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第8話  登場、新たなる企業戦士!

 場所を移して、冒険者ギルドにて。


「うう、うう……」

「殺せ……いっそ殺してくれ……」


 テーブルに突っ伏して泣いている山根さんと俺を慰める術はない。

 せめてもの救いがあるとすれば、この称号がステータス画面を開かないと見えないことか。


「大丈夫、大丈夫っスから。称号の意味も、テキスト開かないとわかりませんから他の人にもバレませんてッ」

「うう……」


 いわゆるレア称号だ。

 修得条件だってハッキリいって不明のまま。

 まず俺たち以外のプレイヤーが持っているとは思えない。


「それよりも次の、次のダンジョンを決めましょう、ね!」

「ジロちゃん妙に張りきっとるやないか。ワイら、ようやく遺跡クリアしたところやで? もちっとのんびりしよーや」

「葛田さんがボス報酬チョロまかせなければ、こんなことにはならなかったんですけどね」


 俺の追求に口笛を吹いて誤魔化す葛田さん。

 そう俺たちは社会人だ。日がな一日トゥルーライフをプレイしていても遊んでいるわけではない。

 この部署の目的はトゥルーライフ筐体費用の回収にあるのだ。


 もちろん閑職だし、上も俺たちに全額返済を期待しているわけはないのだが、それでもプレイして手に入るクエスト報酬金は会社に上納しているし、毎月プレイログを経理に提出することを義務づけられている。


「装備やアイテム、必要経費は会社も目こぼししてくれるでしょうけど、五万なんて具体的な金額、さすがに経理も見逃してくれないっスよ?」

「チッ、しゃーない。やったるか」


 上納金を補填すべく、新たなクエスト受注をする。

 満場一致で可決したところで、次なるダンジョンを決めることにした。


「攻略と平行して、クエスト受注の多いダンジョンが理想なんスけど――」

「お、俺は『武門山』に行きたい」

「いやいや、ここは『不夜城の暗黒街』やろ?」

「僕はそうだねえ……『妖精の森』とかいいんじゃないかな」


 あらかたの案が出た。

『武門山』は拳士スキルが強化できる場所。山根さんの火力底上げは大いに歓迎すべきである。

『不夜城の暗黒街』は通常の店では取り扱いのないレア装備が出まわっているらしく、金があるならパーティー全体の強化に繋がる……が、どうせ葛田さんはカジノ目当てだろう。

『妖精の森』がこのなかで一番手頃か。

 思案する俺に小暮さんが問う。


「ジローくんはどうなの? どこか行きたいところある?」

「俺っスか? 俺なら――そうっスねー、ここはちょっと背伸びして、『大地の裂け目』とかどうっスかね」

「佐々木なら、てっきり『隠者の塔』を選ぶ、かと」


 山根さんの指摘はごもっともだ。

 魔法職の強化イベントがあるから断然そこなのだが、


「せっかくVRゲームやってんだから、ドラゴン見たくないっスか?」


 やっぱり男子たるもの興味がある。

 トゥルーライフの技術力でドラゴンをモデリングしたとなると、どれほどヤベーものが出てくるのか、想像するだけでワクワクするではないか。


「アホかボケぇ! この前の巨人像だけで軽くチビってもーたんやぞ? ワイに紙オムツはけいうんかい!!」

「ド、ドラゴンは……まだ早い」

「う~ん……僕たちまだ中級者だよね。ちょっとハードル高いんじゃないかい」


 わお、梨の礫でござい。


「わかってますよ! みんないやがるだろうなってことはッ」


 だから言わなかったんじゃないか。

 どうせ俺の意見は通らないだろうし、みんなバラバラの意見を出すに決まっていた。

 多数決の成立しない状況で俺が二票目を投じれば、他の人もへそを曲げないという算段だったのだ。


「みんなが出してくれた三案のなかなら、平等にステップアップできる『妖精の森』っスかねー」

「だねー」


 小暮さんと和む。

 葛田さんがブーブーと文句を垂れているが、無視だ無視。

 山根さんも、俺に真空波当ててくるんじゃありません!


