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第9話  †高貴なる魔剣士†

 †高貴なる魔剣士†あらため、曽井戸との出会いはトゥルーライフをはじめたばかりの頃だった。

 俺がまだパーティーのメンバーともうち解けてなくて、初級ダンジョンに挑むべく町からそう遠くない草原エリアでLvに勤しんでいたときだ。

 敵モンスターの強さが変わるエリアの境目、渓流に足を伸ばしたところ、水際でジャイアントフロッグとミズトカゲにボコボコにされている剣士ソードマンがいた。


 この頃になると、トゥルーライフが世紀の詐欺ゲーだということは全世界に知れ渡っていて、いまさら新規になるのは俺みたいなリストラ候補くらいしかないはずだ。

 親近感を覚えた俺は、死んで宝石化した曽井戸を手持ちのアイテムで蘇生してやった。

「大変っしたね」「下手クソですから」などの社交辞令からはじまり、なんだかんだで協力プレイをすることになった。


 曽井戸は先行しすぎてモンスターを引き連れてきたり、その場から移動せずに敵と殴り合ったり、剣技発動がぎこちなかったりと、数々の初心者あるあるを披露してくれた。

 小暮さんを彷彿とさせる不器用さに曽井戸ははにかんだものだ。


「この手のゲームは初めてでして……お恥ずかしいかぎりで」

「いえいえ、俺も似たようなものですからお気になさらず。こういうのは慣れっスよ慣れ」


 社会人らしく、固い口調でぎこちない会話。

 せっかく協力プレイをするんだから互いに余所余所しいのはもったいない。

 これは営業、接客ではないし、もっと砕けた感じの、それこそゲーム感覚で彼との距離を縮めてみようと会話をふってみた。


「†高貴なる魔剣士†って名前、パンチ利いてますね」

「イカしているでしょう! 結構考えたんだすよこれ」

「マジかよ……」


 てっきりネタだと思っていたのに、本人はいたってマジ。なんと曽井戸くんは社会人で中二病を煩っていたのだ。

 ちなみにだが、はじめて曽井戸を会社のみんなに紹介したときのこと――


「みなさんはじめまして。†高貴なる魔剣士†です」

「好奇アナルやて?」

「高貴なる、ですッ」

「難しい名前なんだねぇ。どこまでが苗字なんだい?」

「け、剣短符とは、デキるな」


 とまあ、一部の例外を除いて、不評だったハンドルネームだったが、曽井戸本人は断固として譲らず困っていたところ、汚い鶴の一声があった。


「長うて面倒いねん。そや、こうきなるまけんしやろ? なら略してコーマン――」

「曽井戸ですッ! よろしくお願いしますッッ!!」


 破壊力抜群の略称で、泣く泣く曽井戸は折れてくれた。

 それから曽井戸と時間が会うたびに、二人で初級クエストに挑戦したものだ。


 なんでも曽井戸は俺と同い年くらいだといい、なおかつビギナーであるという共通点が会社での人間関係を忘れさせてくれて、いつしか地元の友達みたいな距離感になっていた。

 週末限定で現れる奇妙なプレイヤー曽井戸、そんな彼が一流銀行務めだということを聞いてブッたまげたものである。


 というのも、トゥルーライフを掴まされた一流企業はその事実を忘却するために廃棄するか、払い下げするか、見切りをつけるかだった。


 そもそもの話として、この件は金融機関にとっては黒歴史というやつだ。

 一時期は信頼性に伸び悩んだ仮想通貨だったが、リッチマン個人の莫大な資産による力業で通貨価値が高騰。ふたたび市場に火がついた。この第二次仮想通貨ブームに銀行も市場介入しようとしてトゥルーライフを購入したのが運の尽き。連日ワイドショーでも冷やかされた。


 それが理由で、大手企業、なかでも銀行系のプレイヤーは絶滅したと思いきや、いまになってご新規さんになるなんて、曽井戸も物好きなやつだ。

 まあ、野郎との馴れ初めなんて長々と話すものでもないので、ここいら辺で思い出話を切り上げるとしよう――



◇◇◇



「俺と一緒にラスボス倒さねー?」


 そう問いかけてきた曽井戸への答えはノーだ。

 というか、無理だ。現実味がない。

 〝不滅の女王〟は堅牢無比の難攻不落、未だ討伐不能のビリオンモンスターだぞ。

 だいたい『物理で殴る』に倣って『札束でぶん殴る』を実践していた東証一部の大手プレイヤー100人がかりでも倒せなかったラスボスを、どうして俺たちが討伐できようか。


「残業続きで寝不足なんだな。今日はもう休め」

「待て待て、言葉が足りなかった。正確には、近々有志を募った芋討伐があるんだけど、一緒に参加しないかってこと」


 芋とは〝不滅の女王(イモータルクィーン)〟の略称、スラングである。

 他には『お芋』『芋食い』『妹樽』などなど、威厳を感じさせない愛称が存在していた。


「ジローだってわかってんしょ? トゥルーライフって、今年に入ってから目に見えてプレイヤー減ってんじゃん。中堅どころも続々と撤退してるし……」


 大手企業はほぼ絶滅、そこそこ業績のいい企業も徐々にプレイ人口を減らしていっているのはたしかだ。


「もうLvカンスト勢もそんなに残ってないし、レイド人数集められなくなってきちゃってるから、下手するとこれが最後の挑戦になるんじゃないのかってこと! どうよ、乗るしかないこのビッグウェーブにッ!!」

「そりゃ俺だって参加してーよ……」


 参加してーけど、俺個人で判断していいものでもない。

 パーティーメンバーに相談するのが筋だろうけど、ドラゴンと聞いただけでバッシングしたみんなが賛成してくれるだろうか?


