第7話 あったよ、水着回が!!
遺跡のダンジョンをクリアしてから三日間、葛田さんは有休を消化して出社してこなかった。
俺たちとしてもクズ……じゃなかった、葛田さんには思うところがあるので、気まずくなるくらいなら姿を見せない方がありがたい。
メンバーが揃うまでは新しいダンジョンに挑戦できないので、俺はたまの個人行動で自主練に励むことにした。
巨人像との戦闘で、俺にはまだまだ足りないことばかりだと思い知らされたわけで、Lv上げやスキル獲得をすべくソロプレイで経験値を溜めた。
四日目の朝、葛田さんがいつもどおりに、なんら悪びれた様子もなく出社してきた。
俺たちとしてもインターバル三日もあれば頭も冷える。
あの暴挙をなあなあで許すつもりはないが、謝罪は受け入れるつもりだった。
『トゥルーライフへようこそ――』
ログインした俺たちは例のごとくファーダンシティのポータルで葛田さんを待っていた。
ほどなくして、何気ない顔で葛田さんが現れた。
「まいどまいど、おはよーさん」
「あ、どもども葛田さ――オゲェーッッ」
思わず画○郎先生みたいなゲロを吐いてしまった。
「なんやねん、人を見るなりゲロ吐くなんて失礼なやっちゃなー」
「いや、だって……オゲェーッッオゲェーッッ」
直視に堪えない。
何故ならこのオヤジ、あろうことかマイクロビキニ姿なのである!!
「あんた、なんつー恰好をッ」
「これな、この前のボスでドロップしたレア装備やねん。どや、似合うとるか?」
脂ぎったぶよぶよの三段腹でポージングされても殺意しか沸かない。
端的にいって酷い。
際どい布地の隙間からうっすらと縮れ毛がハミ出ているし。
「ていうか乳毛! 乳毛って!!」
あと、股間のモジャ公をどうにかしてくれ!!
なにもここまでリアルに表現しなくてもいいじゃん! まったくスゲーなVR!!
「そもそもマイクロビキニは女が装備するものであって、何が悲しくてオッサンのオゲェーッッオゲーッッ」
もはや会話もなりたたない。
よく見れば俺のHPまで減少しているではないか。
隣の山根さんは直立不動のまま、なんだかブルブル震えているし、小暮さんは目を瞑ったまま念仏を唱えだしてしまった。
「ワイもまさか装備できるとは思わんかったけど、これあれやろ? いま話題の『LGBTに配慮しました』的な」
「ガッデム!!」
さすがは世界的に展開しているゲームは違うわー。色々なところに配慮してるわー。
なにより特筆すべき点は、『トゥルーライフ』のキャラエディットはプレイヤー本人をスキャンしているため、ジャパンRPGみたいなイケメン美少女に設定できないことである。
うん。無駄な技術力というか、余計なお世話である。
レアアイテム『セクシービキニ』をムチムチの美女が着てくれるならまだしも、これは正直拷問、刑罰の類ではないか。
「いや待て……俺の体力が減少したってことは、ひょっとして攻撃手段になるのか?」
「そういえば、装備したときにテキスト出とったな。【不気味な踊り】が使えるらしいで?」
よかった。【セクシーダンス】の表記じゃないんだな。
その辺の判定は正常なんだとホッとした。
「とりあえず、その恥ずかしい恰好を変えてください。そうしないと死にます。俺たちが」
ジリジリとHPバーが減少していく。
安全圏の町中で死ぬなんて前代未聞だぞこれ。
「小暮さん、すんませんけど回復魔法を……って、あれ? なんで山根さんのHP減ってないんスか?」
「ど、童貞捨てたときに耐性が、つ、ついた」
「はあ!? なんスか山根さん、俺たち童貞同盟だって言ってたじゃないっスか!!」
「す、すまん……葛田さんの口車に乗って、つい……」
抜け駆けとかズルい!
「いつの間にッ……いつですか!」
「一昨日やねん。ほら、あんときのボス倒したときな、五万円になったから仲直りもかねて泡風呂連れてったんや」
「チクショウ! 二人だけいい思いしやがって!!」
「あ、慌てるな佐々木。お、俺の、相手はボストロールだった……」
「えっ……いったいどんなとこ行ったんスか?」
「60分7000円の激安店やったなぁ」
「魔境じゃねーか!」
なんという高難度ダンジョン!