「んじゃ、『妖精の森』関連のクエスト受注を済ませてくるんで、大人しく待っててくださいね」


 これ以上ゴネられても面倒だからとっとと決定してしまおう。


『ようこそ冒険者さま。本日はどのようなご用件でしょうか』


 俺がギルドの受付にいって、『妖精の森』に関するクエストリストをスクロールしているときだった。


「いよっ、○×商事!」


 何故か隣で気軽に声をかけてきたのは、ゴテゴテのフルプレートアーマーだった。


「……失礼ですがどちら様でしょうか?」

「え? あえ? ウソ忘れちゃった!? ま、待って。いま兜脱ぐ――て、名前確認すればわかんじゃん!」


 おお、一人ボケツッコミで自己解決を図るとはやるじゃないか。

 たしかに顔は隠れているが、ネームアイコンには『†高貴なる魔剣士†』と表示されている。

 こんな痛い名前の野郎が大手メガバンク勤務というのだから、世の中わからないものである。


曽井戸そいどじゃん、おひさ」

「ちゃんと†高貴なる魔剣士†って呼べよもう!」

「イヤだよ恥ずかしい」

「フザけんな、カッコイイだろ!」


 声を荒らげる曽井戸は、恐るべきことに本気で短剣符がカッコイイと思っている。

 だいたいなんだ、†高貴なる魔剣士†って。

 重力でも操るのか?


「そんな『美しき魔闘家』みたいな名前、アバターにつける勇者なんていねーよ!」

「え、なにそれカッコイイ……センスあるじゃんジロー」


 富○先生がな。


「てか、お前また装備かわってんのな」


 以前は剣士系のフォーマルなライトアーマーだったのに、いまは白銀の眩しいゴージャスな鎧になっている。


「へえ、『聖騎士の鎧』か……うわ、めっちゃ防御力あんじゃん!」

「スゴいだろー、この鎧、【HP回復:小】がついている上に【闇耐性】もあるんだぜ?」

「うぐぐぐ、正直羨ましい……」


 金欠の俺たちときたら、装備はほぼ初期装備の強化か、モンスターの素材で作った防具なので、獣の皮や骨ばっかり。見かけはまんま蛮族だ。


「ふふ~ん♪ その反応が見たくて、夏のボーナス突っ込んだんだからな」

「はあ!? そんな強そうな装備を課金したっていうのかよ!?」


 トゥルーライフの通貨は仮想通貨として現実でも使用できるから、その逆も然り。現金でもってゲーム内の物品を購入できたりもする。

 だからって、フツー課金するか? いや、課金するだろうけど、よりにもよって、そんな値段の張りそうな装備、値段が恐くて聞けねーよ。


 企業がトゥルーライフを購入した目的は、ゲーム内に隠されたリッチマンの資産を得るためだろ。

 収支をマイナスにしてまで金をつぎ込む。ましてやそれを個人でやるなんて、本末転倒というか、私生活にも影響が出るだろが。


「お前大丈夫か……」

「おっ、心配してくれんの?」

「頭のな」

「どういう意味だよ!」

「そのままの意味だぞ」

「ムキーッ! せっかく鎧新調したっていうのに、なんだよもう! もっと褒めろよバーカバーカッ」


 年収1000万オーバーの台詞じゃねーなこれ。


「ジローこそ、ジローこそどうなんよ! 少しは成長したの――」

「あ、バカやめろ! 見るなッ」


 時既に遅し。曽井戸が俺のステータス画面を開いたら、名前の下に【童貞】という称号が。


「あ、うん……その、元気そうだな」

「笑えよ! 笑えったら!!」

「わ、笑わねーし! うん。ピュアなとこ、素敵じゃん」

「その気遣いが逆に痛えーよッッ」


 そうこうしているうちに、クエスト受注画面が閉じていた。


『ようこそ冒険者さま。本日はどのようなご用件でしょうか』


 ふたたび受付嬢のアナウンスがはじまってしまう。

 相変わらずギルドは過疎っているが、あとから来る人のためにも移動することにしよう。

 マナーは大事。

 あと、これ以上ステータスオープンして晒し者になりたくないし。


「長話になるなら席に戻るぞ」

「うん。そうしよーそうしよー」


 ヤケにご機嫌だなこいつ。

 怪しい。裏がありそうだ。


「ただの挨拶にこんなに絡んでくるってことは、なんか話あんだろ?」

「さっすがジロー。話がわかる」


 馴れ馴れしく肩を組んできた曽井戸が耳打ちした。


「なあなあ、俺と一緒にラスボス倒さねー?」


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