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第11話  クラスチェンジへの道 特訓編スタート!

 『邪術士ウォーロック』とは敵の弱体化、デバフ魔法に特化した魔法職である。

 属性は悪だし、華やかな攻撃魔法もない。また、同じ属性悪の『死霊使い(ネクロマンサー)』と違って即死魔法とかもない。

 攻撃力もなく、ボスには効果の薄いデバフ魔法ばっかり。おもにザコ専のネタ枠ともいわれる職業をあてがわれたらテンションだって上がりませんて。


「急ごしらえの魔法職で第一線は無理があるっしょ。佐々木さん、もともとサポートで参加するんだから層の薄いデバフ役の穴埋めにまわされるんの、ちょっと考えればわかるもんでしょ」


 うむ。合理的だ。

 芋討伐に際して、端から俺に職業選択の自由はなかったようだ。


「ま、地味な役どころに文句を言ってもはじまらないか」

「そーいうこと」


 ゲームのなかでも世知辛いこって。

 気を取り直して、俺たちは一路邪教崇拝の総本山『業魔殿』へ。

 そこでイベントツリーをこなしていけば、晴れて邪術士の仲間入りだ。


 実際、高火力な森田くんの援護もあって、トントン拍子でイベントを進行できた。

 最後の試練『聖教徒の大司祭』とのタイマンバトルにかなり手間取ったものの、森田くんに手渡された大量の爆薬で爆殺してやった。


 本来だったらここはイベントを通して知り合った聖教徒の司祭さまの説得も空しく、プレイヤーは悪の道を選ぶ。光と闇の魔法対決を描くヒロイックなラストバトルになるはずだった。


『目を覚ますのじゃジロー。暗闇に呑まれるでない』


『光を捨てた者に未来はない。いまならまだ引き返せようぞ』


『どうしてもというのならやむを得ん。せめて汝の魂だけでも光のもとへ――』


 などなど、段階を踏んで進行していくイベントでは熱い台詞や悲壮感によってプレイヤーを盛り上げてくれて、最後に仲違いした司祭さまと一騎打ちというところ、フタを開ければ異世界花火大会になってしまった。


 ここまで無茶な速度でイベントを進めてきた俺のLvでは司祭さまに勝てない。逆属性同士の魔法の撃ち合いでは不利がつくのは目に見えていた。

 そこで、魔法防御が高いなら物理でぶっ飛ばせとばかりに、魔法対決そっちのけでボンバーマンと化すことに。


 ドカーン!


『うむむっ、なんという闇の力! よもやここまで魔力を高めていようとはッ』


 すいません。これ物理っス。


『かくなる上は、光の神殿に伝わる大浄化魔法で――』


 ドカーンドカーン!

 詠唱途中に大連鎖ー!!


『……見事だジローよ』


 哀れ司祭さまは計67発の絨毯爆撃をくらい天に召された。

 俺もテロリストみたいなやり口で勝利したものの後味も悪く、カタルシスもへったくれもなかったことをここに明記しておく。


 ともあれ、そんな俺のガッカリ感は大事の前の小事である。

 週末を使った特訓三日目にして上級職にランクアップ。この事実こそが重要なのだ。

 さあ、あとはひたすらLv上げだ。

 残る日数は11日。ここもかなり無理したイベント進行のおかげで、俺も当初のLv25からLv33に。目標のLv50まで充分射程圏内だ。

 俺は森田くんの指示に従い、経験値の多いレアモンスターが出現するダンジョンに通い詰めることになっていた。


「そういえばさ、森田くんLv45なんだね」

「復帰勢なんで」


 森田くんが吐き捨てるように言った。


「前は社の命令だから仕方なくな」


 規定ラインのLv50に達してないのがずっと不思議だったけど、そういうわけか。


「こんなゲームやってるほどヒマじゃねーんだけど、曽井戸さんに頼まれたらしゃーねーっしょ」

「はは……上司の頼みは断れんわな」

「勘違いしてんじゃねーぞオッサン。これは別に強制じゃねえ。こんなゲーム、曽井戸さんにはさっさと引退してもらいてーから協力しているだけだ」

「え、でも討伐報酬1億確定だよ? テンション上がらない?」

「たかだか1億くらいアラサーまでに稼げるだろが」


 おうおう、天下のメガバンクは言うことが違うね。

 刺々しい言い方は若さゆえということにしておいて、とにもかくにもLv上げに専念である。

 さすがに森田くんも俺につきっきりというわけにもいかず、日中は本業に専念して、二日に一回くらいのペースで夜に合流。そこで経験値の美味いダンジョンに潜るという流れになっていた。

