100. 約束世界遺産
前回のあらすじ!
慈悲の試練を突破したラスターさん!
さてお次は~?
さあ、いよいよ最後の試練ですよ! 私たちがやってきたのは、デンクマール村。残り一人はもちろんこの方!
「来たの、ラスター。最後じゃぞ、気を引き締めていけよ」
黄色い花が咲き乱れる花園に立っているのは、ゴードンさんです。長かった試練も、最後と思うと感慨深いですねぇ。
「覚悟は良いか? では行けい!」
「おう」
ラスターさんは最後の試練空間突入です! 頑張ってくださいね!
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ゴードン宅 書斎
「ゴードンさん、あれから“本”に何か変化はありましたか?」
聞くのがちょっと怖いですが、目を背けていてもどうにもならないですから。ラスターさんの妹さんの助け方、見つかったでしょうか?
「ふむ……毎日確認しているのじゃがな……」
ゴードンさんは本をパラリとめくります。
「やはり何も……うむ、存在していない」
「そうですか……」
まだチギリちゃんの頑張りが足りないと……魔法の勉強も、聖力の修業も、もっと頑張らないとですね!
「君が可能性のカギを握っているとは言ったが、あまり気負いすぎてはいかんよ」
「はい! 楽しく頑張ります!」
「よい心がけじゃな」
ゴードンさんは皺だらけの顔で笑いました。そういえば、以前別れ際に、ラスターさんが「気を付けろ」と言ってましたが、あれから何かあったのでしょうか?
「おお、あれか。魔王のスライムがワシの知識を狙っていたようでな」
「えぇ! そうだったんですか!」
「ゴーレムが何度か攫いに来たが、騎士団が追い払ってくれたよ」
驚きましたが、そういうことなら、スライムさんは私達が倒したのでもう大丈夫ですね! ラスターさんはよく予測できましたねぇ。
「知っておったのじゃよ。恩を着せるようで直接的に言えなかったのであろう」
「えー……不器用ぅー……」
こういうところなんですね、アークさんが言っていたのは。ていうかそれ、ゴードンさんが察していなかったら危なかったのでは?
「そうとも、不器用な男じゃよ、昔から……」
私が聞くまでもなく、ラスターさんの話を始めてくれそうな雰囲気です。流石だぁ……
「わしが十二神官になったのは今から42年前じゃった……」
自分の話でした! でも42年ってすごいですよね! これはこれで貴重なお話です。
「今でこそ、魔王の復活が近い、なんて騒いでおるが、その当時は全くそのような気配はなかったからな。仕事もそこそこに、要領よくサボりながらこなしておった」
今じゃ食事も忘れて資料を整理しているほどですのに、ゴードンさんにもそんな時期があったのですね。
「使命への意義を見出せなかった。支えるべき勇者がいないのに、ワシは何をさせられている? ……とな」
勇者さんは魔王の復活が近づかないと出てこないんですよね。十二神官さんは勇者を支えるのが仕事なのに。
「そんな折……先代の王に見える機会があった」
今の王様のお父さん、つまり大王様!
「先代の王はな、大陸全土を一つの王国にまとめ上げた……らしい」
「すっごー! ……らしい、とは?」
「ワシも生まれる前の話じゃからな」
確か100年以上前でしたっけ? ゴードンさんが生まれるよりさらに前ってすごい昔ですよ。
「もちろんそれは先王の強烈なカリスマによるところも大きい、がそれだけではない」
「勇者の血筋ですね!」
「その通り。3000年前の勇者の、直系の子孫にあたる」
前勇者の子孫の大王様との出会いが、ゴードンさんにとって大きな転機になったと振り返ります。
『無駄、であったか? 我が先祖が命を賭して世界を守ったことは』
『いえ、そのようなことは……』
『ならばお前も、命を懸けて歴史を繋いで見せよ。半端は認めん』
王様のお父さんなら、さぞやお優しいお方なのだろうと思いましたが、スゴイ圧です。
「王は厳しい態度であったが、だからこそ、ワシも心を入れ替えるきっかけとなった。そうして年老いたある日、勇者が現れた」
大王様が厳しい態度で臨んだからこそ、今のゴードンさんがある。そしてゴードンさんがラスターさんを支えている……全部つながっているんですね。
「……ワシは現代に降り立つ勇者を迎えるにあたって、一つの決意をしていた。しかしラスターは、それを無駄にしおった」
ゴードンさんは眉間にしわを寄せました。
「ら、ラッさんが一体何を……」
「勇者を守り助けることは十二神官の使命、そして約束。己の役目と真剣に向き合う中で、ワシもそのことをようやく理解できるようになった。故に誓ったのだ……」
ゴードンさんはふっと息を吐きます。ゴードンさんの誓いとは?
「『勇者がどのような輩であろうと、全霊で支える』、そう誓った。……ラスターのせいで無駄になったのだ。そんな誓いを立てずとも、十分、我々が支えるに値する男であったからな」
「ゴードンさん……!」
「ワシがラスターの悪口を言うんじゃないかと思ったんじゃないか?」
「思いました!」
「すっかり騙されおって! はっはっは!」
「悔しいですー!」
まったく、お茶目なおじいさんですね! 悔しいのに思わず笑顔ですよ!
「これからも、あの不器用な男をよろしく頼むぞ」
「こちらこそです!」
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試練空間
「ワシは継承の神・デンクマール。勇者よ、よくぞここまで辿りついた」
継承の神は厳かに告げた。最後の試練が、始まろうとしていた。
「最後の試練──の前にじゃが、君は忍辱の神の?」
スコッピの方にチラリと目を遣る。彼女は身を正して答えた。
「はい! 十二神官のスコッピ=スティングホールド……」
「うん、もう帰っていいよ」
「え!? で、でも、勇者を手助けする役目が……」
「ここはそういうの必要ないんじゃ。試練も『ワシの話を聞くだけ』じゃしな」
「講習形式……最後に来て……」
スコッピは納得いかなかったが、継承の神が冗談で言っているわけでないことは理解できたので、言われるがまま、ラスターより一足先に試練空間の外へ出た。
「頑張れよ、ラスター!」
「スコッピさん、ここまでありがとうございました」
ラスターは立ち去るスコッピに深々と頭を下げた。そして、継承の神は静かに語り始める。
「さて──“歴史の重み”を、受け止める覚悟は出来ているかね?」
「……当然です」
「では──」
継承の神の最初の一息で、ラスターは一気に彼の語りに吸い込まれる。まるで自分がその風景にいるかのように──
神が生きた時代、その風景が──
続く!