「みんなを説得すんの、ムズいかもしんないなぁ……」

「あ、その点はお任せ。商談だと思えばチョロいもんだって」


 言ってくれるじゃないの。

 あの人たちは、俺も含めてクセモノ揃いのリストラ候補。ヘソの曲がり具合にかけたら悪質クレーマーみたいなもんだけど、はてさて。

 曽井戸のお手並みを拝見するとして、仲間の待つテーブルへ戻った。


「どもどもみなさん、お久しぶりですー」


「あん?」とあからさまに眉根を寄せる葛田さん。

 兜のフェイスガードを外して、スポーツマン系の爽やかイケメンが素顔を晒した。


「俺ですよ俺」

「なんや、君かいな。久しいやっちゃなー」


 面識のある顔だったので、みんなから緊張が解けていく。


「元気しとったか? えっと、ゾイドくんだっけ?」

「曽井戸ですッ」

「そうそう曽井戸、曽井戸くん言うてたな」


 しょーもないボケにもつっこんでくれる曽井戸を、葛田さんも気に入っているらしい。


「き、今日はまた、ずいぶんと決まってるな」

「山根さんも、見てましたよ【真空波】! あれいいですよねーエフェクト渋いし」

「わ、わかるやつにだけわかる、いぶし銀だ」


 山根さんがニヒルにサムズアップ。

 中二病同士、通じるところがあるのだろう。


「時が経つのは早いねえ。かれこれ一ヶ月ぶりくらいかい?」

「小暮さんもお変わりなく、お元気そうでなによりです」


 年長者の前まで移動して、キチンとした斜め45度のお辞儀。

 これがデキる男の対応ってやつか。


「本日はみなさんに是非とも聞いていただきたいお話がありまして――と、その前に、まずはこちらをどうぞどうぞ」


 曽井戸がアイテムウィンドウを開いて、個別に装備を表示していく。


「っかぁ~キミ古いわぁ~。先に賄賂で釣ろうゆーんわ三流やで」

「いいえ、とんでもありません。これはみなさんにお会いしたときにでもお渡ししようと思っていたドロップアイテムですので、ご心配には及びません。正直、俺が持っていても宝の持ちぐされですからね」


 言葉どおり、表示された装備はどれも職種専用装備ばかり。聖騎士の曽井戸では装備不可能なものだった。


「季節のご挨拶として、葛田さんにはこれ、『盗賊の腕輪』をお譲りします」

「しょぼっ! 期待させといて、素早さしか上がってへんやん」

「そこは盗賊専用装備、なんとこの腕輪を装備していると宝箱のピッキング成功判定に+10%の補正が乗るんです」

「でかしたッ」


 こいつ、わかんてんなー。

 葛田さんは武器や防具の性能なんて二の次。金目のもの、金に換えられるものしか興味がないのだ。


「小暮さんにはこの『施しの杖』をどうぞ」

「ありがとうね」


 小暮さんに手渡した杖は、一見してただの杖。特殊装備には見えない。


「以前、魔法の操作が難しいと仰っていましたよね? この杖を振ってみてください」


 言われるがままに小暮さんが杖を振ると、杖の先から緑光が煌めき、回復魔法のエフェクトが発動した。


「杖を振ると自動で『ヒール』が発動するんです。さらに、マニュアルで発動した回復魔法も強化してくれます。これなら操作も簡単、安心安全ですね」

「こりゃあ便利だ。曽井戸くんありがとう、ありがとうね」

「さて、お目が高い山根さんには『タイガーナックル』をどうぞ!」

「タ、タイガーナックル……す、素晴らしい攻撃力だッ」


 このなかで一番高価なものっぽいぞそれ。

 山根さんの攻撃力が倍になるどころか、桁がひとつ増えてしまった。


「ちょうど拳士系の限定クエストをお手伝いしたときにドロップしたものでして、こいつのスゴいところは拳技のダメージアップ効果だけに留まらず――ちょっと真空波を出してもらえませんか」


 気合い一発、山根さんが真空波を放出すると、拳の先から輝く虎のエフェクトが迸ったではないか!


「ふ、ふぉぉぉぉッ……」


 感嘆に身悶える山根さんは大満足したらしく、しばらく壁に向かって「タイガーッタイガーッ」と真空波をぶつけていた。


 かくして、曽井戸はみんなを掌握した。ここまでは見事といえよう。

 しかし真打ち、この俺はどうかな?


「曽井戸、俺には? 俺には何があんのッ?」


 なにせ上級ダンジョンや専用クエストのドロップアイテムだ。

 中級でひーこら言っていた俺にしたら、否が応でも期待する。


「どーどー、落ち着け。落ち着けジロー。お前にはとっておきの――」

「とっておきの?」

「お、俺という、さ、最高の相棒がいるじゃないか!」


 目が点になった。みんなの目が。

 しかも、自分で言って照れてるし。


「えー、曽井戸に代わって話を続けますと――」

「無視するなよッ」

「だってなぁ……」

「だってってなんだよ!? 俺たちの友情プライスレス!!」

「つまりですね、曽井戸のお願いを要約しますと――」

「だから無視するなよぉッッ」


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