 ただ、俺というお荷物、ましてや魔法職二人での高難度ダンジョンは森田くんをしても無理だったようで、しばらくは分相応な狩り場で地味な作業が続くことになる。


「オッサン、ザコはまわしてやるから、経験値の高いモンスターはとるなよ」

「へいへい」


 初日から一週間が経過。

 この頃になると森田くんのことが大分掴めてきた。

 高Lvモンスターばかり狙いはじめて、露骨に経験値をまわさなくなってきたのだ。

 どうにかLv40台にこぎ着けた俺も俺で、持ち前のデバフ魔法でソロのザコ狩りができるまでになっていた。


 しかしだ。このままソロプレイしていてもお互い期限に間に合わない。

 効率よく、かつ高経験値を得るためには協力プレイが大前提なのだ。

 仕方ない。ここは俺が一歩退くことにするか。

 一度ファーダンシティに戻った際、その辺のことを相談してみることにした。


「森田くんさ、俺のこと嫌いでしょ」


 なにをいまさらといった表情をする森田くんに折衷案を試みる。


「このままだと二人ともタイムアップはバカらしいだろ? なるたけイラつかせないように努力するからさ、経験値の美味しいダンジョンに潜らないか」

「あんた、ホントになんもわかってねーのな」


 大きくため息をついた森田くんの目は馴染みのあるものだった。

 哀れみと蔑み。会社で俺たちリストラ組に向けられる視線だ。


「俺はさぁ、正直こんなゲームどうでもいいのよ。曽井戸さんが部門長に嘆願してまでやりたいっていうから協力しているだけで、正直こんなことやってるヒマなんかねーほど忙しいわけ」

「そいつはすまなかったね……」

「曽井戸さんも曽井戸さんだよな。これゲームだぜ? 遊びだぜ!? なのに時間外まで使ってマジになって……あの人なら現実で、こんなくだらねー時間の使い方してないで、もっとデカい商談とれるってーのによぉ!」


 不味ったなぁ。

 フラストレーション爆発のキッカケを与えちゃったか。


「×○小事つったっけ? 聞いたこともない木っ端企業の分際で、あんたら慣れ慣れしいんだよ。言ってみりゃ、あんたら底辺のクソモブだろ? だったら立場ってもんを弁えろよ」

「なるほど。もっともだ」


 現実世界の社会的地位は月とスッポン。

 トゥルーライフをやってなければ一生接点なんてなかっただろう。


「だけど、残念ながらこれは仕事ではないし、君もうちのお得意様でもない。そしてなにより、曽井戸がそれを望んでない」

「はあ? あんたに曽井戸さんの何がわかるってーんだよ!」

「森田くんこそ、曽井戸の部下をやっているのに、あいつがトゥルーライフを本気で楽しんでいるのがわからないのか? まあ、こんなクソゲーに重課金するのは個人的にどうかと思うけど、それも本人の自由だ。あいつはあいつなりに、純粋にこのゲームを楽しんでいる」

「だから友達ごっこにつきあいますってか?」

「まあね。ごっこかどうかは個人の主観によるものだからなんともいえないけど、俺も曽井戸を友達だと思っているし、あいつが望まないかぎり興醒めする現実関係は持ち出さないって決めたんだ」


