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第13話  集結、新たなる力

 〝不滅の女王〟がいる『虹架かる丘』はフィールド上にある。

 ダンジョンに潜る必要がないため、ボスと戦うまでにそう時間はかからない。

 おかげで、俺たちは芋討伐集合地点に辿りつくことができた。


 だだっ広いフィールドを埋め尽くさんばかりのLv50オーバーのプレイヤーと雇われ冒険者たち。さすがに百人集まれば壮観だ。

「はえ~」と嘆息していると、端っこの方でおじいちゃんが手を振ってきた。

 小暮さんだった。


「ジローくん、ギリギリだったねえ。僕たち心配したんだよ?」

「ご心配をおかけしました」


 社会人として深々と頭を垂れる。

 小暮さんはニコニコと手を振った。


「間に合ったんだからいいよいいよ。それよりジローくん、ワイルドだねえ」

「あ、これっスか。お恥ずかしい」


 邪術士は魔法職の宿命で重装備が着られない。

 それにカルマ値の上昇で見栄えのいい正統派装備も以下同文。

 必然的に軽装で忍びやすい、忍者や暗殺者みたいな恰好を強いられるのだ。


「小暮さんこそ、それ『大司祭ハイプリースト』っスよね? ローマの司教さまみたいな装備、正統進化で羨ましいっスよ」

「コーチの久保くんのおかげ」


 重装騎士の久保さんが「いやいや」と謙遜する。


「とんでもない! 小暮さんお歳をめされているのにふて腐れずに励んでくれましたんで僕も教え甲斐がありました。上手に身体を動かせるようになってからなんて、後衛にはもったいないアクティヴさですよ。意外な才能発揮ですね!」

「スゴいよね。ぶいあーるっていうの? 腰痛なくなったし、思ったとおりに身体が動くし、まるで五十年くらい若返ったみたいだ」


 互いにハイタッチを交わす姿は見ていて心が温まる。

 小暮さんはよき指導者とめぐり会えたようだ。


「その様子だと、みんな大丈夫そうっスね。葛田さんとか、絶対手ぇ抜きそうじゃないっスか。どうなんスか正直」

「僕じゃなくて葛田くん本人に訊いてみたら?」


 小暮さんに言われて葛田さんを捜す。


「どこっスか? 近くにいるんですか?」

「近くもなにも、僕の隣にいるじゃないの」


 小暮さんの横に立っている後ろ姿は、錨付き革パン、上半身裸のサスペンダー、トゲ付き肩パットの小太りスキンヘッドって――


「え、この人ハート様じゃなかったの!?」

「見違えるよねえ。僕も初見じゃあ気づけなかった」

「いや見違えるとかそういうレベルの話じゃなくて……ほ、本当に葛田さんですか?」


 おそるおそる問いかける俺に世紀末デブが振り向いた。


「ぐへへ、力こそ正義ぃ」


 顔はたしかに葛田さんだったけど、五割増凶悪になっていた。


「勝てばよかろうなのだぁ」

「葛田さんが本物のクズに!!」


 ゲロ以下の豹変だ。

 驚いていると、後ろにいた死の呪文もといザキさんが大仰にうなずいた。


「フシューッフシューッ、こいつはなかなか見所のあるやつだ」


 マッドマックスのお墨付きかよ。

 盗賊から『無法者』になった上に【裏切り者】というレア称号まで保有しているとは……。


「世のなか金や! 金がすべてや!!」

「あ、そこは変わってないんですね」


 コポォとかニチャアとか笑いそうだけど、基本は葛田さんのままらしい。

 小悪党から真性クズ野郎になったってことは、これもある意味正統進化か。


「こうなると山根さんの中二病がどうなっていることやら、知りたいような、知りたくないような――」

「そ、それなんだけど……ジロー、たぶん驚くぞ」


 口籠もる曽井戸の反応で察しもしよう。

 そもそも山根さんと曽井戸という中二病患者のペアだったのだ。

 二週間でどんなケミストリーが起こってしまったのか、想像に難くない。


「どれほど痛い進化を遂げていようと受けとめてみせるさ。それで、山根さんどこ?」


 曽井戸が指さした人集り。

 てっきり討伐隊のリーダーがいると思われていた一団が二つに割れて、厳かに歩んでくる者がひとり。


「色不異空、空不異色、色即是空、空即是色――」


 簡素なアジアン法衣を身に纏い、数珠を片手に読経している行者聖は誰あろう、


「山根さぁぁぁぁぁぁぁんッッ」

「舎利子。是諸法空相、不生不滅、不垢不浄、不増不減――」

「涅槃に達してるじゃねーか!!」


 謎の後光エフェクトが眩しいですよ。


「な、スゲーだろ? 山根さん、まだ誰も発見してなかった隠し職業『阿羅漢アルハット』になっちゃって話題騒然なんだ」

「えぇ……」


 何がどうしてこうなった!?


「フツーな、武門山でイベントこなしたら『武術家カンフーマスター』になるんだけど――」

「なるんだけど?」

「そこからさらにイベントツリーが発生して、あれよあれよという間に大僧正から印家をもらってご覧の有様。おかげで、職業修得条件も不明のままってわけ」

「何か変わったことはなかったのか?」

「強いて言えば、オーククィーンとバトルしてから、一心不乱に修練したことくらいかなぁ」


 いやそれだろ! どう考えてもそれだろ!!


「山根さん、すんませんっした! 俺が、俺がいなかったばかりにッッ」


 オーククィーンの【魅了】を食らってしまったのだ。

 それが許せなくて色欲と決別してしまったのだ。


「男と男の約束を……守ってあげられませんでしたッ」

「よい。人の心は移ろうもの。これも定めよ」


 なんて優しい目をしているんだ。

 これが哀しみを背負った者の境地なのか。


「佐々木、お前はお前の童貞を歩め。〝黄金の意志〟を信じて――」

「山根さぁぁぁぁぁぁぁぁぁんッッ」

「涙は勝利までとっておけ。一億で高級風俗いくんだろ?」

「はいッッ」

「おいコラ、高級風俗ってどういうことだテメー!」


 ボルテージマックスの俺に曽井戸が突っかかってきた。

 そうか、イケメン高給取りのお前でも高級風俗は羨ましいか。


「俺、この戦いが終わったら高級風俗に行くんだ」

「フザけんなバカ死ね!!」


 何故か怒られてしまった。


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