う」
クレアは目を細めて微笑む。その表情からは喜びがにじみ出ていた。
「……はい。そうあってほしいものです」
続く!
試練空間
「あの……これ一万年前の話ですよね?」
「うん、いかにもそうだが」
「街の感じとか、今とそんなに変わってない気が……」
「うむ、変わるものもあれば変わらんものもある。そういうことじゃ」
「そうですか……」