 俺が卑屈になったらこの関係は終わってしまう。

 そうなったら曽井戸はきっと悲しむだろう。

 だから、トゥルーライフのなかだけは、曽井戸と対等でありたい。


 根気よく想いを言葉に代えた。その姿勢が少なからず伝わってくれたのか、ヒートアップしていた森田くんの口調が初日くらいには落ち着いてくれた。


「……底辺なりの、ちっぽけな意地ってやつですか? 俺にはわかりませんね」

「だろうね」


 だから君とは友達になれない。


「無理に仲良くしようとは言わない。でも、あと数日顔つきあわせるくらいは我慢してくれ。頼むよ」


 森田くんは大きな舌打ちをしたものの、それ以上食ってかかることはなかった。

 あとは経験値稼ぎに戻ることに。

 黙々とした作業で、ときたま出てくる会話も「回復して」「タゲとりよろしく」「チャージ10秒」などなど必要最低限なものだけ。

 お世辞にも雰囲気がよいとはいえないけれども、約束の期限二日前にして俺はLv47に到達できた。

 アフター5で合流してきた森田くんもLv49。ヒマ人の俺とはかなり差が縮まったとはいえ、今日中には目標のLv50を達成できるだろう。

 お互いに我慢した甲斐があったというもの。これぞwinwinというやつだ。


「佐々木さん。今日は新規の高難度ダンジョンに行きません?」

「お、いいね! 最後の追い込みってわけだね」


 正直、ずっと同じ狩り場にいるのも飽きてきたところだ。

 高難度ダンジョン、一度は挑戦したいところでもあるし、自分の成長を確かめたいという気持ちもある。


「いっちょ芋討伐の前の腕試しといこうか!」


 こんな具合に意気揚々と新規ダンジョンに乗り込んでみたものの、やはり高難度と銘打つだけあって一筋縄ではいかない。

 深い洞窟内では前衛も回復役いない、タゲとりや罠外しの索的もままならず、魔法職二人というハンデは思いのほか厳しいもので、道中の歩みも遅かった。

 だが、経験値は美味い。美味いのだ。

 苦労したぶん、Lvもモリモリ上がってあっという間に1Lv上がり、森田くんもLv50に到達した。

 ただ、強敵には高火力の魔法や強力なデバフ魔法を連発する必要があったので、数時間足らずでMPが底をついた。


「どうします? アイテム使います?」

「それもいいんだけど、集中しすぎて疲れたよ。ちょっと休憩しようか」


 崖のある突端でひとまず休憩。

 敵がやってこないように隙間に氷結魔法の壁を構築することも忘れない。


「佐々木さん、回復薬とか脱出アイテムはどれくらい残ってます?」

「ポーションとエーテルはまだ余裕があるけど、逃走用の【煙玉】は4個、【妖精の羽】は使い切ってる。町に戻ったら補充しとかなきゃだね」

「そうですか。安心しました」


「何が?」と問いかけようとしたところで、背後からダメージが入った。


 バックスタブ判定でHPバーが黄色に。

 振り向いた先で、森田くんが短剣を手にしていた。


「これでダンジョンから出られませんね」


 ご丁寧に【麻痺】のバッドステータスつきだ。

 身動きを封じられた俺は森田くんにゲシゲシと蹴られることになる。

 ダメージ自体は大したことはないのだが、問題は蹴りのノックバックで徐々に崖先へ運ばれていることだ。


「そう不安そうな顔すんなって。崖から落ちても死にはしねえ。ここは一度来たことがあるからわかんだよ」

「仲直りしたつもりはなかったけど、これはちょっと洒落にならないんじゃないかな……」


 冗談であってくれ。軽いおふざけであってくれ。

 そんな願いも空しく、ここ最近大人しかった森田くんが本性を現した。


「そっから先は最深部のエリアになってっから大型モンスターがうようよ。ソロじゃ絶対に勝てないけどな」


 俺もようやく理解できた。

 悔しいが、こいつはやっぱり頭がいい。


「お前、このタイミングを待ってたんだな!」


 敢えて殺さない。そこが肝なのだ。

 デスペナは経験値の減少。そして蘇生受付時間が三時間。それをすぎるとポータルへ、つまりファーダンシティへ戻される。

 この場所はダンジョン内でも休憩地点になっていて、万が一にも同業者とかち合って蘇生させないように、なおかつ帰り道を知っている俺が自力で帰還できないよう、人目につかない最深部へ叩き落とそうというのだ。


 経験値と時間のロス。期限間近にしてこれは痛い。痛すぎる!

 ペナルティ明けの一日で3レベル上げるには時間が足りない。事実上不可能に近い。


「期日までにLv50にできなかったあんたの面目は丸潰れ。みんなからの信用も失うし、ラスボスにも挑戦できない。負け犬は負け犬らしくしてろってことだな」

「このクソ野郎がッッ」


 森田がここまで執拗な妨害をしてくるなんて予想だにしなかった。

 たかがゲームと気を抜いていたのは事実。自分の甘さを呪ってしまう。


「あんたがいなくなれば曽井戸さんもこんなゲーム引退する。だからここで死んでくれ」

「なんだ、結局拗ねているだけか。上司にかまってもらえないガキなんだな」


 もはや決裂は決定的だった。

 強がる俺を森田がゲラゲラと見下す。


「佐々木さん。説教クセーあんたが大嫌いだったよ」

「俺も、お前のガキクセー態度が大嫌いだったよ」

「はじめて意見が一致した。めでたしめでたしということで――」


 最後の一蹴りで俺の身体が地面から離れた。


「じゃあな負け犬」


 そして俺は深い深い暗闇へと落下した。


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