山根さん勇者なの? 勇者だったの!?
「ど、どうしてそんなところに……」
「すまない……抗えなかった、が、我慢できなかったんだ……」
「辛気くさいやっちゃなぁ。フーゾクなんて、穴入れて気持ちよきゃええねん。しみったれた童貞なんてとっとと捨てたれ。こんな歳までホコリ被っとったらオチンチンも可哀想やで。むしろワイに感謝してほしいくらいやねん」
その一言が、俺の心に火をつけた。
「葛田さん……あんた一線を越えたぜ?」
童貞にだって聞き捨てならねーことはある。
「俺たちだってなあ、好きで童貞やってるわけじゃねーんだ! 相手が、女の子が、いねーんだ! いつか巡り会う彼女のために取っておいた童貞なんだ。自分でもバカだと思うぜ? ああそうさ、くだらない意地ってやつさ。だがな――」
「ジ、ジロちゃん? なんかキャラ違うてへんか……」
「だがなぁ、それでも童貞でいる間は、本番を想像している間は夢の世界、理想郷があるんだよッ……それはかけがえのない時間だ、俺たちにとっちゃあ黄金なんだ! それをあんたは一笑した。童貞だと知っていたのに金払いをケチって、山根さんの四十年を踏みにじりやがったんだ! 望んで散らしたわけでもねー童貞を、他人が侮辱することは許さねえ!! この俺が許しちゃおけねえ!!」
食ってかかろうとした俺は、小暮さんに羽交い締めにされた。
「ジローくんジローくん、ちょっと落ち着こう。ね」
「フーッ、フーッ!!」
「佐々木、あ、ありがとう……お前の気持ち、胸に響いた」
「山根さん……」
そんな優しい目をされたら、涙が出てきてしまうじゃないか。
「お前のいうとおり、お、俺の四十年は黄金だった。失って、初めてわかったよ。あ、あれはそう、セックスという名の作業だった……」
「山根さぁん……」
「サービスも最低だった。あと、クラミジアのバッドステータスも……」
「山根さぁぁぁんッッ」
神も仏もねえ! あんまりだ、あんまりじゃねーか、こんなの!!
「お、お前は、俺みたいになるな」
そして山根さんが微笑んだ。
陰のある、淋しそうな男の顔だった。
「これは先輩からの、ア、アドバイスだ。風俗に行くなら3万、いや5万は用意しておけ」
「はい……わかりましたッ、わかりましたッッ」
泣き崩れそうな俺を山根さんが支えてくれた。
そのとき気づいた。ふと、山根さんのステータス画面に新たな表示が――
『称号【マニアック】獲得』
ファンファーレとともに、突然の称号獲得を果たした山根さん。
「山根さん、なんスかそれ?」
「わ、わからん……」
山根さんが画面の称号をつついたら説明文が表示された。
『称号【マニアック】――人族、妖精族、魔族の【魅了】を無効にする』
「おお、やったじゃないっスか! 【耐性】じゃなくて【無効】って、上位スキルっスよね?」
「ま、待て。まだ説明が、ある、みたいだ」
ウィンドウをスクロールしていくと――
『また、上記種族以外の【魅了】が成功確定する』
「こ、これは……」
途端に青ざめる山根さん。
つまり、称号【マニアック】とは、綺麗なオネーさんやエルフ、サキュバスの魅了が効かないかわりに、たとえばそう、オークとかボストロールの魅了が百発百中になるということ。
「や、山根さん……」
「佐々木、も、もしも俺がボストロールに魅了されたら、この命を断ってくれッ」
「山根さぁぁぁぁんッッ」
傷口を抉られた山根さんは悲壮な決意で懇願するのだった。
「なんやねん、これ」
「二人はロマンチストなんだねえ」
「ただのアホちゃうか」
外野の心ない声をシャットアウトする俺に、今度は山根さんが頬をひくつかせて指さした。
場所は俺のステータス画面。
そこには【童貞】という称号が。
「なんでだよッッ」
『人族、妖精族、魔族の【魅了】に弱くなる』
「デメリットしかねーじゃねーかッッ」
もうイヤだ、こんなクソゲー!